エピローグ

これ以上、迷惑はかけられない。吸血鬼が襲ってきてもこちらで対処すると言われ、自分の家へと戻ってきた悠希は一人、道着姿で道場にいて持っていた竹刀を使い無心で素振りをしていた。


「どうしたんだ。帰って来て早々、素振りをしに行くなんて……」


そこへラタが現れ、そんな悠希に向かって声をかける。だが悠希は無我夢中で素振りをしているのかその声は届いてはいないようだった。


「悠希!」


ラタは素手で竹刀を掴み、無理矢理素振りをやめさせた。そして珍しく開けた目で心配そうに悠希のことを見つめる。


「その目の色…」


素振りを止められたことで我に返った悠希はラタを見た。そしてラタの目の色を見て小さく呟いた。


「え、あ…これへ故意に黙っていたわけではないんだ。力の強い竜族は目が合うだけで怖がられたりしてしまうから…子供たちもいるし、それに気配をよんだり薄目を開けたりすれば普通に生活する分には支障がないから」


自分と似たような人と出会い、竜族であることを黙っていたから帰ってきて早々、悠希は一人で素振りをしていたのでは?と考えたラタは少し焦りを見せ、弁明をする。


「怒ってないです。何も出来なかったことをちょっと悔やんでいただけです…」


悠希は暗い顔をして軽く俯いてしまう。


「悔やむ…何があった?」


ラタはほっとしながらも心配そうに悠希を見つめ、悠希は俯いたまま今回の件をぽつりぽつりと話し始める。


「…というわけなんです。俺、役に立たなくて」


話し終えた悠希は悲しげに目を伏せてしまう。


「…悠希。例えお前が役に立てなかったと思っていたとしても話を聞く限り相手は確実に感謝をしていると思うぞ。だから素直にその感謝を受け取っておきなさい」


ラタはそんな悠希をじっと見つめる。


「素直に…でも俺は戦えてない…」


悠希は小声で呟くように答えた。それを聞いてラタはハッとした。人間と竜族とでは体の作りが違う。やりすぎてしまうと悠希は潰れてしまうか潰れなくとも下手したら人助けイコール戦うという思考の脳筋になるぞと知人に忠告されていたのだ。ラタはそれを心に留め置き、契約者として精神的にも肉体的にも強くする為に稽古をつけた。だが悠希の飲み込みが予想以上に良く、速かった為に戦闘民族といわれる竜族であるラタは稽古の熱が入ってしまい、悠希の思考は人助けイコール戦うになってしまっていたのだ。


「すまないっ」


ラタはそのことを悔いて思わず、悠希を抱きしめる。


「っ…父さん…?」


悠希はいきなりの事で驚き、顔を上げてラタの顔を見た。


「お前はちゃんと役に立っている。言われた通りに動いただけだと思っていても結ばれる手助けをしたり、傷の手当をしたり、腹を空かしている者にお菓子を作ってあげたりしたんだ。ちゃんと感謝しているよ。だから素直に受け入れなさい」


ラタは力を加減しながらもギュッと悠希を抱きしめる。


「わかった」


悠希は小さく頷き、返事をした。


「よし!そうとなれば母屋に戻ろう?帰ってきて早々、道場に篭ってしまったから子供たちも心配しているよ」


その返事を聞き、ラタは微笑みながら悠希を離したあと、道場の入口へと目を向けた。するとそこには悠希のことを心配する子どもたちの姿があって子供たちは全員、潤んだ目をしている。


「心配かけてごめんね。お詫びにお菓子作ってあげる」


悠希はそんな子供たちを見て慌てたように子供たちへと駆け寄った。そして悠希はそのまま子どもたちを連れ、母屋へと向かう。


「……忠告されていたのについ力が入ってしまった。あの子に知られたら怒られて…いや。呆れられてしまうな。今後はケアをしながら稽古をしないといけないな」


悠希たちを見送ったラタは一息つき、独り言のように呟いたあと悠希たちのあとを追うため、動き出したのだった。

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