第9話

食堂に着くなり悠希とリースはテーブルにつき、空が作った夕食を悠希はなにか考え事をしているのか少しだけ難しそうな表情をして食し、リースはそんな悠希に付き合う形で食していた。


「…はぁー…何を考えているかはなんとなくわかるけどそんな顔をして食べないでちょうだい。ご飯が不味く感じるわ」


夕食を食べ終えたリースは夕食を食べ終えてもなお難しそうな表情をしている悠希を見てため息をつく。


「っ…すみません」


悠希はリースに指摘されて申し訳なさそうな顔をする。


「まぁ天月の話を聞いちゃったらそんな顔をするのも仕方がないと思うけど」


悠希の言葉を聞いてリースは立ち上がりつつ、夕食が乗っていた台車からケーキとフォークを取る。


「っ…ケーキ!」


悠希はケーキを目にした瞬間、目を輝かせる。


「もしかして甘いもの好き?」


リースはそんな悠希を見て問いかけながらケーキとフォークを悠希の目の前に置く。


「はい!甘いものに目がなくてケーキはホール食いするぐらい好きです!」


悠希は満面の笑みを浮かべ、答える。


「そう…なら私の分もあげるわ」


リースは自分の分のケーキを台車から取り、悠希の前に置いた。


「え、いいんですか!」


悠希は目を輝かせて二つのケーキを見たあと、リースへと目を向ける。


「いいわよ」


リースは返事をしながら台車から二つのティーカップを取り、テーブルに置いた。


「ありがとうございます!」


悠希は嬉しそうな顔をしてフォークを手にし、ケーキを頬張り始めた。


「……それで?検討はつくけど間違っていたら嫌だから一応聞くわね。何を難しい顔をしていたの?」


リースは台車に乗ったポットの中身をティーカップに注ぎ終えたあと、唐突に問いかけた。


「古代種から創造された種族同士なのに始祖がいるいないで争うのはおかしいなって…」


味わいながらも早々にケーキを食べ終えた悠希は悲しげな表情をする。


「始祖は強大な力を持っている上に不老不死だからね…そんな存在が自分の種族の上にいると自分も凄い存在なんだって錯覚を起こして始祖がいない種族を見下してしまうのかもしれないわね」


リースはティーカップに入れた紅茶に砂糖などを加えていく。


「……エルフにも始祖がいるじゃないですか?リースさんの故郷でもやっぱり種族間の争いってあったんですか?」


悠希は悲しげな表情のままリースを見つめ、首を傾げる。


「なかったわよ…といってもエルフと始祖がいて争いを好まない花族しかいない世界だったから他の種族がいたらわからなかったけど」


リースは悠希へと目を向け、答える。


「わ、私がこの世界に来て初めて吸血鬼とか獣族とか自分とは違う種族を見て怖がったりしちゃってけど、差別意識なんてないし…始祖がいてもいなくても争ってない世界はあるって話だし…それにほら!この世界は特殊だから!」


リースの言葉を聞いて俯き、暗い顔をする悠希。そんな悠希の姿を見てリースは焦り、慌てた。


「特殊…?」


悠希は顔を上げてリースを見つめ、首を傾げる。


「そう。特殊…私も聞いた話だから詳しくは知らないんだけど、この世界には吸血鬼の始祖がいたんだって…だからこの世界の吸血鬼は傲慢で横暴な態度をとるんだって言っていたわ」


リースはカップに口をつけて紅茶を一口飲み、テーブルに置く。


「本当なんですか…?その話…」


悠希はそんなリースの姿をじっと見つめる。


「ええ。本当よ。月華の父親が話してくれたの。その時、自分も天月もこの世界を変えたいのに変えられないって嘆いていたわ。だから思ってはいるのよ。この世界のことを天月も…でもどうにもできないから神隠しにあってこの世界に来た子たちを保護して安全に暮らせる環境を整えてあげているの…さっき天月がピリピリしていたのはそのせいよ。この世界の住人と問題を起こせば怒り狂った人たちが報復に来てこの城が危険にさらされるから」


リースはじっと悠希のことをじっと見つめ返す。


「わかりました……困っている人がいたら助けろと言われて育ったので問題を此処に持ってこないよう以後気を付けます。それとひとつ質問いいですか?」


リースの言葉を聞いて悠希はだからさっき天月は苛立っていたのかと納得し、気を付けようと思いながらもリースのことを見つめ続けた。


「なにかしら?」


困っている人がいたら助けるのは変わらないんだなと苦笑するが、問題を持ってこないのであれば大丈夫だろうと思いつつリースは悠希のことを見つめ、首を傾げる。


「さっき月華ちゃんはボールを探したら渡してきてもらえるように頼んでみると言っていました。これはどういうことですか?世界の行き来は出来ないはずですよね?」


悠希は不思議そうな顔をしてリースを見つめ、首を傾げる。


「それはね、契約者だからよ。月の守護神との契約者」


リースは答えながら紅茶を飲もうとカップに手をかける。


「契約者?」


聞いたことのない単語なのか悠希は不思議そうな顔をしたままリースを見つめ続ける。


「神隠しとか他の種族のこととかは知っているのに契約者のことは知らないの?」


リースは紅茶を飲んだあと、テーブルにカップを起いて悠希のことを見つめる。


「知らないです」


悠希は返事をして大きく頷いた。


「神との契約者っていうのはね。別名、神との代行者。一神につき契約者は一人で契約者になった者は神から何かしてほしいと命令された時とか世界各地で問題が発生した時に解決に向かわねばならないの。それなのに世界を行き来出来ないと不便でしょう?だから契約者になったら世界を渡る力を得るの」


リースは悠希のことを見つめ続けながら説明し、その説明を悠希は紅茶を飲みながら熱心に聞く。


「それだけじゃないわ。契約者になった者は契約した神から力も得て、致命傷を受けたり病気をこじらせたりしなければ寿命というものがなくなるから死ぬことはなくなるわ。神と契約できる人なんてすぐに見つかるとは限らないから」


リースはそう言うとカップに手をかけ、紅茶を飲んだ。


「へぇー…知らなかった。色々ルタに教えてもらったのにルタでも知らないことってあるんだなぁ…」


リースの話を全て聞いた悠希は空になったカップをテーブに置いた。


「……そういえば愛の女神様との契約者に欠員が出ているみたいよ。この世界の何処かにある神器を探しだして試練を受け、認められればなれるみたいだからなってみたら?」


紅茶を飲み終え、カップをテーブルに置いたリースは思い出したかのように悠希へと提案をする。


「………契約者にはならないよ」


悠希は少しだけ考える素振りを見せたあと、首を横に振る。


「どうして?契約者になれば元いた世界に帰れる…それになによりボールの子は恋人とかではないの?」


リースは不思議そうな顔をして悠希を見つめ、首を傾げる。


「違いますよ。恋人とかではありません…ボールの子は俺にとって妹みたいな存在で、形見の品とかがあるなら手放さずに大事にしてもらいたいだけなんですよね」


悠希は苦笑しながらも何処か羨ましそうな顔をして答えつつ無意識に左手の甲に触れる。


「なんだぁ…恋人だからよく知らない世界の中、ボールを探しに出たんだと思ったわ」


そんな悠希の表情に気がついていないリースは残念そうに呟く。


「それに俺は神様と契約できる器じゃないし、此処に来たのは何かの縁だと思ってるから此処にいる」


悠希は先程の表情とは一変するかのようににっこりと微笑む。


「そう…なら貴方が使う部屋にレターセットがあるはずだからご家族に向けて手紙を書くといいわ。誰かが届けてくれると思うから」


リースはにっこりと微笑み返し、提案をする。


「わかりました…というかリースさん。俺に契約の話ふってきましたけどリースさんはならないんですか?好きな人がいるとか?」


悠希は微笑むことを止め、首を傾げる。


「なっ…」


好きな人がいるという図星をつかれ、リースの顔は急激に赤く染まる。


「ち、違うわよ!あんなヤツ好きじゃないわ!わ、私は月華の母親に月華のこと頼まれたからいるだけ…決してあんなヤツの為に此処にいる訳じゃないんだからっ!」


赤くなるリースを見て図星なんだなぁーと微笑ましくリースのことを見つめる悠希。そんな悠希に向かってリースは挙動不審になりながらも否定の言葉を口にする。


「も、もう知らないわ!」


否定してもなお自分のことを微笑ましく見つめてくる悠希の姿を見てリースは更に赤くなってそっぽを向き、リビングから出ていってしまった。


「俺も手紙をしたためるかな…ってあれ?俺って何処の部屋を使えばいいんだろう?」


リースを見送った悠希は自分も行こうと立ち上がる。


「……天月さんに聞けばいいか。探してみよう」


困惑したような表情をして暫くの間、その場に立ち尽くした悠希は至った結論を口にすると台車の上に自分達が使った食器を片付け始めたのだった。

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