第1話:バブルでバブみ? 〜消しゴム並べと心の順番〜

🧠 キーワード:バブルソート(隣同士を比べて交換する並び替え)

放課後、部室。

「つまり、これはただの並び替えじゃない。これは――“浮かび上がる感情のシミュレーション”だよ」


言いながら、算法遥斗は教室の机に消しゴムを10個、ずらりと並べた。

小さいの、大きいの、キャラ物、無印、ちょっと使いかけのやつ。


「“並べる”って、つまり“向き合う”ってことなんだよ。現実と、そして自分の“推し”と」


「また始まったよ部長のポエムロジック……」

真中紗和は呆れながらも、なんだかんだで隣に座る。


こと葉はというと、教室の隅で、ホワイトボードに「バブる」とだけ書いて、フリクションでうねうね消したり書いたりしていた。趣味らしい。


遥斗、操作開始。

「さて。アルゴ、モード切り替え。“消しゴムソーティングバトル、バブル式”」


「了解です。交換判定モード、起動。しゃぼんっ」


パソコン画面の中で、キャラ化されたアルゴがしゃぼん玉の中から顔を出す。

妙に癖のある演出だが、慣れるとかわいい。ような気もする。


「じゃ、行こうか。

 左から、隣のふたつを比べて――大きいほうを右へ、ぽいっ」


紗和は順番に消しゴムを比べていく。


2つ比べる。交換。

次の2つ。交換。

右端にどんどん“大きい”のが浮かび上がっていく。


「……つまりこれは、人気投票ですね」


「いや、それはちょっと違う。

 人気ってのは“目立つ”ってことだけど、これは“順序に意味がある”って話。

 たとえば、感情だって、比べないと“どっちが大きいか”ってわかんない」


「……あ。じゃあ、好きと嫌いも?」


「そう。“推し”と“元カレ”を比べてこそ、“現在地”が浮かび上がる」


こと葉、急に割り込む。

「でもさ、それって比べる順番で結果変わんない?」


「ナイス突っ込み」遥斗がうれしそうに指を鳴らす。


「それがバブルソートの弱点。隣としか比べられないから、効率が悪い。

 でも逆にいえば、“となりの誰か”をちゃんと見て動くのが、この手法のいいところなんだ」


並び終わる。

紗和の手で整った消しゴムたちは、きれいにサイズ順に整列していた。


「じゃあ、クイズです」

遥斗が最後に言う。


「この並べ方、消しゴムが30個になったら、何回くらい比べることになると思う?」


アルゴが小さく表示したヒント:


バブルソートの最悪ケースでは、n個の消しゴムを(n-1)回、(n-1)回、……と比べることになる。


だから、合計で (n-1) + (n-2) + …… + 1 = n(n-1)/2 回。


紗和、考える。

「30×29÷2……ってことは、435回? げ、地味にしんど」


「でも、その“地味にしんどい”のが青春ってもんだろう?」

遥斗はまたポエムっぽいことを言って、椅子をくるっと回す。


🧠 “今日のアルゴリズムまとめ”

バブルソートは、隣同士を比べて並べ替える方法。


「どっちが大きいか」「どっちが好きか」は、比べて初めてわかる。


シンプルだけど、ちょっと時間がかかる。そのぶん、目の前をちゃんと見る。


❓“考えてみよう”クイズ

バブルソートで、消しゴムが100個あったら、最大何回の比較が必要?


バブルソートじゃなくて、「全体の中からいちばん大きいのを探してから動かす」方法ってないの?


次回 → 第2話「半分こハート 〜君と分かちあう、探しもの〜」

(テーマ:二分探索)


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