【完結】二人の美人姉に愛され過ぎて夜しか眠れない
マウンテンゴリラのマオ(MTGのマオ)
第1話 白神家の朝
意識が浮上する。眠りから目覚める予兆だというのはすぐ分かった。それと同時に感じる、温もりと重さ。それを振り払おうと、無意識に押し退けようとしてしまう。
「……ぁん」
すると聞こえてくる、喘ぎ声に似た甲高い小さな声。それによって意識が急浮上する。目を開いて、左のほうに視線を向ける。
「……すぅ。……すぅ」
そちらで眠るのは、一人の女性。穏やかな寝息を立てて、俺の左腕に抱き着きながら眠っている。その顔は、目が閉じられていること、すっぴんであることを考慮しても、かなり整っているということが容易に分かる。俺は起きているときの顔も知っているが、そうでなくてもかなりの美人だということは簡単に想像できるだろう。
「美紅姉、起きろ」
そんな女性の肩を、俺は少々強めに揺すった。いつまでも密着されるとさすがに気まずいし、そうでなくても鬱陶しい。
「ん……あ、ほむちゃんだぁ。おはよー」
「おはよう。……いい加減、人のベッドに入り込むのやめてくれないか?」
目を覚まして朝の挨拶をしてくる女性に、俺は挨拶を返しながら苦言を呈する。
「ふぁ……えぇ? ほむちゃんのベッド暖かいし……」
「朝起きたら実の姉に抱き着かれてる俺の身にもなれ」
欠伸交じりに駄々を捏ねる女性―――実姉である
「はぁい……」
寝起きの体を引き摺るようにしてベッドから這い出ながら、気のない返事をする美紅姉。もう既に何度も注意しているのにこの有様なので、多分またやらかすだろう。
「……って、なんつー格好してんだよ」
「ふぇ……?」
ベッドから降りた姉の姿に、俺は思わず突っ込んだ。下着姿の上からシャツを一枚羽織っただけというあられもない状態で、それ自体も十分目に毒なのだが、問題はそのシャツだった。
「なんで俺のシャツ着てるんだよ」
それは、俺の通う学校指定のシャツだった。つまりは制服だ。なんでそれを美紅姉が着ているのか。
「えへへ〜。彼シャツって言うんだよ~」
「いやそれは知ってるが……」
彼シャツくらいは俺も聞いたことがある。彼氏から借りたシャツ、或いはそれを身に着けた姿である。実の姉弟で彼シャツが成立するかはともかく、確かに格好だけなら彼シャツではある。だがそれは、美紅姉が俺のシャツを着ている理由にはならない。
「っていうかそれ、昨日脱いだ奴だろ」
しかもそれは、昨日脱いで洗濯かごに入れておいたものだった。何故分かるのかといえば、一枚しか持っていない半袖だからだ。昨日着たものの、さすがにまだちょっと寒かったから長袖に戻そうと、洗濯かごに入れておいたのだ。
「うん。昨日洗濯前に確保したの。ほむちゃんの匂いに包まれてるみたいで、凄く寝心地良かったよ~」
「おいこら馬鹿姉」
しれっと変態発言をかます姉に、俺は思わず罵倒の言葉を口にしてしまった。……この姉は昔からスキンシップが激しかったり、俺の体臭を嗅いできたりと、やたらと距離が近い。故に慣れていることではあるのだが、洗濯前の服の匂いを嗅がれるのはさすがに抵抗があった。勝手に着るにしても、せめて洗濯後にして欲しい。
「えへへ~」
怒られたというのに、何故か嬉しそうにしながら、美紅姉は部屋を出て行った。……実は案外ドMなのか、それともなんか変な解釈をしたのか。どちらにしても、あまり考えたくない。
「……はぁ」
俺は溜息を漏らしながら、寝間着を脱いで着替え始めるのだった。
「おはよ」
「おはよう。朝ごはん出来るわよ」
着替えてリビングに入ると、姉から声を掛けられた。といっても美紅姉ではない。もう一人の姉だ。
「ん。ありがと明日香姉」
「どういたしまして。まあ、今日は大したものじゃないけど」
リビングと一体化したダイニングで配膳をしているのは、もう一人の姉である白神明日香だ。美紅姉とは双子で、二卵性のはずなのに瓜二つである。とはいえ、顔の造形以外は見た目が大きく違うので、家族でなくとも見分けるのは容易だろう。
「トーストは二枚でいいわよね?」
「それくらい自分でやるよ」
「いいわよ別に、一応私の当番なんだし」
明日香姉は眼鏡の位置を直しながら、食パンの袋を手に取る。……一つ目の特徴はこの眼鏡だ。美紅姉は裸眼だが、明日香姉は眼鏡を常用している。とはいっても別に目が悪いわけではなく、オシャレで掛けてる伊達眼鏡なのだが。
「ほら、これでも飲んで待ってなさい」
俺の席の前に、コーヒーの入ったマグカップが置かれる。その際、明日香姉のポニーテールが大きく揺れた。……二つ目は髪の長さだ。美紅姉はショートヘアなのに対して、明日香姉は腰に届くくらいには長い。今は料理のためにポニーテールにしているようだが、結い方はTPOに応じてコロコロ変えており、一番多いのはツインテールだった。
「おはよ〜……」
すると、美紅姉が欠伸をしながらやって来た。Tシャツにジーンズというラフな服装に着替えている。
「おはよう……って美紅! あんた、また人の服を勝手に着て!」
そんな美紅姉を見て、明日香姉が声を荒らげる。
「え〜……? あ、ほんとだ。道理で胸元が緩いと思った」
「全く……みっともないから、さっさと着替えて来なさい」
「はぁい……」
言われて、美紅姉はリビングから出て行った。……三つ目の違いは胸だ。美紅姉は慎ましやかなサイズをしているのに対して、明日香姉はなかなかに立派な大きさである。故に、明日香姉のシャツを美紅姉が着れば、胸元がだるだるになるのは必然と言えた。
「……あんた、なんか変なこと考えてない?」
「いや別になんも」
すると明日香姉が急に睨んできたので、咄嗟にしらばっくれた。……確かに、朝っぱらから姉の胸のことなんて考えるもんじゃないな。我ながら気色悪い。
「ほら、トースト焼けたわよ。さっさと食べなさい、焔」
「ああ、さんきゅ」
俺は皿を受け取って、焼きたてのトーストを囓る。……これが俺、白神
俺は二人の姉との三人暮らしだ。こう言うとまるで親がいないかのようだが、両親ともに健在である。ただ、早期退職で得た退職金を手に、夫婦揃って海外移住をしたのだ。二人の姉が既に社会人になっていたこと、俺がこの春に高校入学したことを機に、である。今の状況なら、子供たちだけで十分やっていけると判断したらしい。
そのため、今の我が家は、家事を当番制にして姉弟で分担している状態だ。そして今朝は明日香姉が朝食当番だった。……そういえば、昨日の洗濯当番は美紅姉だったな。だからついでに俺のシャツを持っていったのか。明日香姉のシャツを着たのはうっかりみたいだけど、恐らく洗濯の際に取り違えたのだろう。
「今度こそ朝ごは〜ん!」
すると、美紅姉が再びリビングに入って来た。今度はちゃんと自分の服を着ているようだ。
「明日香ちゃん、トースト三枚でお願いね!」
「今焼いてるわよ。先に食べてなさい」
「は〜い」
言われて、美紅姉は自分の席に着いて朝食を突き始める。今朝の献立はトーストにベーコンエッグ、サラダとインスタントのスープという、手軽ながらもバランスの良い内容だった。朝からこれだけ食べれば上等だろう。
「ほら、トースト焼けたわよ」
「ありがと〜。っていうか明日香ちゃん、トースト一枚だけ? それで足りるの?」
「あんたが食べ過ぎなだけよ」
トーストを持ってきて美紅姉の隣に座る明日香姉。自分のトーストは一枚だけだが、明日香姉の言うように美紅姉が食べ過ぎなだけだと思う。俺でも朝からトースト三枚はさすがに食べない。
「だってぇ〜、お仕事でカロリー使うし……」
「知ってるわよ。でも私は動かないから、食べ過ぎると太るの」
美紅姉の仕事は肉体労働だ。体を動かすのが好きな彼女は、仕事でも体を動かしまくってる。工場で荷物の運搬作業をしているせいなのか、最近食事の量が多い。元々健啖家なのもあってかなりの食事量だ。
対する明日香姉は、システムエンジニアをしている。リモートワークなので、普段は家から出ることすらあまりない。となれば、食事量が減ってくるのも当然だろう。
「でも、食べたいものを我慢するのはストレスじゃない?」
「それはそうだけど、だからってわざわざトーストを沢山食べる必要もないじゃない」
姉妹で言い合いながら、二人は朝食を腹に収めていく。そんな何気ない日常が、俺にとっては何より大切なのだった。
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