#19 まさか小人に出会えるなんて……本当に異世界だな
本当に空気だった。
まるで僕が見えていないかのような感じで、話が展開されていった。
まさか転生者である僕が、幼馴染とその姉に王族に魔王討伐の命令を下すというイベントを横取りされてしまうとは。
フランチェスカ、完全に僕の事を無視していたし。
でも、勇者二人誕生したというイベントのおかげか、僕がマニラ姫の処刑を手助けしたという事は忘れ去ってしまったらしい。
ちょうどいいから、今のうちにこの都を出よう。
そう思っていたけど、お腹が空いた。
昼の時に、パーティーで食べた料理以降、何も口にしていない。
それにあの時は、フランチェスカにビンタされて中断したから、そんなに食べていない。
お金は――確かエルアからたんまりと金貨を貰ったはず。
うん、小さな革の袋に入っていた。
これで今日の食事と宿代は払える。
そうとなれば、ご飯にしよう。
さて、どこで食べようか。
僕は袋をリュックにしまうと、飲食店を探しに歩いた。
だが、予想だにしない事が起きた。
この都の飲食店である酒場やレストランがほぼ満席で入れないのだ。
どうやら勇者二人誕生のお祝いは、この都に住んでいる人達も自分の誕生日と同じくらい嬉しい事らしい。
ほぼ全ての都民が、外食をしているらしく、すべての店が満員なのだそう。
じゃあ、どこで飯を食べたらいいんだ。
そうだ。宿屋に行けば夜食付きで食べれるかもしれない――そう思って、宿屋に向かった。
だが、『勇者誕生祝いのため、休業』という立て看板がぶら下がっていた。
なんということだ。
飲食店ならともなく、宿屋まで休みにしなくていいでしょ。
今日、11歳の半成人の儀式があったこと、忘れていない?
僕、都の外から来たんだけど。
そう文句を言っても、宿の明かりがつく事はなかった。
なんかドッと疲れが出てしまった。
宿屋の前で座り込む。
「はぁ」
思わず溜め息をついてしまった。
グゥとお腹が悲しそうな声で鳴く。
もういっそのこと、店のキッチンに忍び込んで食べ物を盗んでしまおうかと考えた。
「ねぇ」
微かに呼ぶ声が聞こえてきた。
空耳かなと思って無視した。
腹ごなしに夜空を見上げる。
あぁ、雲一つないから星がたくさん煌いている。
「ねぇってば!」
やっぱり人の声がする。
でも、周りを見渡しても僕以外誰もいない。
まさか空腹のあまり、幻聴が起きているのではないか。
あぁ、どうせこうなるんだったら、予め屋台の料理をテイクアウトすればよかった。
「いいから、こっちを向きなさいっての!」
コツンとこめかみに何かあたった。
辺りをキョロキョロしていると、今度は頬にあたる。
頬、こめかみ、顎――と、虫に刺されたようなチクリとする感覚が続いた。
あたっている箇所がずっと左側なので、その方を見たら何か小さいものがいる。
でも、ここだと街灯もないので、本を取り出して、必死に目を凝らして明かりをつける魔法を覚えてやってみた。
すると、見事に僕の周囲が部屋の中と錯覚するくらい明るくなった。
「きゃあ!」
すると、可愛い声が聞こえてきた。
そして、僕は驚くべき女の子を見つけた。
彼女は革で作られた半ズボンとTシャツを着ていた。
色は赤紫で、右手首にターコイズ色のミサンガを付けていた。
深緑色のポニーテールで、両方の目元に髪色と同じ一本の横線みたいなのが引いてあった。
でも、その人が何より自分の手で掴めそうなくらいの大きさであるという事だ。
もしかして、小人だろうか。
黄緑の瞳で僕を睨んでいるから、たぶん人形とかではないだろう。
「えっと……君は誰?」
僕が尋ねると、その小人は両手を腰に置いて答えた。
「リンア。小人族よ」
やっぱり、そうなんだ。本当にいるんだな。
「僕はドリス。僕に何の用?」
「私はこの都の地下でレストランを営んでいるの。あなた、お腹空いてるんでしょ? よかったら、来ない?」
レストラン――何というタイミングだ。
空腹の時に、まさか飲食店の経営者が来るとは――これは女神の思し召しか。
あぁ、女神様。感謝感激です。
「はい、これ」
僕が女神に感謝の祈りをしていた時、リンアが何かを渡してきた。
ボウルだろうか、何か液体が入っている。
「これはスープ?」
「うーん、まぁ……そんな感じ」
なんか歯切れの悪い答えだが、大丈夫だろうか。
毒ではないよな。
まぁ、コンタクトレンズぐらいのサイズの器で盛られた量だし、飲んでもそんなに効果はないだろう。
器を飲み込まないよう舌を起用に使って、液体だけを舐めた。
すると、すぐに自分の身体が熱くなった。
これはアルコールかと思ったが、ドンドン目線が低くなっていった。
「どう? 体調悪くない?」
僕のすぐ側で、はっきりとリンアの声が聞こえた。
隣を見ると、さっきまで手の平ほどサイズだった彼女が、等身大に成長していた。
いや、違う。
僕が小さくなったんだ。
その証拠に、宿屋の休業の看板が百倍ぐらい大きくなっていたのだ。
もしかして――いや、絶対にあのスープにその成分が入っているはずだ。
「あの……どうして、こんな事を?」
僕がそう聞くと、リンアはニヤッと笑った。
「その方がお店に入りやすいでしょ? ご飯もいっぱい食べれるし」
確かに、よくよく考えたら、リンアが経営している事は全てが小人サイズ。
料理も指の上に乗っけられる程度はもちろんの事だが、それ以前に店に入れない。
だから、どっちにせよ、小さくなる必要はあったのか。
まぁ、魔法でもできたかもしれないけど。
なんて事を思っていると、またお腹が鳴ってしまった。
リンアはフフッと口に手をあてて笑った。
「さぁ、行きましょう。その前にこの眩しい明かりを消してくれない?」
「え? あぁ、いいよ。メメメ!」
僕が魔法解除の呪文を唱えたら、一瞬で暗くなった。
けど、今は月が煌々と都を照らしている。
だから、一歩先も分からないほどではなかった。
「さぁ、ついてきて」
僕はリンアのポニーテールを目印にして、彼女の後をついていく事にした。
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