燃陽月の余韻と晩夏支度の始まり

 燃陽月の二十八日目。朝から蒸し暑く、夏の盛りらしい暑さが続いている。窓を開けると、熱気を含んだ風が頬を撫でていく。フィンとフルートも暑そうに羽を少し広げて、体温調節をしているようだ。


「おはよう、二羽とも。今日も暑くなりそうだな」


 昨日の星の日で村人たちに好評だった季ノきのはな茶と季替茸きがえたけだが、そろそろストックが心配になってきた。今日は追加の採取に出かけるとともに、熟成月に向けた本格的な準備を始めよう。


 朝食は温かい物にしたい気分だ。季替茸きがえたけを使った熱々のオートミールに、季ノきのはな茶を合わせる。体の芯から温まって、暑い朝には体調を整えるのに良い組み合わせだ。


 食事をしながら、今日の予定を考える。まずは森での追加採取、それから熟成月に向けた本格的な準備。そして、そろそろ夏終根なつおわりねの採取時期だ。グレンさんの記録によると、燃陽月の最終週に現れる貴重な根菜で、夏の疲れ対策に絶大な効果があるという。


 観察眼が最近感じている小屋周辺の微細な魔力の違和感も、夏終根なつおわりねの出現と関係があるのかもしれない。


 食事を終えて準備を整え、フィンとフルートと一緒に森に向かう。今日も二羽が同行してくれるのは心強い。夏の強い日差しのせいで、森の様子も昨日とは少し違って見える。


 森に入ると、昨日の季ノきのはなの採取場所を再び訪れる。残念ながら、すでに花の数は昨日より減っている。季節限定の貴重な食材だけに、採取できる期間は本当に短いようだ。


 それでも、観察眼で注意深く探すと、まだいくつかの花を見つけることができた。昨日村人たちに教えた通り、朝露が付いている状態で丁寧に採取する。


【追加採取記録】

 ◆季ノきのはな◆:5輪分(前回より少なめ)

 ◆季替茸きがえたけ◆:3本(小ぶりなもの)

 ◆採取時刻◆:朝9時頃

 ◆品質◆:良好(露付き状態で採取成功)


 採取作業を続けていると、フルートが突然鳴き声を上げて、特定の方向を指し示すような仕草をする。その方向を見ると、グレンさんの記録で読んだ夏終根なつおわりねと思われる植物が生えているのが見える。


 近づいて観察眼で調べてみると、確かに記録に書かれていた通りの特徴を持っている。根の部分に特殊な魔力が集中していて、夏の疲れ対策に有用な効果を持っているようだ。


「これが夏終根なつおわりねか。記録で読んだ通りだ」


 詳しく調べてみると、根の部分が食材として使えそうだ。朝に確認したグレンさんの記録によると、安全な夏終根なつおわりねは根の部分が淡い黄色で、魔力が温かみを帯びているという。


 先ほど見つけた植物を思い返してみると、確かに条件に合致している。でも、念には念を入れて、もう一度現場で確認してみよう。


 フルートが教えてくれた植物をもう一度詳しく観察する。根を少し掘り起こしてみると、確かに淡い黄色をしていて、観察眼で感じる魔力も温かみを帯びている。間違いなく、記録にある夏終根なつおわりねだ。


「よし、これは安全だ。フルート、ありがとう」


 慎重に数本の夏終根なつおわりねを採取する。貴重な食材なので、必要以上に取りすぎないよう注意しよう。


夏終根なつおわりね採取記録】

 ◆採取数量◆:中サイズ4本

 ◆外見◆:淡い黄色の根、地味な葉

 ◆魔力の質◆:温かみのある良性魔力

 ◆安全確認◆:グレンさんの記録と照合済み


 小屋に戻って、早速夏終根なつおわりねの調理実験を始める。グレンさんの記録で読んだことはあったが、実際に調理するのは初めてだ。まずは基本的な調理法から試してみよう。


 根を薄くスライスして熱湯で茹でると、ほんのりと甘い香りが立ち上がる。一口食べてみると、大根とサツマイモの中間のような、優しい甘みと歯ごたえがある。


 しかも、食べた瞬間から体がじんわりと温かくなってくる。記録で読んだ通り、夏の疲れ対策に確実に効果がありそうだ。


「やはり夏終根なつおわりねは優秀な食材だ。村人たちにも喜ばれるだろう」


 基本的な調理法が確認できたので、今度は本格的な料理に挑戦してみる。夏終根なつおわりねを使った温かいスープを作ってみよう。


 夏終根なつおわりねをサイコロ状に切って、季替茸きがえたけと一緒に煮込む。クールミントとチルハーブも少し加えて、バランスの良い味に仕上げる。


 完成したスープは、これまでに作ったどの料理よりも体を温める効果が高いようだ。まさに、これからの熟成月にぴったりの一品だ。


 昼食は、新しく開発した夏終根なつおわりねスープをメインに、季ノきのはな茶と昨日の残り物を組み合わせる。熟成月が本格化する前に、このような温める料理のレシピを確立できて良かった。


 午後は、熟成月に向けた本格的な保存食作りに取り組む。これまでに蓄積した技術を総動員して、長期保存可能な食材を準備しよう。


 まず、夏終根なつおわりねの保存方法を研究してみる。観察眼で詳しく調べると、この根菜は乾燥させることで長期保存が可能で、しかも乾燥後の方が効果が高まるようだ。


 薄くスライスした夏終根なつおわりねを風通しの良い場所で乾燥させ始める。季ノきのはな季替茸きがえたけと同様に、熟成月の間の貴重な栄養源になってくれるはずだ。


 次に、清流魚せいりゅうぎょの燻製作りにも再挑戦する。前回よりも燻製技術が向上しているので、より高品質な保存食を作ることができそうだ。


 夕方近くになると、一日の成果を整理する。夏終根なつおわりねの採取と調理法の習得、保存技術の向上。今日も充実した研究ができた。


 特に夏終根なつおわりねを実際に調理できたのは大きな収穫だ。夏の疲れ対策として、村人たちにも確実に喜ばれるだろう。次の星の日には、ぜひこの新しいレシピを紹介したい。


 夕食は、今日開発した夏終根なつおわりね料理を中心とした、温かいメニューにする。スープ、茹で野菜、季ノきのはな茶の組み合わせで、体の芯から温まることができる。


 食事をしながら、最近の生活を振り返る。季節の変化に合わせて新しい食材や技術を身につけ、それを村人たちと共有する。この繰り返しが、本当に充実した毎日を作り出している。


 そういえば、最近感じていた小屋周辺の魔力の違和感は、やはり夏終根なつおわりねの出現が原因だったようだ。観察眼は時々、近くに優良な食材があることを予感させてくれることがある。


 夜になると、明日の予定を考える。燃陽月もあと数日で終わるので、季節限定の食材採取は今日が最後のチャンスかもしれない。でも、十分な量の保存食を確保できたので、熟成月への準備は整ったと言えるだろう。


【燃陽月28日の保存食製作記録】

 ◆夏終根なつおわりね乾燥スライス◆:小袋2袋分(6ヶ月保存可能)

 ◆清流魚せいりゅうぎょ燻製◆:3匹分(1ヶ月保存可能)

 ◆濃縮アイスベリーシロップ◆:小瓶2本(1年保存可能)

 ◆季ノきのはな乾燥葉◆:小袋1袋分(保存用)


 今日新しく作った夏終根なつおわりねの乾燥が順調に進んでいる。明日の朝には、保存用として使える状態になっているはずだ。フィンとフルートも、今日の新しい食材に興味を示してくれた。二羽にとっても、新しい発見は楽しい体験のようだ。


 部屋の中には、夏終根なつおわりねの甘い香りと季ノきのはなの上品な香りが混じり合って、これまでにない心地よい空気が漂っている。この香りを嗅いでいると、熟成月への準備が着実に進んでいることを実感できる。


 明日は久しぶりに、のんびりとした一日を過ごそうかな。新しい料理の実験もいいが、時にはゆっくりと読書や研究に時間を使うのも悪くない。そんなことを考えながら、今夜はいつもより早めにベッドに向かうことにした。

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