『おっぱい揉ませてくれたら、付き合ってあげる』と叫んだら、学年一の美少女から揉んでいいと告白されたのだが
楽園
第1話
『おっぱい揉ませてくれたら、付き合ってあげてもいいぜ!!』
俺―澤田和馬の声がカフェの狭い個室に響き渡った。部屋にいたみんなの冷たい視線が俺に集中する。室内は静まり返り、気でも狂ったのか、と言う言葉のない圧力を感じた。数分間の沈黙の後、陽キャグループリーダーの山崎隼人が思い切り笑い出した。
「おいおいおいおい、流石にお前、その条件じゃ付き合ってくれる女子なんているわけないんじゃないか?」
その声で止まっていた時間が動き出したかのようにみんなが話し出す。
「いやあ、笑わせてくれるよ。その条件じゃなくても陰キャの和馬と付き合いたい女子なんているわけねえじゃん。なあ……」
「まじ、受ける! それギャグのつもりなん? 流石に寒いって」
陽キャ男子の一人、早乙女優馬がみんなに同意を求めると陽キャ女子の一人、澤田乙葉も腹を抱えて笑いだした。そこから笑いの渦が広がっていく。そんな中、相澤唯だけが固まったように微動だにしないで、俺をじっと見ていた。
「唯、これで分かっただろ。こいつはエロい妄想をずっとしてたんだよ。ムッツリスケベって言うんかな。根暗なやつほど、本心は女とやりたくて仕方がねえんだよ。なっ!」
俺に嬉しそうに同意を求める。別に気が狂ったわけでも、本気で応えてくれる女子がいると思ったわけでもなかった。ただ、俺を呼んだにも関わらず、異物を見るようなみんなの視線が気に入らなかっただけだ。
個室カフェにいるのは、いわゆる陽キャ連中達だ。彼らはほぼ同じメンバーでいつも遊んでいる。だから、今日だけなぜ俺を誘ったのか、その意味が分からなくて、気が触れたようなことを言って、その反応が見たのだった。
もちろん、俺が想像した通り、陽キャ連中達は俺を完全に異物と見なし口撃してきた。なら、俺がここにいる必要はないだろ。
「じゃあ、これ今日の飲み物代だから、呼んでくれてありがとうな。帰るよ!」
(えっ、和馬くんちょっと待って!?)
一瞬、唯の口元がそう動いたような気がした。もちろんこれは俺の願望で、そんなことあるはずがない。ただ、唯だけは他の連中とは違うと信じたかった。
切れ長の大きな瞳に童顔のあどけない天使のような笑顔。その笑顔は陰キャの俺にさえ向けられていた。いつも優しくて、何か困っているとどうしたの、って声をかけてくれる。カースト上位にいる唯はいつも優しく、今日もボブカットの髪を揺らし走って来て、俺が参加するのか聞いてくれた。でも、今の態度で全てがわかった。陰キャの俺がずっとボッチなのを憐れんで声をかけてくれていただけだったのだ。
俺は金をテーブルに置くと部屋を飛び出した。誰も俺を呼び止めることさえしない。それもそのはずだ。誰も俺を必要としていないのだから……。喫茶店を出ると、さっきまで晴天だった空が雲に覆われていた。数歩歩くとポツリポツリと雨が降り出す。それは、すぐ強い雨に変わった。
ああ、それにしても本当につまらない。分かっていたら行くんじゃなかった。隼人がどうしても来て欲しいと言ったから行ったのだ。呼ばれたから行ったのに、まさか異物を見る目で迎えられるなんて思ってもみなかった。
傘なんて用意してなかったから、少し歩くと雨で制服は重くなった。忘れたい、全て洗い流して欲しい。道行く人は例外なく俺を不思議そうに見ていた。そりゃそうだ。傘もささずに歩く今の俺は滑稽だ。きっと雨だって笑っているに違いない。
「待って!!」
喫茶店から数十歩歩いたところで、後ろから呼び止められた。
「えっ!?」
声だけでわかる。唯だ!! なぜ、唯が俺を追ってきたのか。なぜ、呼び止めたのか分からなかった。ただ、さっきの喫茶店の光景を思い出し、不信感が頭の中を満たす。きっと、雨が降って来たので俺をからかおうと、陽キャ連中達と追いかけてきたのだ。ここで振り返ったら、惨めになるだけだ。そう思った俺は唯の声を無視して家に向かって歩いた。
「和馬くん、待って!! ごめんね、こんなことになるなら、わたし参加なんてしなかったよ!」
唯の優しい言葉に一瞬振り返りたくなるが、ここは心を鬼にしないとならない。これは俺の心の隙につけこむ罠だ。ここで振り返ったら、隠れていた陽キャ連中達が出てきて、傘もささず歩く俺をからかうのだ。もう嫌だ。これ以上は傷つきたくない。
「ねえ、どうしたら許してくれるかな!? ねえ……」
唯は泣きそうな声で俺にお願いしてくるが、それこそ絶対ありえない。
俺は唯の言葉を無視して人通りのある歓楽街を通り過ぎ、人気のない公園に差し掛かった。ここを通り過ぎれば、もう俺の住むマンションは目の前だ。だが、唯はまだ追って来ていた。流石にずぶ濡れになっている俺を嘲笑うにしては、時間をかけすぎている。なぜ、諦めて喫茶店に戻らないのだ。そう思った瞬間、背中に強い衝撃を感じた。それと同時に唯の柔らかい感触と暖かさを感じる。
「えっ!?」
「ねえ、本当におっぱい揉ませたら、付き合ってくれるの!?」
「へっ!?」
俺を抱きしめる唯の身体は雨に濡れていた。唯も傘を持っていなかったのだ。そう言えば、ここまで傘に当たる雨音が聞こえなかった。びしょ濡れになってまで、俺をからかおうとするわけがない。
俺が振り向くと、唯の身体は雨に濡れ肌着まで透けていた。
――――――――
ここから時が遡って、今日の四限目が終わった瞬間。土曜日の教室では陽キャ連中が放課後、カラオケ行こう、とか喫茶店で話そうよとか話している声が聞こえた。
「なあ、唯も一緒に行かね? たまにはいいんだろ! お前もカースト上位グループの一人なんだからよ」
隼人が唯に話しかけている声が聞こえた。流石、イケメンの隼人だ。唯に話しかける、しかも誘うなんて俺には絶対にできない。
唯は何か話しているが、俺に関係がある事ではない。俺は家に帰ろうと鞄を持って教室を出た。
「和馬、ちょっと待て! お、お前……も一緒に来ないか?」
「えっ!?」
正直なぜ、呼び止められたのか。俺が誘われたのか分からなかった。ただ、その時の俺は陽キャグループに誘われて嬉しいとさえ思った。
「えっ!? なぜ俺を……」
「まあ、たまにはいいだろ! なあ!」
俺は一瞬躊躇ったが、後ろの唯が俺をじっと見ていたから思わずこう聞いた。
「えと、相澤さんも……来るの!?」
「もちろん、唯も来るよな!!」
「……えと、澤田くんはどうするの!?」
その言葉に俺が来るのなら参加すると言っているような気がして、俺は思わず行くよとニッコリと笑ったのだった。
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