#29 異次元のセレブオークション
「みんな〜! こ〜んに〜ち〜は〜!」
いつの間にか、ステージに半仮面の小人が立って、ギャルみたいに明るめな口調で挨拶した。
「オークションへようこそ~! 司会進行を務めます、アンテちゃんで〜す! よろしく〜! それでは、早速最初のお宝、カモン!」
アンテはそう言うと、パチンと指を鳴らした。
ステージの真ん中に穴が開き、円形のテーブルがせり上がってきた。
そこには、木で出来た盾が飾られていた。
「200年前に小人族同士の争いで使われたとされる戦士の盾で〜す! 金貨1枚からのスタートとなります!」
アンテがそう言うと、所々から「二枚!」「八枚!」と声が上がった。
値はドンドン上がっていき、その盾は二十五枚で落札された。
その後のラインナップは、大富豪が遺したネックレスや発掘された古代小人族の頭の骨、公爵令嬢の手袋など、如何にも価値がありそうな品ばかりだった。
取り引き額も金貨二十枚、三十枚、百枚――と、高額だった。
僕も参加しようかなと思ったが、あまりにもレベルが高かったので、ただただお金持ちのやり取りを眺める事にした。
リンアは、出されるお宝に「ほぉ〜!」「めっちゃ高そう!」など月並みな感想を呟いていた。
マニラは「あれ、書斎の置き物によさそう」とか、今にも買いそうな雰囲気を出していた。
さすが、魔王の元奥さんだけある。
そうこうしていると、いよいよ最後の品になった。
これまで、リンアが出したものは出てこなかった。
という事は――
「さぁ、さぁ、さぁ! いよいよ最後のお宝となりました! 今回のトリを飾るのは……」
アンテが口でドラムロールを鳴らす。
すると、カラフルなスポットライトが動き回った。
と、同時にあの薬がせり上がって来る。
「ババン!」
アンテの指がお宝の方に差す。
スポットライトも一点集中に同じ方を向く。
「伝説の秘薬、メンロウヤンです!」
アンテがそう叫ぶやいなや、たちまち周囲が騒ぎ出した。
「嘘でしょ?!」
「王族が独占していた薬が目の前にあるなんて」
「絶対欲しい……」
などと、貴婦人達が色めき立っていた。
これにアンテは嬉しそうな声を上げていた。
「この薬は、ご存知の通り、大変入手困難な材料でしか作る事ができません! これを飲めば、100年寿命が伸びます! さぁ、金貨1000枚からのスタートです!」
衝撃的な金額からのスタートだった。
金貨千枚って。今までの最高落札額は300枚だぞ。
そんな額で、果たして欲しいと思える人はいるのだろうか。
何て思っていると、「1200枚!」という声が上がった。
それを皮切りに、「1300枚!」「1500枚!」「いやいや、思い切って2000枚!」と今までにない勢いで、値が上がっていった。
まるで秘薬から誘惑の魔法にかけられたかのように、東西南北のブロックの貴婦人達がそれを手に入れようと必死になっていた。
冷静だったのはリンアとマニラと僕の三人だけだった。
「一体あんな薬、どこで手に入れたの?」
マニラがリンアに尋ねていた。
リンアは予期していなかったのか、「ふぇ?!」と素っ頓狂な声を上げていた。
「あ、えぇと……家の中で見つけたのよ」
冷や汗タラタラで嘘の答えを言うリンア。
マニラは「そう」とだけ返した。
気づかれたどうかは分からないけど、無事乗り越える事ができた。
そうこうしていると、メンロウヤンは『金貨2000万枚』という異次元の額になっていた。
そうなってくると、もう声を上げる貴婦人はほとんどいなかった。
「1億枚」
北とは反対側にある南ブロックの真ん中の半仮面の貴族が手を上げた。
一億?! まさかそんなに出す人がこの国にいるんだ。
本当にセレブな国だな。
「他はいないですか? 他は……」
アンテがキョロキョロと客席を見渡す。
もう誰も声をあげなかった。
司会者はコクンと頷くと、
「では、メンロウヤンは1億枚で落札!」
と高らかに宣言した。
その時だった。
パンッ、パンッ。
何かの破裂した音が聞こえてきた。
途端にどよめく会場。
僕達も互いの顔を見合わせてしまった。
もしかしたら何かの演出かなと思い、ステージの方を見ると、アテンが口を開けて一点を見つめていた。
「ニックちゃんが来たぞ〜〜〜!!!!」
会場中に響き渡るくらいの声量が、背後から聞こえてきた。
僕を含めた全員が声のした方を向いた。
そこにいたのは、銃らしきものを天井に掲げた小人だった。
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