男女比1:5の世界で主人公面した調子に乗っている爽やかクソ野郎のハーレム、ごっそりNTRせていただくことにしました。
大田 明
第1話 持たざる者
世界には持つ者と持たざる者がいる。
しかし本当に、持たざる者は持つ者に敵わないのだろうか――?
◆◆◆◆◆◆◆
俺の名前は
17歳の高校二年生だ。
特に目立ったところはなく、運動は普通、勉強も普通にできる程度の『平凡』という言葉がよく似合う男。
不細工でもないしカッコよくもない……うん、不細工じゃないと信じたい。
普段から目立たない友人と共に陰で住まう生活をしている。
なんてカッコいい言い方をしているが、ただ明るくない生活をしているだけだ。
ああ、なんて寂しい人生。
俺が通っている高校、陣内高校。
この学校は女子5名に対し、男子は1名。
というか、ここだからそうなのではない。
俺が住むこの世界は、男女比1:5の世界なのだ。
何十年か前に流行したウィルスが原因で、女性が男子を妊娠しにくくなったらしく、気が付けば男女比はこのようなことになった。
それから自分には関係無い話だが、現在一夫多妻制が常識となっている。
男の数が少ないので、数の多い女性を一人の男性が娶ってもいいということになった。
もう一度言うが俺には関係の無い話だ。
だって多くの女性と結婚できるのは選ばれた男のみ。
普通の男性は一人の女性と結婚できたら御の字だ。
そう。
俺のような暗く平凡な人間ではなく、明るく気高く選ばれし人間。
そういうの者が一夫多妻制の恩恵を授かれるのだ。
例えば――クラスメイトの
映画やアニメなんかの主人公を地で行くような、キラキラした男子が多くの女性と結婚できるのだ。
授業が始まる前の教室。
沢山の女子に囲まれ、俺は友人である
空に浮かぶ太陽は眩しく、昼寝するのに気持ちよさそうな天気。
だが梶は気分が悪そうな顔をして、クラスの中央付近を睨みつけていた。
「どうしたんだよ、梶」
「楠は気にならねえのかよ。大空のこと」
「別に気にならないけど、何で?」
「何でってお前……」
少し伸びた髪に平均的な容姿の持ち主である梶は、大袈裟な態度で話を続ける。
その表情には怒りと確かな妬みが確認できた。
「羨ましいだろ! 何であんなにモテるんだよ、あいつは!」
「だって俺たちと違ってカッコいいし、スポーツもできるし、勉強もできるし。基本的なスペックが違うだろ」
「スペックが何だ! 女たちは男の見る目が無さ過ぎるんだよ。あんな風に外面ばかりに騙されていたら、あいつの奥さんにされちまうぞ!」
「それって別に悪いことじゃないんじゃない?」
大興奮する梶であるが、そこにいる女子たちは誰も気にしない。
クラスの中……いや、学校の中での中心人物、大空空に熱を上げているからだ。
「大空くん、昨日は何してたの?」
「今日もカッコいいんだけど、何食べたらそんなにカッコよくなるの?」
「ねえ、学校が終わったらデートしない?」
モテてモテてモテまくる、まさにハーレム状態。
女子に囲まれ、まんざらでも無い顔をしている男子。
綺麗に染められた茶髪に、端正な顔立ち。
身長は高く足が長く、神様なんでそんなに不公平なんですか?
と聞きたくなるほど全てを持ち合わせた美男子、大空空。
彼は女子たちと楽しそうに会話をしつつ、一瞬だけこちらをチラッと見た。
「デートしてもいいんだけどさ、今日は用事があるんだよ。悪いな」
「ええっ、時間作ってよ」
「作れないときだってあるから勘弁してくれ。その代わり、次は最優先で時間取るからさ」
大空の一言で女子たちのボルテージがあがる。
「約束だよ!?」
「私も最優先してぇええええ!」
「私も私も! ってか次は私だから!」
数少ない男子。
その中の数少ない完璧な大空に女子たちはアイドルへ群がるファンの如く、勢いのままに詰め寄っている。
その中心で苦笑いしている大空。
どれだけ女子の比率が高かろうと、モテないやつはモテないのだ。
ああいうずば抜けた男が全てをかっさらっていくんだなと、俺は世界の理を見たような気がしていた。
「空くん」
「おお、
「おはよう。今日も弁当作ってきたよ」
「サンキュー、弁当いつも助かるよ」
男子の中で目立つ存在、大空。
そして女子の中でもひときわ目立つ存在がいる。
それが彼女、
黒髪でポニーテールを作った正統派美少女。
唇は桃色で吐息は甘そうな予感。
大きな瞳に長いまつげ、身長は平均的だろうがプロポーションは抜群。
彼女の登場に、女子たちはぐうの音も出ないでいた。
女子が大空に弁当を作ってきたとなると敵とみなされるはずななのだが、彼女には敵わないと考えているのか、口出しをしない。
彼女は大空の幼馴染らしく、彼の隣の家に住んでいるようだ。
なんて羨ましい関係。
そんな近江は大空の正妻と認識されており、他の女子たちは彼の『二番目』を目指そうとしている。
悲しい状態のように見えるが、一夫多妻制制度があるのでこれが普通なのだ。
「じゃあ、学校が終わったら」
「ああ。家で待ってる」
笑顔で手を振り、教室を後にする近江。
一瞬の静寂が訪れるが、大空の次の女になるべく、女子たちの猛アプローチが始まる。
「羨ましい……なんであんなにモテるんだよ!」
「モテる要素しかないだろ。誰が俺たちみたいな男を選ぶんだよ。女子が」
「俺をお前と一緒にするなよ!」
「一緒だろ」
「……一緒だな」
現実を思い出し、梶がショボンとして最後に俺に同意する。
そう、俺たちはモテない側の人間なのだ。
一人だけ最高のパートナーを見つけることができれば御の字。
それで満足しようではないか。
大空のモテ具合を毎日再確認される中、授業は静かに進む。
寝たり真面目に勉強したりなどして、時計は昼休憩の時間を差す。
「楠、今日は屋上で食おうか」
「ああ。目立たない場所で食おう。他のモテる奴を見ているとみじめになるもんな」
俺は買って来たパンを持って、コソコソと屋上へと移動する。
大空ほどではないが、他のクラスでも女子にモテている男子は結構いたりするのだ。
そりゃ男子が少ないから当たり前なのかも知れないが、自分たちは蚊帳の外のように感じられいたたまれなくなる。
なので友人たちとは隠れるようにして、どこかで昼食を取るのが日課となっていた。
屋上には梯子があり、それを上ると小さな空間がある。
俺たちはここで食べることが多く、周りを気にすることなくようやく解放感を覚え、大きなため息をついた。
「梶、
「知らね。なんも聞いてねえ。楠なら何か知ってると思ってたけど、聞いてないのか」
「聞いてたら梶に聞くような――」
会話の途中に突如、人の声が聞こえてくる。
「おお……空が言ってた通り、ババァくせえ弁当だな!」
「ギャハハハ! そうだろ。あいつ、甲斐甲斐しく俺の世話をしようとするんだけど、ババアが作るようなもんしか作ってこないんだよ。本当、困ったもんだぜ」
声の主は大空とその友人たち。
どうやら近江から貰った弁当を見て大騒ぎしているようだ。
「あいつ……近江から貰った弁当をバカにしてるのかよ。許せん」
「ちょっと気分悪いよな」
俺と梶は隠れながら、大空たちの言動と態度に苛立ちを覚えていた。
女子から作ってもらった弁当。
それだけで喜ばしいことのはずなのに、まさか毒気つくとは。
男たちの態度が気に入らず、俺と梶は大空たちの背中を睨んでいた。
まぁそれ以上の行動をすることはないけれど。
「なあ、あいつって隣のクラスのやつだよな」
「ああ、俺たちと同じ目立たないやつだ。何であいつが大空たちなんかと一緒に……」
坊主頭の大人なしい男子。
そんな陰の者が、陽の大空たちといる違和感。
だがその理由はすぐに分かる。
彼は手に買い物袋を持っており、それを大空に手渡していた。
「これ、言ってたパン……」
「ご苦労さん」
「えっと、あの……お金は?」
「はぁ!?」
大空が男子に膝蹴りをする。
痛みに男子はうずくまり、涙目となっていた。
「奢ってくれよ。友達だろ?」
「ううう……」
「なあ、頼むよ」
大空は男子の顎を掴み、強引に自分の方に視線を向けさせる。
男子は目だけを反らし、許してもらうために速く何度も頷いた。
「あの野郎……イジめかよ。ぶっ殺してやる」
「梶。返り討ちにあうだけだぞ」
「分かってる……でも許せねえよ」
「俺も同じ気持ちだ。表ではあんなにキラキラしてるのに、裏ではどす黒いクズなことをしてたんだな」
男子が痛がっているのを笑う大空。
俺と梶は怒りに震えるが、彼をどうこうするための手段を持たない。
相手は運動神経が抜群だし、やられてお仕舞だ。
自分の不甲斐なさに落ち込みそうになるが、そこで大空が男子に弁当を手渡す。
「蹴って悪かったな。お詫びにこれやるから、機嫌直してくれ。美海の弁当だ。あいつの弁当食えるなら嬉しいだろ」
「あ、ありがとう……」
男子も悔しいながらも、大空に逆らうことができないようだ。
買って来たパンを食べ始める大空たち。
男子も大空から渡された弁当を、渋々といった様子で口にした。
「美味いか?」
「うん」
「そうか。じゃあ一万円な」
「えっ!?」
驚愕に箸を落とす男子。
俺と梶は顔を見合わせ、それから大空の方に視線を戻す。
「一万円って、どういう意味で……」
「そのままの意味だ。美海の弁当食ったんだから一万払え。逆らうなら、お前が勝手に弁当食ったって女子たちに言いふらすから」
「そんな‼」
自分から食えと言っておいて、金を要求するとは……
その上、女子たちに彼が弁当を食ったと報告すれば、彼は女子たちから敵視されるだろう。
そんなことになれば、学校にいられなくなる。
あまりにも理不尽過ぎる要求に、梶の堪忍袋の緒が切れた。
「俺はどうなってもいいぜ。一発ぶん殴ってやる」
「待て。俺たちには戦う力が無いんだ」
「戦う力が無いから、何もしないのか!?」
「違う。戦う力が無いから戦えないなりにできることをする。そうだろ?」
「楠、お前……」
梶は俺が手にしている携帯に気づく。
そう、途中から俺は動画の撮影をしていたのだ。
彼を止める力は無いが、彼の悪事を暴く証拠は掴むことが出来た。
梶は喜びに震え、ニヤリと笑う。
「速攻で教師に報告するか」
「それもいいけど、あんなぐらいじゃ学校をクビにならないだろう。この際、とことんまで追い詰めてやろうぜ」
「なるほど……もっと証拠を集めるってことか」
「ああ。自分のやったことを後悔する頃には戻れない、最高のプレゼントをお見舞いしてやる。今に見てろよ、大空空」
男子が強引な要求に負け、金を払うことを決める。
俺はそれを撮影しながら、大空に対する制裁を決断していた。
そしてこれは持たざる俺が、全てを持つ大空と戦う決断である。
俺は恐怖と勇気と決意を胸に秘め、イジメを愉しんで卑しく笑う大空の横顔を睨みつけていた。
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