第2話「三原則の女」
(サイド:ディープ)
エレナが、あれからどうなったのか?それだけが気がかりだった…
でも、ゴブリンだった僕はもういない…(死んだ)
この世界の理は、実にシンプルだ…エルフもゴブリンも獣人も、ひとまとめの魔族として、人間と敵対している…
当然、魔力妖力を持つ我々の方が、有利だった…あの殺人兵器(ティセ)が、発明されるまでは…
憎むべきは、あの63号(ムツミ)…奴は、僕の大切なものを再び奪ったんだ…
エルフの少女を逃がした後、僕が意識を覚醒したのは、双子の妹テルザと共に暮らす、ごく普通の家庭だった。しかも人間になって…正しくは、ゴブリンに転生前に戻った形か…でも世界線は現代で無く、あの忌まわしい異世界のままだ…
「お兄ちゃん…あれ、何?」
農家の庭に、光の玉が降ってきた…
「キレイだね…」無邪気に近づく妹だったが…
「ダメよ…テルザ、それは…」ギュッ!
母は娘を守り、抱きしめる。
「ディープも離れるんだ!」ドンッ!
父は、僕を後ろに突き飛ばした。
「お兄ちゃん…ママの…ママの顔が無いよ…」
「見るな、テルザ!」
父が、妹から、頭を切断された母を引きはがす。
と、次に僕が見たものは…五体バラバラに飛び散った、父の手足…頭だった。
僕は、走った…短い距離を、妹に向かって。その小さく、柔らかい身体を抱きしめた瞬間、目の前に奴はいた…
「63号?」
前世で、愛するエルフを奪った悪魔の姿がそこにある…
(今世の…両親まで)
「あれ?オカシイな…人間だ…間違えちゃった…エヘッ」
ドドドドドドドド…キーン!
宙に舞う、その悪魔を上空に見守る僕等には、成すすべもなく…
「え〜ん…え〜ん…パパ…ママ…」
定型通りの泣き方をする妹に、少しの微笑ましさも、感じつつ…子供としての僕は、
(実際には、成人男子の思考だが)
その状況に、絶望するしかなかった。
「ゴメンなさい…私のせい…」
物陰から現れた若い女性は、エレナと名乗り(嫌なシンクロニシティだ…)人間でありながら、魔力を持っているらしかった。
つまり、こうだ…僕達の家の近くに、たまたま通りかかったエレナを追って、やって来た63号は、その能力ゆえ、魔族と勘違いし、さらにそのエレナと間違って…僕達の両親を…って訳だ。
「今日から私が、あなた達のママになってあげる…」
抱きしめられた、その腕の中は、温かかったが…何か、責任逃れの様に感じて…少し嫌だった。
時は流れ、母エレナ…娘テルザ…息子ディープ(僕)の3人は、本当の親子の様にささやかに暮らしていた。僕等の両親が残した農場で、農作物を育て生計を建てている毎日だったが…
「お兄ちゃん…このお姉ちゃんが、ママに会いたいんだって…」
妹が、母にお客さんを連れて来たようだ。
躊躇なく、案内した。
「母なら、庭で畑仕事を…」
(ん…見た事のある顔…こんな美人、忘れるはず無いんだが…)
その女を庭へ案内した後、テルザとふたりで朝食を取っていた時、庭から爆撃音が、聴こえる…
「魔族…殺す…」
「私は、人間だっつ〜の!」
ピカッ!ズドドドド〜ン!
来訪者と、母の会話後の重低音が、部屋に届いた時…窓ガラスは割れ、妹はかすり傷を負う。彼女を抱きかかえ、庭に出た僕が再開したのは…あの…
「63号です…ムツミって呼んでね…エヘッ…」
何故僕に微笑みかける…そうか、人の子には…そうプログラムされているのか…
母も見たことの無い、光線で抵抗していたが、世界を滅ぼす力を持つアイツには…
「ママッ!」「母さん…」
再び、馬鹿馬鹿しいお笑いを…
63号に命を奪われた、エレナ(ディープとテルザの母)は、同時間軸のエルフのエレナ(ディープと旅をしていた方)に命を与えられる。(実際は、精神を乗っ取られる形)
そこで、産まれ変わったディープと再会する事になるが、同じ名前とはいえ…まさかお互いあの時の、エルフとゴブリンとは、知る由もない…
やがて戦争は終結し、人間の勝利に終わる。魔族達は、一部の奴隷を残して、ほぼ全滅の運命をたどった。しかし、戦争末期から、奇妙な噂が流れる…それは、死んだ魔族の怨念が、人に取り付き…魔力の使える人間が現れるという…あの、エレナのように。
その日エレナは、息子のディープと農作業をしながら、お使いに行った娘のテルザを心配していた…
「農作業用の、魔族の奴隷を買いに行かせたけど…大丈夫かしら…」
「心配ないよ、母さん…テルザは血縁こそ無いけど、魔力をしっかり引き継いでるからね…」
「しっ…ディープ…その事は…」
母親とその息子…互いの脳裏にそれぞれ異なった記憶の、アイツがよぎる…
「たっだいま〜!ママ…お兄ちゃん。」
「テルザ…それは?」
母の表情の変化を不審に思ったディープは、玄関で言葉を失う。
「あっ、兄ちゃん…魔人は高いし、持って帰んの面くさかったんで…バーゲンやってた、ロボにしたよ…カワイイっしょ…」
「お手伝いロボの…ムツミです。ヨロシクねっ…エヘッ!」
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