#15 処刑されそうになった魔王の奥さんを助ける

 ブラウニーと別れた僕はギルドを探す事を思いついた。


 異世界ではギルドは切っても切れない関係。


 そこに行けば、仲間とかクエストとかできるかもしれない。


 あわよくば、魔王に関する情報を手に入るかも。


 そんな期待を胸に探していると、また人混みを見つけた。


 ブラウニーが他の店で爆食しているのかなと思って、同じように掻き分けた。


 が、抜けた先は、屋台ではなかった。


 処刑台だった。


 五人が、縄で首を括られていた。


 ただ人間らしき者は一人だけで、残りは異形だった。


 正確にいえば、魔物と呼ぶべきか。


 左側からオーク、ゴブリン、悪魔、狐の獣人、人間の順番だった。


 一体彼らはどんな罪を犯したのだろう。


 すると、周りの人達が口々に話していたので、聞き耳を立てる。


「まさかマニラ王女様が人間を裏切るとは」

「魔物との和平の条件で魔王に嫁いだとはいえ、思想まで支配されるなんて、それほど魔王は強大なんだな」

「こいつを殺せば、あちこちの国で起きている殺戮は終わるのかな」

「さぁね。魔王がどんくらい彼女を愛していたかによるな」


 なるほど。この人、魔王の奥さんなんだ。


 気になったので、ジッと見てみる。


 ミルキーな髪色に、トイレの花子さんみたいにおかっぱの髪型。


 薄紫のドレスは乱れ、所々汚れがついていたり、破れてたりしていた。しかも裸足。


 一体どんな拷問を受けたのだろう。


 考えただけでもゾッとした。


 顔は俯いてはいるが、シルバーの瞳の光には生気がまだ宿っているように見えた。


 すると、兵士が処刑台に上がった。


「では、これよりマニラ王女の処刑を開始する。この者は人間を絶滅させる手助けをし……」


 罪状を述べていたので、聞いてみると、街の人達と話しているのと大体同じだった。


 彼らの話が本当なら、処刑されるに値する。


 だが、僕はこういうのを見ると、昔の自分を思い出してしまう。


 高校生の時、いじめっ子に鎖で遊ばれた日々。


 吊るされながら、馬罵声を浴びせられた毎日。


 思い出せば出すほど憎い。


 自分の過去を思い出すと、今自分が見ているこの光景を排除したくなった。


 だが、もし僕が邪魔をすれば間違いなく、魔王の仲間として認識される。


 だけど、これを見るのは耐えられない。


 僕はリュックから本を取り出して、相応しい魔法がないかを探した。


 そして、一つ見つけた。


 杖を持って、宙にブーメランの絵を描く。


 一陣の風が吹いた。


 その直後、さっきまで宙ぶらりん寸前だったマニラ姫達が倒れていた。


 さっきまで吊るされていた方を見ると、ロープが切れているのが分かった。


 風をかまいたちのように刃物みたいにする魔法が成功したみたいだ。


「なんだ、なんだ?!」

「ロープが切れたぞ!」


 この事態に人々が騒ぎ出した。


 僕はバレないように抜け出そうとしたが、兵士に腕を掴まれてしまった。


「こいつだ! この少年がロープを切った!」


 続々と兵士がやってくる。


「ぐはっ!」

「ぎゃぁ!」


 しかし、地面に倒れていた処刑人が起き上がり、兵士達を倒し始めた。


 周りはたちまち大混乱になった。


 見物人達は悲鳴を上げ、我先にと逃げ出す。


 それと入れ替わるように、兵士達がワラワラと出てきた。


 マニラ姫とその魔物達はというと、狐の獣人が姫の手をひいて走り出した。


 悪魔とオークとゴブリンの三体は、姫を捕まえようとする兵士達に立ち向かっていた。


 悪魔は魔法を使って、兵士を八つ裂きにした。


 オークは棍棒を使って、兵士の頭を叩き割る。


 ゴブリンは、短剣を使って鎧の隙間を切って、身動きをとれなくしていた。


 こんなパニックの中、僕はどうしたらいいのだろう。


 そうだ。逃げないと。


 腕を掴んでいた兵士はどこか行っちゃったし、今のうちに逃げれば、この都から出られるかもしれない。


 そう判断し、兵士達に気づかれないよう、走り出した。


 が、しかし。


 ドゴォオオオオオオン。


 突然周囲が爆発したのだ。


 熱波でバランスを崩し、地面に転げ落ちてしまった。


 兵士も人々も叫び、泣き、声を荒げた。


 だが、一番気になるのは、兵士達と戦っていた三人だった。


「ぐぎゃあああああ!!!」

「ブオオオオオオ!!!」


 ゴブリンとオークが燃えていた。


 悪魔が火消しをしようと水の球を生み出そうとしていたが、隙を見た兵士が彼らの心臓や首を狙った。


 あっという間に二人が死んだ。


 悪魔は、仲間を失った衝動で、身体中に禍々しいオーラをまとって、暴れだした。


 だが、僕が瞬きをしている間に、彼はミンチにされていた。


 一体何が起きているんだろうと思っていると、首筋にヒヤリとした感触がした。


 それが何かは見なくても分かった。


「こいつがマニラ姫の処刑を手助けしたのか?」


 誰かに聞いているみたいだった。


 すぐ近くで「その通りです! 隊長!」と答えていた。


 声の主は、ウムと答えると、

「一緒に来てもらおうか」

 と、さらに刃を僕のうなじにあてて命令してきた。


 断ったら絶対に殺される。


「はい……」


 僕は承諾すると、足音が聞こえ、両腕を掴まれて無理やり立ち上がらせた。


 周囲には、焼けた家。


 それを象徴しているかのように真っ赤な鎧を来た兵士が剣先を僕に向けていた。

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