新たな相談屋、時を超えた解決策

 時空観察室を体験してから一週間が経った。

 その間、新たに得た力をどう活用すべきか考え続けていた。グレンさんの言葉通り、この力は娯楽ではなく、世界をより良くするために使うべきものだ。


 そして今日は星のほしのひ。久しぶりの相談屋の日だった。


「フィン、今日は村に行こう。新しい力で、もっと多くの人を助けられるかもしれない」


 ピピッ!


 フィンが嬉しそうに鳴いた。フルートも一緒だ。二羽とも村の人たちを気に入っているようだった。

 飛行魔法で村へ向かう。7つの魔法を全て習得した今、移動は本当に楽になった。空から見る景色も、以前とは違って見える。過去と未来の風景が重なって見えることがあるのだ。

 村に到着すると、いつものようにハロルド村長が出迎えてくれた。


「おはよう、ヒナタさん。今日もよろしく」


「おはようございます。今日は少し変わった相談にも対応できるかもしれません」


「ほう、それは頼もしい」


 相談屋の準備を整えていると、最初の相談者がやってきた。見覚えのない若い女性だった。


「はじめまして。隣村から来ました、リンと申します」


「ヒナタです。どのような相談でしょうか?」


「実は……行方不明になった父を探しているんです」


 リンの話によると、父親は薬草採取に出かけたまま1週間戻らない。森で迷ってしまったか、事故に遭ったかもしれないという。


「通常の捜索では見つからなかったんです。でも、ヒナタさんなら何か分かるかもし

れないと聞いて」


 これは普通の相談屋では解決できない問題だ。しかし、星魔法の時空観察なら——


「お父さんの名前と、最後に目撃された場所を教えてください」


「父の名前はトムです。最後に見たのは、村の東の森の入り口でした」


 星の心臓石を使って、1週間前のその場所を観察してみる。時空移動で過去を視認する魔法だ。

 すると——

 1週間前のトムさんの姿が見えた。確かに森に入っていく。その後を追うように時間を進めると、深い谷で足を滑らせて怪我をし、洞窟に避難している姿が映った。


【観察結果】

トム・ハーバリスト:生存確認

現在地:東の森、深谷の洞窟

状態:左足骨折、意識あり

緊急度:中(食料尽きかけ)


「お父さんは生きています。東の森の深い谷にある洞窟に避難している状態です」


「本当ですか!?」


「ただし、左足を骨折していて、食料も尽きかけています。急いで救助が必要です」


 リンが涙を流して喜んでいる。


「詳しい場所を案内しましょう。飛行魔法で現地まで運びます」


「空を飛ぶんですか!?」


「はい。一番早い方法です」


 ハロルド村長に事情を説明し、救助用の担架と応急手当用品を用意してもらった。

 リンを抱えて飛行魔法で東の森へ向かう。彼女は最初こそ驚いていたが、すぐに状況を受け入れた。

 星魔法で確認した場所に着陸すると、確かに洞窟があった。中からかすかに声が聞こえる。


「お父さん!」


「リン!? なぜここが分かったんだ」


 トムさんは予想通り左足を骨折していたが、意識ははっきりしている。

 生命魔法で応急処置を行い、地魔法で簡易担架を作成。飛行魔法で村の診療所まで運んだ。


「ありがとうございます!本当に、本当にありがとうございます!」


 リンが何度も頭を下げている。


「いえ、見つかって良かったです」


 トムさんの救助劇は村中の話題になった。午後の相談者たちも、その話で持ちきりだった。

 次の相談は、村の農夫からだった。


「今年の作物の出来が心配でね。どうも天候が不安定で」


「今年の収穫についてですね」


 星魔法で今年の気象パターンを予見してみる。未来観察で秋までの天候を確認すると——

 実際に芽吹きめぶきづきに長雨が予想された。しかし、その後は順調な天候が続く。


「芽吹きめぶきづきに長雨がありますが、全体的には豊作になる見込みです。

長雨対策として、畑の排水を良くしておくことをお勧めします」


「長雨か……分かった、排水路を整備しよう」


 具体的な対策まで提案すると、農夫は安心した表情を見せた。

 3番目の相談は染物職人からだった。


「昔の技法を再現したいんだが、資料が足りなくて困っている」


「どのような技法でしょうか?」


「100年前にこの地域で作られていた、幻の紫染めの方法だ」


 これも星魔法の出番だ。100年前の染物職人の作業を時空観察で確認してみる。

 過去の映像を見ると、特殊な花と鉱物を組み合わせる複雑な技法が使われていた。


「ムラサキグサの根と、銅鉱石の粉末を組み合わせる技法ですね。詳しい手順をお教えします」


 100年前の職人の作業を詳細に説明すると、染物職人は興奮して聞き入った。


「素晴らしい!これで伝統技法を復活させられる」



 午後の最後の相談は、若い夫婦からだった。


「新築する家の場所で迷っているんです。どこに建てるのがいいでしょうか?」


 候補地を3つ教えてもらい、それぞれの未来を観察してみる。地震、洪水、その他の災害リスクを10年スパンで確認する。

 結果、最も安全で快適に過ごせる場所が明確になった。


「こちらの高台が最も安全です。日当たりも良く、災害のリスクも最小限です」


「ありがとうございます!安心して家を建てられます」


 夕方、相談屋を終えて片付けをしていると、ハロルド村長が話しかけてきた。


「今日は本当に驚いた。行方不明者の発見から、未来の予測まで……君の能力はどこまで広がるんだ?」


「色々と勉強した結果です。でも、この力は慎重に使わなければなりません」


「そうだろうな。しかし、村の人たちにとって君は救世主のような存在だ」


 確かに今日の相談は、すべて星魔法なしでは解決できないものばかりだった。でも、この力を使いすぎるのも危険かもしれない。

 小屋への帰り道、今日のことを振り返った。時空観察の力は確かに素晴らしいが、グレンさんの警告も忘れてはいけない。「見てはならないものもある」という言葉の意味を、いつか理解する時が来るかもしれない。


 小屋に戻ると、フィンとフルートが新しい巣で休んでいた。二羽とも今日の冒険で疲れたようだ。


「お疲れさま。今日は人助けができて良い一日だったね」


 夕食後、研究室で今日の記録をつけた。星魔法の実用性は想像以上だったが、同時に責任の重さも感じている。

 この力をどう使うべきか、グレンさんの日記を読み返してみることにした。

 すると、まだ読んでいないページに重要な記述を発見した。


『星魔法の使用について重要な警告

 時空観察は確かに強力だが、使いすぎると精神に負担をかける。

 また、未来を知りすぎることで、自然な時の流れを妨げる危険性もある。


 推奨使用頻度:1日1回まで

 禁止事項:個人的な欲求での未来観察

 緊急時のみ:生命に関わる場合は制限を緩和

 この力は人助けのために使え。決して己の利益のためではない。』


「1日1回まで……今日は少し使いすぎたかもしれないな」


 確かに、1日で4回も星魔法を使った。頭が少しぼんやりしているのも、そのせいかもしれない。

 明日からは使用頻度に気をつけよう。この力も、適度に使ってこそ意味がある。


 窓の外では星が美しく輝いている。星見の丘の方角を見ると、時空観察室への扉が微かに光っているのが見えた。

 いつでもアクセスできるが、必要な時だけ使うようにしよう。

 そう決心しながら、今夜も平和な一日の終わりを迎えた。


 明日は何をしようか。久しぶりに純粋な観察を楽しんでみたい。魔法も相談屋も大切だが、一番好きなのは、やっぱり一人で自然を観察している時間だった。

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