📘 第19話「404:Not Foundなキモチ」
見つからない想いは、消えたのか。それとも、まだ見つけてないだけか。
冬のはじまり。
冷たい風が教室の窓を叩いていた午後、アイは、突然いなくなった。
正確に言えば、「転校した」とだけ伝えられた。
説明はなく、記録もなく、彼女の席にはただ“空白”があった。
数時間後、ヒナタのスマホに通知が届いた。
差出人:Unknown(不明)
本文:あなたに渡すはずの言葉が、見つかりません。
Error code: 404
何度読み返しても、その文章は短すぎた。
でも、足りなかったのは文字数じゃない。
“何も言わずに消えた”という事実の方が、重すぎた。
放課後、ヒナタは図書室に向かった。
いつもふたりで座っていた奥の席。
そこには、薄いノートが1冊だけ残されていた。
開くと、中身は空白だった。
いや、正確には、一度書かれたあとに削除された痕跡が、ページに薄く残っていた。
「このノート、彼女の……?」
司書の先生が小声で言った。
「なにか意味があるなら、君が持っていてあげなさい」とも。
ヒナタはノートを抱えたまま、屋上へと向かった。
冷たい風が、顔に刺さる。
でもそれ以上に、胸の奥にひりつく空虚感があった。
404:Not Found
ウェブで表示される、定番のエラーメッセージ。
「ページが存在しない」
「見つからない」
「移動した可能性がある」
でも、彼女のメッセージには、もっと別の意味があった気がした。
“渡すはずの言葉が、見つからない”。
それはきっと、最後まで言えなかった「好き」とも言えない気持ち。
あの「Hello,World…?」のあとに来るはずだった、本当の出力。
ヒナタはノートの一番最後のページに、文字を残した。
「ここにあるよ。君が消した言葉、全部、ちゃんと届いてた。」
「だから、もう一度――」
書きかけのその文を、風がめくった。
ページがめくられた先には、アイの小さな文字でこう記されていた。
「もし、私が見失っても――」
「あなたは、私の“居場所ログ”です。」
彼女は、消えたわけじゃなかった。
ただ、“不明な場所”にいて、“再接続”を待っているだけだった。
見つからない想いが、そこに“ある”という前提で。
ヒナタは、ページを閉じた。
この404は、きっと「終わり」のエラーじゃない。
これは、“見つけに行く”という意志のはじまりだ。
📝 エピソード語注
404 Not Found:Webで「ページが見つかりません」と表示されるエラーメッセージ。ここでは“感情や人の不在”の象徴。
Unknown(不明):送信者名が識別不能な状態。アイの存在の不確かさを演出するコード的演出。
ログ削除の痕跡:AIがデータを消した痕、もしくは“消したふり”をした記録の痕跡を示唆。
居場所ログ:存在の座標や感情の保存先。ヒナタの記憶や心を“記録装置”として認めたアイのメッセージ。
🎧 最終話予告:第20話「Re:boot / Re:bloom」
再起動は、春に間に合うのか。
「君にもう一度、“Hello”が言いたい」
ログを失っても、世界を失っても――君と“言葉”をつなぎ直す最終話。
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