第25話 猪こま団子の煮物①
前夜は生憎の雨模様だったものの、本日は快晴に恵まれた。
空は青々と晴れ渡り、前夜の雨で洗われたのだろうか、その澄んだ空気は太陽の陽気なまでの光を、より一層輝かせている。
王都南門から外に出た王宮第三騎士隊は、街道から少しばかり離れた場所にある、青々と広がった大草原で、各々の手に棘のついた棍棒を所持しながら、平野に蔓延る魔虫草の駆除に挑もうとしていた。
魔虫草はその名の通りに虫のような見目をした花が咲く魔草で、『魔』がつくことから分かるように魔物の一種なのである。
虫の集団がそこに居るように見せかけて、その虫を捕食しようと近付いてきた獲物を、虫の形をした花を破裂させることで花粉を撒き散らし獲物を狩る。
要するに食肉植物の中でも毒草にあたる魔草であった。
毒とは言っても花粉であって、吸えば麻痺を起こして動けなくなるが、吸わなければどうと言う事はない。
思い切り吸い込んで全身が麻痺した場合は、倒れ込んだその場所で、魔虫草の葉茎から分泌される消化液に徐々に溶かされ分解されていく死を迎えることになるのだが。
つまりはしっかりとマスクをして吸わないように気を付けさえすれば、一般的な平民であっても駆除は可能な弱い魔物であると言えた。
一体一体は強くないのだ。
だと言うのに、王都を守るはずのアドルファス属する第三騎士隊どころか、第二から第四までがこの魔物討伐に駆り出されたのには訳があった。
何が影響したものか、今年に限って王都門のすぐ近くに馬鹿かと言いたくなるくらい大量に繁ったのである。
そのせいで王都外周のあちこちでこの魔虫草が破裂し、小型の魔獣が麻痺を起こしてあちらこちらで倒れ込み消化され始めたのだ。
当然動けなくなった生物というのはいずれ死んで朽ちていくのが摂理というものではあるが、腐敗した死肉の臭気がより高位の魔獣を呼び込み、そのあまりの数に街道を通って王都に向かってくる商人や、王都から各々の領地へ向かう貴族たちが難儀した。
そうした人々からの訴えを受けたこの国の貴きお方が、ならば騎士隊を派遣するから程良く草を刈らせるようにと指示を出した。
殲滅ではなく程良くなのは、魔物的な生態系と王都の周辺の守りを考えてのことだ。
小型の魔物を適度に間引いてくれる一助として、魔虫草も役立ってくれているという一面がある。
殲滅されては困るのだ。
かといって大繁殖されても大変に困るのだが。
そうして王族の方々を警護する第一騎士隊だけを残して、他の部隊で駆除を行う為にアドルファスは門を出ることになった。
狩るのは良いのだ。
数が多すぎて面倒だという気持ちもあるが、これもまた国民のためになるのだし、出動人数もまあ多い。
魔虫草を例年通りくらいにまで減らせれば良いとのことだから、まあ今日一日あれば終わるだろう程度の任務と言えた。
問題は、この魔虫草が麻痺毒を振り撒くことで、風に乗った粉末が、万が一にも王都内に入り込み、守るはずの国民に影響を及ぼす可能性があることだった。
この魔物の一般的な駆除方法とは、一つ一つの花を大きな袋で囲い込み、花粉が飛ばないよう袋の内部で破裂させてから根本を刈り込むことである。
しかしながら今回はこの膨大な量だ。
いちいち包んでいたのではとてつもない時間がかかるのは誰の目にも明白だった。
アドルファスは思った。
きっと魔導師なら、アドルファスの良く知る彼らなら、あの非常識さを持って、この花粉をなんとかする術を思い付くに違いない、と。
あちらも一応王宮に仕える魔導師なのだから、騎士隊とは同士だ。
きっと協力してくれるはずだろう。
そもそも何故陛下は騎士隊を3部隊も出したというのに魔導部隊は派遣してくれなかったのか。ズルくないか?
なのでアドルファスは上司であるアンドリュー・ガードナー(45)独身に向かってこう言ったのだ。
「陛下に掛け合って魔導部隊の何人か借りて来ませんか?」
と。
「良いなそれ」、と言った上司が本当に掛け合った結果、陛下が、「なんだ?騎士だけでは無理だってのかい?呼んでやっても構わんがなぁ…アイツらが言う事聞くかねぇ?」と第二魔導部隊の隊長ディラン・カートライト(53)未婚子持ちに伝えたところ「魔虫草ぉ?食えんのだよなぁー」と返ってきたが、アンドリューが「アドルファスが言い出しっぺです」と言ったところ、「アイツはそろそろうちの身内だから、一応2名程は寄越してやる」と言ったのだとか。
こっそり身内判定に喜んだアドルファスである。
そうしてまさかの合同任務となって、軽い気持ちでホイホイオーケーした魔導師が、当然のようにアリアとチェイス・アーチャー(30)未婚の2名だった。
散歩気分での参加だった。
麻痺毒の粉末を始末するためだけに呼ばれた二人は、この相談を受け、すぐさま方針を切り出した。
「回収した麻痺毒を再利用しようって言うんじゃないんでしょ?
だったら然程難しくはないよ。
風で一箇所に集めて焼却すれば終わるでしょ。
一度破壊したら次の虫型花弁が形成されるまで何日か掛かるはずだから、こう、だだーって流れ作業的に破壊して、キューンっズバーッて一気に済ました方が楽だと思うよ。」
オノマトペの多いアリアのセリフを受けて、チェイスが分かりやすく解説を入れてくれた。
「つまりはこうだな?
マスクをつけた騎士部隊員が、棍棒か何かで次々破裂させていく。
破裂した時に撒き散らされる毒粉は、俺とアリアが魔術で一箇所に回収して焼き払う。
俺たちが粉を回収するのはすぐに終わるから、そうしたら騎士部隊がその手の獲物を草刈り鎌に持ち替えて、根元から刈り込んでいく。」
アリアはうんうんと頷いた。
わざわざ言い直される理由は分からないが、伝わったならそれでいい。
「簡単に言ってますけど、それってめちゃくちゃ高度な魔術ですよね?
お二人だけで出来ますか?」
「俺とアリアならいけるだろ。
まず俺が麻痺毒粉を指定した風魔術で、所定の場所まで粉を吹き流す。
その粉を逃さないように閉じ込めるのがアリアだ。
焼くときは二人でやってもいいし、魔力不足の時には、なんなら普通に着火しても構わんが、自然の火では時間がかかるぞ?」
「アリアはそれで大丈夫?
二人だけだと負担が掛かったりしてないか?」
呼んだのはアドルファスだと聞いたのだが、どうやら思ったよりも広範囲になりそうな現場で、二人しかいない魔導師にかかる負担が大きいのではと心配しているようだった。
「大丈夫!収納するのに関して私以上の魔導師はいないんだって証明して差し上げよう!
って大きく言ったけど、どっちかというと私は箱作れば済むだけだから大したことないよ。
広範囲に風を起こすチェイスのが負担が大きいと思う。
だから燃やすのは私がするね。」
「アリア…。
うん、わかった。なら、その作戦で行こう。
隊長に伝えて準備に入る。
そうしたら、二人の合図で作戦開始だ。」
「アドルの部隊ははそれで良くても、他の騎士部隊の人もいるでしょう?
そっちの人達からすれば、ゲストみたいに参加してきただけの魔導部隊員が何言ってんだかみたいにならない?」
「気にしなくて大丈夫だ。
今年の魔虫草の蔓延る平野をその目に映した瞬間から、我々騎士隊の面々は皆、絶望したような顔をしていた。
何より面倒だった作業を省けて安全性も買えるんだから、正直言って反対するような大馬鹿者はここにいないと断言する。」
アドルファスだけではなかった。
周囲で話だけは聞いていたらしい他の騎士たちも、力強く頷いている。
「ならそれで行こう。
私の方は問題ないけど、チェイスの魔術には効果範囲があるから、そこから食み出ないようにだけ気をつけて。」
「どの辺りまでなら範囲内なんだ?」
「俺を中心に、半径2キロメートル、が限界といったところかね?
それ以上は無理だと思ってくれればいい。
遠すぎると粉を吸い寄せきれない可能性があるからな。」
神妙な表情の二人に、アドルファスは言い切った。
「…騎士隊としてはそんな広範囲に広がる予定はないから、平気かな。」
殲滅はしない、と伝えたような気がしたが、伝わらなかったのだろうか。
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