#36 らっしゃああああああ!!!!

 やはり、この男の正体は、強欲の悪魔だった。


 強欲の宴バングリーファミリーのボス、バングリー。


 そういえば、ニックのシャツに一味のトレードマークであるカンカン帽子をかぶった悪魔のイラストがあったけど、こいつだったのか。


「ルーリー!」


 バングリーが誰かを指名した。


 黒猫の獣人が「はい。何でしょう、ボス」と聞いていた。


 こいつが、ルーリーか。


「すぐにニックあいつをこっちに持って来させろ」

「お安い御用よ」


 ルーリーはペロッと舌を舐めると、中腰になった。


「総員、警戒を怠るな! 女王陛下と貴族達を避難させろ!」


 ロンロが声を上げる。


 城内にいた戦士達は一斉に動き出し、貴族達を誘導させた。


 だが、女王は動かず、ニックの側を守るように立っていた。


「ドリス、君もここから離れなさい」


 ロンロにそう言われたが、僕は動かなかった。


 単に怖いから脚が動かない訳ではない。


 僕はもう逃げる事はやめたのだ。


「ドリス! 早くしないと!」

「ドリス!」


 リンアとマニラが僕を呼んでいる。


「先に逃げてて! 僕はこいつらと戦う!」


 僕は杖と本を持って、大罪と向かい合った。


 バングリーは「ふーん、覚悟がいいな。少年」とジャケットの胸ポケットから葉巻きを取り出した。


「あぁ、もう! 焦れったいから行くよ!」


 黒猫のルーリーがタッと走り出した。


 すると、ニックがいつの間にか、バングリーの側にいた。


 それに縛っていた手も、口に付けていた猿ぐつわも無くなっていた。


「ハハハハ! 俺様、大復活!」


 ニックが顔を天に向けるぐらい大笑いした。


 何という速さなんだ。


 全く連れ去っていく所を見られなかった。


 ロンロもさすがに動揺しているようで、「クッ」と唇を噛んでいた。


「さてと……」


 バングリーが葉巻きに火を付けた。


「目的は達した事だし。このまま国に帰らせて頂きますよ……素直に帰してくださるのでしたらね」


 彼はそう言って、葉巻きを持つと、煙を吐いた。


「断る」


 ロンロは鉤爪をバングリーの元へ向ける。


 彼の眼が赤く光った。


「……なら、手加減はなしだ」


 彼が葉巻きを咥えたと同時に、ルーリーとドラゴンが前に出た。


 すると、ニックがバングリーに「ボス、戦士団長とは俺様にやらせてください」と言っていた。


「分かった。じゃあ、お前に身体強化の魔法をかけてやろう」


 バングリーが左手の真ん中の紫色の指輪が光る。


 すると、ニックの身体が紫色のオーラに包まれた。


「ウウウウウ……」


 ニックの赤い眼が光り、獣のように唸った。


 黒い鉤爪を付けて、前に出た。


「ククク……前は負けてしまったが、次はそうはいかないぞ」

「……望む所だ」


 ロンロとニックが対峙する。


 アンテとジンニャもルーリーとドラゴンの方の前に対峙した。


「おい、バルドロス」

「はい」


 彼に呼ばれて返事をしたのは、ドラゴンだった。


「この城を壊すなよ。後々、俺の別荘にするんだからな」

「分かりました」


 ドラゴンことバルドロスは、口から火を吹いて威嚇しだした。


 静かになった。


 戦いの前の静けさとでも言うべきだろうか。


 どっちも睨み合っている。


 緊張状態の最中、ロンロの襲撃の掛け声と共に始まった。


 アンテはルーリーと、ジンニャはバルドロスと戦った。


 ロンロとニックはそのまま動かず対峙していた。


「グフフフ……」


 ニックが黒いオーラをさらに増して、ロンロに飛びかかった。


 その後は、二人とも目の見えない速度で消えた。


 刃物と刃物が鍔迫り合うように、カキンカキンという声が聞こえるだけだった。


 アンテはルーリーの猛撃と互角に渡り合っていた。


 ジンニャはバルドロスの空からの力強い一撃に防戦しながら攻撃をしていた。


「ボゥっとしていていいのか?」


 僕が戦士団の戦闘に見惚れていると、バングリーに言われてしまった。


 僕は改めて、大罪と向き直った。


「ドリス、無茶よ! 相手は大罪よ! 勝てる訳ないじゃない!」

「私もやめた方がいい! とにかく逃げよう!」


 リンアとマニラはまだ僕を引き留めようとしたが、僕は「僕は大丈夫です!」と言った。


「でも……」


 マニラがまだ僕を連れて行こうとしたが、リンアが「大丈夫だよ。行こう」と一緒に連れてってくれた。


 よし、これで思いっきり戦える。

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