第三王女は、前世の記憶を思い出した。
池中 織奈
第一章 前世の記憶を思い出す第三王女
プロローグ
ラシェンダ王国。
広大な国土を持つ大国を治める国王陛下には、三人の王子と五人の姫君が居る。
国民達から慕われる王族たち。
その中でたった一人だけ異質な姫君が居る。
――それは第三王女であるグレーシカ・ラシェンダ。
第一王子殿下と同じ年に産まれた踊り子の娘。異国出身だという母親譲りの夜を思わせる漆黒の髪を持つ。そして瞳に関しては、左右で色が異なると噂されている。濃い藍色の瞳と、金色の瞳を持つオッドアイ。
その少女は様々な噂がされている。
片目を隠して人々の前に顔を出しているものの、その際にはいつも家族に甘えているらしい。母親を亡くしたこともあり、それ以来、我儘に振る舞っているという。
しかし他の王族たちは、それを許しているようだ。
母親のいない、腫物の王女。税金を食いつぶしている王家の汚点。
そう、言われている。
第三王女は第一王子と同じ時期に産まれたのもあり、放っておかれた。王妃の息子であり、次期国王を優先するのは当たり前のことであった。
それに加えてその頃から、王の側室への寵愛は失われつつあった。
それもあって母子共に国内でも、気に留めなくて良い存在とそう思われたのも無理はない。
そういった様々なことが重なったからこそ、グレーシカ・ラシェンダが実際に家族と交友を持つようになるのは、側室が亡くなり、またしばらく経過してからである。
第一王子は少しだけ病弱であった。
折角産まれた王子殿下がこのまま亡くなってしまうのではないかと、王宮に仕える者達は誰もが気が気でない状況であり、第三王女のことを彼らが思い出したのは随分後だったのである。
――グレーシカ・ラシェンダは、王や側室とはあまり似ていない平凡気味の見た目であった。
そのことに王は大変残念がったという。
それでいて彼女は他の王女達と比べてどこか物足りないという一言に尽きる。勉学も、王女としての作法も、魔術も……それこそそれなりにしか出来ない。
そのこともあり、余計に彼女は擦れてしまったと噂されている。何か一つでも秀でたものがあれば、こんな風に成長はしなかっただろうと。
今年十三歳になるというのにも関わらず、いつだって乳母であり、教育係の女性に甘えてばかりであり、そのことを注意をされていることもしばしばある。
王子殿下や王女殿下の中で、唯一の問題児であると噂されている彼女――いずれ政略結婚に出す際にこのままでは問題だろう。
今日も今日とて、第三王女であるグレーシカ・ラシェンダは与えられた勉強をサボっていると噂されている。どうやら彼女はパーティーなどの華やかな場の方が好きらしかった。
「あー……?」
さて、その頃――王族の血を正しく引く、グレーシカ・ラシェンダ本人はと言えば、床に座り込み窓の外を困惑した様子で見つめていた。
その場所は、王族のいる場所としては不適切である。
掃除などが行き届いておらず、窓も汚れている。家具などにも埃が被っており、この場にほとんど人が訪れていないことは分かるだろう。
それでいてその真っ黒な髪は、手入れがされていないからかぼさぼさだ。左目は濃い藍色、右目は黄金に輝く瞳。ぼーっと、外のことを見据えていたグレーシカは、頭の中をなんとか整理をする。
「……私は、グレーシカ・ラシェンダ。この国の第三王女。……国王陛下と、側室の、お母様の娘」
どこかとぎれとぎれな言葉になってしまっているのは、彼女があまり誰かと会話を交わすことなどなかったからである。
「この状況は、おかしい」
そしてあたりを見渡し、今の状況がおかしい……と気づいたのは今、この時――グレーシカが前世の記憶を思い出してしまったからである。
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