第14話 大空の終わり
いつもと同じように太陽が昇り、しかしいつもと違う一日が始まる。
俺の人生を反映するかのような輝かしい天気の朝。
學校に到着すると、梶が女子たちに囲まれている光景があった。
彼の隣の席に座るが、話をできそうもない。
彼の望んでいた状態に俺は微笑を浮かべて眺めた。
「よお、来てるなら言えよ」
「おはよう。邪魔しちゃ悪いと思ってさ」
「邪魔なわけないだろ。でも話は後でしようぜ」
「ああ」
楽しそうな梶。
俺は俺で幸せをかみしめながら大きく伸びをする。
すると視界の端に、苛立って梶を睨む大空の姿が見えた。
相当悔しそうだな……まぁ自分のハーレムを奪われたんだ。
内心穏やかじゃないのは仕方ないことか。
人殺しをしそうな目つきの大空を見て、俺は心の内で笑ってしまう。
これまでのあいつの所業を思い返すと、ざまあみろとしか思えない。
そしてそんなタイミングで入り口のドアが開く。
そこには弁当箱を持った美海がおり、笑顔でこちらに向かって走って来る。
「美海!」
大空が嬉しそうに立ち上がり、美海を抱きしめるかの如く両手を大きく広げる。
愛しの彼女が弁当を持って来てくれた。
まさに陰激したような表情だ。
「もう怒ってないんだな。俺も悪かっ――」
「樹くん、お弁当持ってきたよ」
「ありがとう。後で一緒に食べるのに、わざわざ持って来てくれたんだ」
「だって樹くんに会いたかったんだもん。今日は友達と登校する約束してたけど、明日からはまた一緒に来ようね」
俺に弁当を手渡してくれる美海。
満面の笑みで幸せそうな様子。
この笑顔を手に入れたことを誇りに思う。
なんて素敵な彼女なのだろう。
一緒守っていくもんね!
「美海……お前、何やってんだよ」
「ん? 何って?」
「何で他の男に弁当渡して、俺に弁当作って来てないんだって言ってんの!」
「彼氏に弁当作るの、おかしなこと?」
「彼氏……?」
感情を露わにする大空であったが、美海の思いがけない言葉に呆然とする。
彼女の彼氏は自分しかいないと思っていたのだろう。
でも残念。
彼女と付き合っているのは俺なのだ。
「ああ。俺たち付き合い始めたから」
「おま……お前……お前ぇええええええええええええええええええ!!」
感情を爆発させた大空が殴りかかろうとしてくる。
全部想定内のことだ。
そろそろこいつとは決着をつけないと思っていたところだし、良い機会だろう。
大空が目を吊り上げて拳を振り上げる。
「やめて、空くん!」
「うるせえ!」
美海の静止を無視し、俺を殴る大空。
しかし痛みはそう大きくない。
アドレナリンが出ているということもあるだろうが、それなりに体を鍛えているのでダメージをそう負っていない。
体が強くなり、大空程度の筋力では相手にならないようだ。
もう少し痛いと思っていたが、大したことないんだな。
俺が余裕の表情を見せると、大空は冷静になったのか警戒し始めた。
そんな様子を見ていた女子たちが悲鳴を上げ、梶が立ち上がる。
「喧嘩なら俺が代わりにやってやる……って言いたいところだけど、お前詰んでるからな」
「はぁ!?」
「分からないのか。梶が言っている言葉の意味が」
「分かるかよ、バカ共が」
俺と梶は鼻で笑う。
美海もこれから起きることを理解しているのか、少し寂しそうに、でも仕方の無いことだとため息をついた。
「とりあえず職員室に行って来る。殴られたことを報告してくるよ」
「お前、卑怯なやつだな。喧嘩一つもできないのか?」
「できるよ。俺たちなりの喧嘩はな」
「…………」
冷たい目でそう言い放つと、大空は状況を理解したのか青い顔をしていた。
暴力に訴えるのではなく、別の方法でこいつをボコボコにする。
その計画がここで作動するのだ。
「鈴井のやつ、相当証拠集めて弁護士を雇ったみたいだぜ。色々やらかしてるから、確実に高校はクビになるだろうな」
「なっ……」
「てめえみたいなクズを地獄に叩き落とすには、学校を通さないようにとアドバイスしておいた。それに楠に暴力を振るったんだ。問題ばかり起こしてるお前を、学校側は守ろうとしないだろうな」
ガクガク震える大空の足元。
自分がしてきたこと、事の重大性をゆっくりと理解していく。
調べると他にも余罪があったようで、数人イジメられている者がいた。
その人物たちを説得し、彼に対する制裁を考えている。
鈴井の雇った弁護士は正義感の強い人物らしく、少年院送致まで視野に入れているとのこと。
イジメの経験がある弁護士でもあるから、大空のことが許せないようだ。
「色々しでかしすぎだ。少年院は覚悟しておけ」
「ちょっと待て……そんなことになったら、俺の人生終わりじゃないか!」
「それで? お前がやって来たことの結果だろ。美海を大事にしなかったのもお前だしな」
泣き出しそうな大空は、懇願するような表情で美海の方を見る。
「頼むよ美海。俺のことを助けてくれ。俺は俺なりにお前を大事にしてきたつもりなんだ。こいつを説得してくれないか?」
「ごめんね。ババアみたいな食事ばかり作って。でもそんなのでも喜んでくれるの、樹くんは。空くんのために説得なんてするわけないじゃない。私はこれから先、永遠に樹くんの味方だから」
「ああ……」
自分の発言を美海に知られていたことに絶望顔をする大空。
先日芳雄くんが美海に話した内容は、このことだったようだ。
俺の口からより第三者から知らせる方が、俺の評価が高まるだろうという芳雄くんの判断。
自分の好きな子が傷つくのが嫌で、動画は見せなかった。
でも芳雄くんが動画を美海に見せたことによって彼女は事実を知っている。
俺は大空に近づき、彼の耳元で囁く。
「この間、美海は俺の家に泊まったんだ。意味分るよな」
「ううう……」
彼の中にあるであろう、最後の希望。
それを断ち切る一言は大空の心をズタボロにする。
大空の足元が歪み、ペタンと腰が抜け、涙を流して笑い出してしまった。
「終わりだ……終わりだ……なんでこうなってしまったんだ」
「だから言ってるだろ。全部お前のやって来た結果だって」
ハーレムを失い、美海を失い、明るい人生の道を断たれた大空。
情けない彼を見て、元取り巻きの女子たちは飽きれた様子。
イジメなどをするような男だと思っていなかったらしく、残っていた情さえも消え失せたようだ。
絶望している大空であるが、俺は容赦はしない。
こいつの所為で傷ついた者たちがおり、美海が長年不幸になってきた。
ただ裁きを受ける時が来たのだ。
そう、ただそれだけの話なのである。
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