第11話
次の日の早朝。空は食堂に隣接している調理室で一人、人数分の朝食を作っていた。
「……あ、いたいた。おはよう。空くん」
そんな調理室へと入ってくるなり、悠希は空に声をかける。
「おはようございます!悠希くん、早起きですね!」
空は朝食を作る手を止め、悠希へと目を向ける。
「いつもこのくらいの時間に起きるからお手伝いしようと思って…」
悠希は控えめに空を見つめる。
「本当ですか?助かります!」
空は悠希の言葉を聞いてとても嬉しそうにし、にっこりと微笑む。
「それにしてもいつも皆のご飯作ってるの?」
空の返事を聞いて悠希は空へと近づいていきながら問いかけ、首を傾げる。
「いえ。いつもではないですよ。家事は当番制なんですけど、今は皆さん忙しいので僕が代わりに作ってるんです」
空は朝食作りを再開しながら問いかけに答える。
「へぇー…そうなんだ。大変だね」
空のすぐ隣で立ち止まった悠希は腕捲りをし始める。
「大変だけどこういう時、家事することしか出来ないし、それに何より家事するの好きなので大丈夫です」
空は朝食作りを進めながらにっこりと微笑む。
「あ、悠希くん。そのままだと手袋が濡れちゃいますよ。お手伝いしてくれるならとらないと…」
微笑む空を見て本当に家事が好きなんだなぁと思いつつ腕捲りを終えて手伝う気満々な悠希。そんな悠希が手袋をしたままだということに気がついた空は朝食作りの手を止め、手袋を見つめながら首を傾げる。
「……ごめん。取りたくないんだ」
悠希は空に指摘されて手袋の存在を思い出し、反射的に左手を自分の背に隠しながら空から顔を背けた。
「どうしてです?気に入ったりしたとかですか?」
空は首を傾げたまま不思議そうな顔をして悠希のことを見つめる。
「違う。見たらきっと気味悪がるから…それに親から言われてるんだ。人には見せるなって…」
悠希は空を見ることなく気まずそうにしている。
「そうなんですか…」
空はそんな悠希の姿を見て訳ありなのだろうと思いつつ見つめてはいけないと悠希から視線を反らし、朝食作りを再開する。
「うん…だけどこれじゃ手伝えないから空くんがよければ取るよ」
悠希は少し考えて手袋を取る覚悟を決めたあと、背に隠していた左手を前に出して右手で手袋をつまんだ。
「気味悪がるかは実際に見てみないとわからないけど見せるなって言われてるんですよね?だったら大丈夫ですよ。無理に取らないでください」
空は朝食を作り続けながら悠希へと目を向け、にっこりと微笑んだ。
「ごめん…他にに手伝うことはない?」
悠希は手袋から手を離し、首を傾げる。
「他に…」
空は朝食作りの手を止め、考え始める。
「ただいま」
何か他にやることはないかと考える空とそれを待つ悠希。そんな二人の背後からそう言った声が聞こえてくる。
「あ、ルシュフさん!おかえりなさい!帰ってきたってことはもう大丈夫なんですか?」
その声に悠希は驚いて勢いよく振り返るが、空は慣れているのか驚くことなく声の主へと目を向ける。そこには悠希と清香のことを助けてくれた吸血鬼が気配なくたっていて、空は吸血鬼のことをルシュフと呼び、問いかけながら首を傾げる。
「ああ。琅と話し合った結果、神隠しの被害者はもういないだろうという結論に至った。だから料理当番は私が代わる」
ルシュフは答えながら髪の毛を一つに束ねる。
「え、でもお疲れでしょう?」
空は心配そうにルシュフのことを見つめる。
「大丈夫。お腹いっぱい血を飲ませてもらったばっかりだから」
髪を束ね終えたルシュフは腕捲りをし始める。
「捜索前に血を飲んだのは知っています。でもその前から一週間もの間、寝てないじゃないですか?その辺りは大丈夫なんですか?」
空は心配そうにルシュフのことを見つめ続ける。
「寝てないのは自業自得。家事当番を休んでいいという理由にはならない。だから私が料理を作る。私の番だからね」
ルシュフは腕捲りを続け、そんなルシュフのことを空は心配そうに見つめる。
「……それでも心配だというのなら私の代わりに洗濯物を干してきてくれないか?先程まで外にいて実感したが、太陽が出ている時に外に出るのは少ししんどい…それに干すだけなら手袋を外さなくてもいいだろう?」
腕捲りを終えたルシュフはチラッと悠希のことを見たあと、空に向かってウィンクをした。
「あ、そういうことですね。わかりました」
空はルシュフが何を言いたいのか理解し、何度も頷いた。
「……悠希くん。行こう?」
そのあと空は悠希へと目を向け、悠希の手を掴んで歩き出す。悠希はというと空に手を引かれるがまま歩くが、自分の名前を名乗っていないと困惑したようにルシュフへと目を向けている。
「空。ついでにこの城の中を案内してくるといい」
ルシュフはそんな空と悠希の姿を見てにっこりと微笑み、小さく手を振った。
「はーい!」
空はルシュフに向かって返事をしながら悠希の手を引いて調理室から出ていき、そんな二人を見送ったルシュフは手を振る事を止めて楽しそうに朝食を作り始めた。
「……あの人、ルシュフさんっていうんですか?」
キッチンを出たことでまたあとで名乗ればいいかとルシュフに対して名乗ることを諦めた悠希は空の手を離して空の隣へと移動し、問いかけながら首を傾げる。
「そうですよ!ルシュフさんです!」
空は歩きながら答え、にっこりと微笑む。
「俺、昨日あの人に助けてもらったんです。でも名前聞きそびれちゃって…名前知れてよかった。やっぱり吸血鬼だと日の光に弱いんですね」
悠希はルシュフの名前を知れてよかったと思うが、昨日助けてもらった時にルシュフが日の光の下にいたということを思い出してルシュフのことを心配し、立ち止まってキッチンへと目を向ける。
「ルシュフさんは日の光、平気ですよ。あれは悠希くんを気遣ってくれたんです」
空は立ち止まり、そんな悠希へと目を向ける。
「え…」
悠希は空の言葉を聞いて大きく目を見開き、空へと目を向ける。
「確かに吸血鬼は日の光に弱いです。でもルシュフさんは幼い頃から餓えと日の光に慣らされていたらしくて僕らと変わらない生活が出きるみたいですよ。ただ餓えている状態で怪我を負うのは危険だと言ってましたが…」
空はじっと悠希のことを見つめ、説明する。
「そう、なんだ…」
目を細めた悠希は怪我した時のルシュフを心配し、再び調理室がある方向へと目を向ける。
「……さぁ。洗濯物を干しに行きましょ。終わったらこの中を案内します」
空はそんな悠希を見つめ、そう言うと前を向いて歩き出す。
「あ…うん」
悠希は返事をして前を向き、そんな空についていったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます