「雨が降る日は、君を忘れたい」
rinna
「雨が降る日は、君を忘れたい」
傘を持たずに出たのは、予報を見落としたわけじゃない。ただ、濡れてもいいと思っただけだった。街の色は灰色に沈み、人々はそれぞれの目的地へ急いでいる。
ふと、カフェの前で立ち止まる。窓の向こうに、彼女がいた。向かいに座る男の子が、やわらかく笑っている。彼女は、その笑みに応えて、少し照れたように目を細めた。
その顔を、知っていた。
私だけが見せてもらえたと思っていた。
けれど、違ったんだ。あれは——誰にでも向けられる、やさしさだった。
冷たい水が、首筋を伝う。頬なのか、雨なのか、わからない。
けれど一滴一滴が、確かに私を現実へと引き戻していく。
「好きだったんだよ」
誰にも聞こえない声で、つぶやいた。
誰にも届かないままでいい。ただ、自分だけに伝えたかった。
それでも、歩き出す。
ひとりに戻る道を。
忘れられないままで、忘れる努力をするために。
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