#24 ひゃっほ~!!
僕とリンアがカウンターの所に戻った頃には、マニラの涙はとっくに乾いていて、コックから紫色の長ズボンと長袖のシャツを着ていた。
リンアが紫の花を食べながら王都脱出計画についてを話した。
マニラは承諾し、共に旅をする事にした。
そして現在、僕はリンアの後をついていきながらあの店より地下の道を歩いている。
まさか厨房の冷蔵庫を動かすと、隠し階段があったとは。
僕がお店に入る時に来た道とは違い、ここは人工的に掘られている印象を受けた。
手掘りかどうかは分からないが、至る所がデコボコしている。
「ねぇ、どこに向かっているの?」
マニラがランタンを持ちながら先頭にいるリンアに尋ねる。
リンアもランタンを持って、
「
と、僕達の方を向いてウインクした。
そして、再び前を向いて歩いた。
僕はなぜかランタンを持たされなかったが、万が一敵襲が来てもいいように、本と杖を持っていた。
しばらく黙って歩いていると、ガサガサとかシャーなど、不気味な物音が聞こえてきた。
「ここよ」
リンアが立ち止まった先は、通ってきた道より広い所だった。
イメージは電車のホームだろうか。
僕らが立っている所から先が崖になっていた。
下を見ると、何かがうごめいていた。
リンアがランタンをポーンと投げた。
すると、天井にフックがあったのだろう、宙ぶらりんになり、下の方が照らされた。
と、同時にマニラの悲鳴が上がった。
それもそのはず。
僕達の下にいたのは、二本の触覚が生え、八本の手脚が生えた虫だったからだ。
よく見ると、赤い眼に見覚えがあった。
ゴキブ――いや、やめておこう。
「何ビビってるのよ。これは私たちまち小人族から見たら、超高級馬車と同じ値段するんだから」
リンアはそう言って、ポシェットから木の実みたいなのを取り出した。
ポーンと下に投げる。
すると、虫がムシャーと言って細長い舌を出して、キャッチした。
あっという間に口の中に入ると、赤い眼がライトのようにピカッと一直線に飛び出した。
身体中も明るくなり、ランタンなしでもこの洞窟の天井から崖の下まで見渡す事ができた。
「よっと」
リンアはピョンとその虫の背中に飛び乗ると、ハンドルのようなものをぺたっと取り付けた。
「おーい、早く飛び乗ってきてよ」
おいおい、まさか今リンアがしたような事をやらなければならないのか。
マニラは「ヒィィィ」と少し震えていた。
が、「でも処刑された時に比べれば」と小声で呟くと、助走をつけて飛んだ。
見事に着地し、リンアの両肩に手を置いた。
「おーい、後は君だけだよ〜!」
リンアが手を振って、僕を呼んでいた。
意外と距離がある。
けど、やるしかない。
マニラと同じように助走をつける。
深呼吸して、前に踏み出した。
「うおおおおお!!!」
飛んだ。フワッとした感覚が僕にやってくる。
そして、引き込まれていく。
手脚をバタバタさせながら、虫の背中に着地する。
お腹からだったので、少し吐きそうになったが、どうにか堪えた。
「大丈夫?」
マニラが僕を心配そうに声をかけてきた。
「だ、大丈夫です……」
苦し紛れに笑顔を見せて、僕はマニラの肩に手を触れた。
それを確認したリンアはウンと頷くと、
「さぁ、行くよ! 出発!」
パチンという音が聞こえたかと思えば、シャーと虫が鳴った。
そして、バタバタと動き始めた。
その速度は凄まじく、本気で掴まらないと吹っ飛んでしまいそうだった。
「ひゃっほーーー!!! この調子でいけば、一時間ぐらいで都から抜け出せそうだね〜!」
リンアがいつになくハイテンションで、叫びながらハンドルを握っていた。
この人、運転すると変わるタイプか。
けど、人を煽るような性格に変貌する小人じゃなくてよかった。
けど、さすがにシートベルトやクッションなしの高速運転は、危険すぎる。
マニラは大丈夫だろうか。
「ぶぶぶぶ……」
あ、駄目だ。
泡を吹いて気絶している。
そのせいか、リンアを掴んでいた手から離れ、身体全部の体重が僕の方に来てしまった。
「うわっ!」
当然、この速度でそういう状況になると、あっという間に虫の背中から離れてしまった。
まずい、このままだと地面に激突して大怪我してしまう。
僕はすぐに杖で空中浮遊の魔法をかけた。
マニラと共に宙に留まる事ができた。
虫と負けないぐらい飛んで、どうにかもう一度乗る事ができた。
ただここで魔法を解除してしまうと、再度飛ばされる未来が見えていたので、目的地に着くまでの間、魔法の状態を維持する事にした。
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