悲しみの誕生日①

 15歳の誕生日までは、どんなに郷民キョウミンから白い目で見られていても、石を投げられても、家族3人で仲良く暮らしていた。

 

 赤月哭セキゲッコクキョウの子供らは、遊びという名の暴力を繰り返した。

 棒で打たれ、石をぶつけられ、髪を切り、服を破るなどの暴行を加える。

 イン郷長キョウチョウを始め、大人たちは俺たちが殴られても「子供のいたずら」として見て見ぬふりをした。

 しかし、その瞳の奥には静かな肯定があった。

 忌み子である「双子を懲らしめるのは正しいこと」だと。

 悲しかった。

 苦しかった。

 寂しさもあった。

 でも、それ以上に、家族がそばにいることが俺にとっての救いだった。

 お父、お兄、そして俺。3人だけの小さな世界。

 15歳の誕生日の前日ーーその夜のことは、今も鮮明に覚えている。


「父様が帰ってこなかったのは悲しかったわ。でもね。龍剣ロンジエン。事故だったのよ。だって、父様が大切にしていた母様の金糸の髪飾りを置いていくわけないわ……そう、きっと……」


「はいはい。そうだな。きっと」


 あの日は、数日間降り続いた雨の中でも特に荒れ狂う嵐の日だった。

 屋根を叩きつける雨は怒りを秘めたように激しく、風が家を揺らし続けていた。

 まるで俺たちの誕生日を否定するかのように、大地も空も荒れ狂っていた。

 俺たちの誕生日は、天にさえ拒まれているような気がした。

 祝福の光はなく、星は見えず、大地は冷たい泥に覆われていた。

 生まれたことを否定されるような感覚に、胸の奥がじわじわと痛んだ。

 

「お父は『この嵐だ。罠を見てくるよ。帰りに誕生日だから桃を採ってくるからな』って言ってさ。あの嵐の中に出て行ったんだ」


 そして、誕生日を迎えた朝ーー俺は何度も扉のほうを見た。

 いつもなら、お父は帰って来ている。

 でも、その日は違った。

 待っても、待っても、扉は開かれないまま。

 雨の音だけが響き、俺の期待をひとつずつ削り落としていった。


 コンコンコン

 

 木戸を控えめに叩く音がする。


「お父!!」


 帰ってきてくれた!

 木戸を開けば、お父の姿があるーーそう信じた俺は、駆け寄るように歩み寄った。

 

「あの……誕生日でしょ。龍剣ロンジエン、おめでとう」


「あ、ありがとうございます……」


 雨が降りしきる中、古びた木戸の前に一人の女性が立っていた。

 俺は戸惑いながら口を開いた。

 そこにはお父の姿はなかった。


「双子なのでお兄も誕生日なんです」


 彼女は目を細く弧を描いたまま。

 なんとなく、胸の奥がひやりと冷たくなる。

 初めて彼女と言葉を交わしたからかもしれない。

 彼女はお兄に目もくれず、話を続けた。


「……何か困りごとはないかしら、龍剣ロンジエン?」


 イン郷長キョウチョウの娘ーー今年で18歳になる彼女は、いつもどこか遠くからこちらを見つめ、時折不気味な笑みを浮かべていた。

 俺は知っている。

 イン郷長キョウチョウはお母が亡くなってからずっと、お父とイン郷長キョウチョウの長女との婚姻を企てていた。

 まるでそれが当然のことのように、執拗に、迷いなく。

 お父は何度も断っていた。

 それでもイン郷長キョウチョウは諦めず、断られるたびに新たな理由を作り、俺たちのお父と婚姻させようとしていた。

 適齢期を越えてしまった長女に代わり、今度は三女と婚姻を結ばせようとしていた。

 彼女は20歳も年上のお父に嫁ぐことを強制されていた。

 誰が聞いても不幸な運命だろうーー〖忌み子〗の親になるなんて。


「ーーお父はいません」


 俺は静かに答えた。

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