第31話 セブンの故郷



 数か月。


 それからは穏やかな時間が流れた。


 仲間を屋敷に招いて、楽しく過ごしたり、時に任務をこなして人々を助けたりしながら。


 それぞれの誕生日や、国の記念日に贈り物を用意したり、用意されたりと。


 シャックスは、人生で一番幸せな日々を送っていた。


 そんな中で、セブンが故郷に帰るといった。

 セブンは一人で向かう予定だったが、シャックスも同行することを決めた。


 それはセブンの故郷であるリシャール村が、あまり良いところではないからだ。


 一緒に暮らしている時に聞いていたセブンの過去を思い出したシャックスは、彼女に頼みこむ。


 はじめは渋っていたが、「将来のことを考えるために、色々なものを見ておきたい」とシャックスがいうと、セブンは断れずに同行を許可したのだった。


 そういったわけで、荷物をまとめたシャックス達は、片道三ヶ月ほどの旅にでた。


 カーラに留守を任せ、当然特別な任務などにも対応できなくなるため、国にも知らせてから。


 



 シャックスとセブンはしばらく旅でのんびりとした時間を過ごす。


 旅の間に見たものや聞いたものは、一人でいた時とは違ったものに感じられ、シャックスは新鮮だった。


 多くの時間を孤独に過ごしてきたセブンも同様に、同じ気持ちを抱いていた。


 そんな中、たどり着いたのは、険しい山脈の中にあるセブンの故郷リシャール村。


 古びた村で、他の地域で見かけるような便利な生活道具や魔道具などは存在せず、文明は一つ手前であるかのように感じられる。


 そこはまるで、時代に取り残されたような場所であった。


 そんなリシャール村の者たちは、歓待ムードで接した。


「よく戻ってきてくれたね」

「お前が帰ってくれるのをみんな待ち望んでいたんだよ」

「こんなにも成功するとは思わなかった」


 皆、口々にセブンのことを褒め称えるが、謝罪の言葉はなかった。


 彼らの態度を見たシャックスは、心の中で密やかに憤る。


 セブンの事を無能だと言って、ほったらかしにしていたくせにと彼は憤るがセブンは平静だった。


 ここで憤りをあらわにすることは、セブンが望んでいないと思ったため、シャックスは何も言わなかった。


 そんなリシャール村の人間たちは、セブンの優秀な血を残そうとして、次々に男性をすすめる。


 そろそろ家庭を作っただろうだといい、自慢の息子たちを紹介してやまなかった。


「うちにいい息子がいるんだよ。少し話をしてくれないかい?」

「お前も一人だと色々大変だろう。一緒にいてくれる伴侶を考えるべきだ」

「故郷に恩返しするべき時がきたんだ。そのために帰ってきたんだろう?」


 シャックスが、それらに辟易したころ、のらりくらりとやり過ごしていたセブンが歓待の場から離れ、疲れているから昔住んでいた家で眠ると伝えた。


 しかし、セブンはそれ以上リシャール村にとどまるつもりはなかった。


 荷物をとくことのなかったセブンは、そのまま村を後にするのだった。


 最後に昔住んでいた家を一目見てから、背を向ける。


 その家はボロボロで、人の気配はない。


 屋根が抜けて何年も経過しているらしく、放っておけばそのまま朽ちていくような有り様だった。


 それは、村人たちの本心を雄弁に表していた。


 セブンに申し訳ないと思っていたなら、帰って来るかもしれない場所をしっかりと管理しているはずだった。


 しかし、彼らにとっては古びてしまったものは価値のないものだった。


 歓待の場でセブンが昔の家に帰るといった時、あの家は使い物にはならないといった者はいなかった。


 それは、家の事など気にもかけていない証拠だった。


「彼らにそのことを指摘したら、家なんて新しいものを立てればいいじゃないかーーって言うだけでしょうね。そういう問題ではないというのに」


 罪悪感を抱いていて贖罪をするわけでも、力ある人間の居場所に敬意を払うわけでもない


 リシャール村の人間は、そんな者たちだった。


「もしかしたら昔とは何か変わっているかもしれないと思ったけど。びっくりするほど記憶の通りだったわ」


 セブンは、悲しそうな表情でそういった。


 そして「見切りをつけられてよかった。私はこの村とは関係のない人間だって思うことにするわ」と言いながら、彼女は自分の過去と決別したのだった。




 故郷をさる前に、セブンは祠の様子を見ていくことにした。

 その祠はずっと前からあるものだ。


 セブンはなぜか子供の頃から、その祠の存在が気になっていた。


 村を出る歳に、ボロボロで今にも壊れそうだったため、現在の様子が気がかりだったのだ。


 そのような理由で祠を確認すると、セブンの記憶にあるより、ボロボロになっていた。


 そして、どこか禍々しい気を発していたのだった。


「なにか嫌なことが起こる予感がするわね」


 そういったセブンの予感を裏付けるように、山を降りる際にはやたらスケルトンやゴースト系のモンスターが目についた。






 はるか昔の時代。


 過去に飛ばされたハクは、未踏大陸にて命を落とした。


 そして、祠の下で眠ることになったのだが、彼のその後の魂は転生したシャックスの魂によりそう事になり、再び現代で目覚めたのだった。


 しかし、一つの肉体に二つの魂がある影響で、シャックスの剣の才能が眠ったままになってしまったのだ。


 ハクはこれをなんとかしたいと考えているが、今までは解決できなかった。


 しかし、前世で使っていた2本の剣と再び出会ったことで、眠っていた剣の才能は引き出された。


 ハクは今までシャックスの様子を、体の中から見守ってきたが、もう大丈夫かもしれないと思いかけていた。


 魔王復活の気配がするまでは。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る