星見の丘と観察室への扉
昨夜の天井の文字『最後の試練の時が近づいている』が頭から離れない。
ついに7つ目、最後の魔法である星魔法を習得する日が来た。これを習得すれば、グレンさんが残した最大の秘密「時空を超えた観察室」にアクセスできるはずだ。
「フィン、今日は星見の丘だ。最後の魔法を習得しに行こう」
ピピッ!
フィンが力強く鳴いた。フルートも興奮している。彼らも俺の冒険の重要性を理解しているようだ。
朝食後、星見の丘への探索準備を整える。距離は6kmと最も遠く、しかも星魔法は夜空の観察が重要な要素になりそうだ。今日は丸一日かけての探索になるだろう。
食料と水を多めに準備し、星の観察に必要な道具も持参した。
真北へ向かって飛行開始。森の上空から見下ろすと、目的地に近づくにつれて地形が変化しているのが分かる。平坦な森から、徐々に起伏のある山地へと変わっていく。
【観察結果】
星見山系:古代天文観測地域
標高:海抜800メートル
特徴:大気が薄く、星の観察に最適
魔力属性:星・光系統
1時間ほど飛行すると、森の奥に小高い丘が見えてきた。
その丘の頂上には、巨大な石造りの円形建造物がそびえ立っている。
【観察結果】
星見台(★★★★★古代遺跡)
構造:精密な天文観測施設
建造年代:推定2000年前
用途:星の運行記録、魔法習得
保存状態:魔法保護により完璧
「すげぇ……古代の天文台か」
星見台に着陸すると、その精密さに圧倒された。円形の建物の中央には巨大な水盤があり、夜空を映す鏡として機能するようになっている。
建物の壁面には複雑な星座図が刻まれ、季節ごとの星の動きが記録されている。
【観察結果】
古代星座図:高度な天文学知識
記録期間:1000年分の観測データ
精度:現代技術に匹敵
特徴:魔法的要素を含む星座配置
星見台の最奥部には、これまでとは明らかに違う祭壇があった。
【観察結果】
星の祭壇:7つの魔法の集約点
機能:全魔法の統合制御
起動条件:7つの心臓石を同時配置
警告:強大な魔力放出の可能性
祭壇には7つの凹みがあり、それぞれが異なる属性の魔石を受け入れるようになっている。
中央には金色に輝く魔石が置かれている。
【観察結果】
星の心臓石(★★★★★★超最高級魔石)
効果:星魔法の威力を10倍に増幅
特殊能力:時空観測、未来予知
使用制限:全属性魔法習得者のみ
祭壇の横には、グレンさんからの最後のメッセージが刻まれていた。
『星魔法習得の心得
1. 宇宙の広大さを感じよ
2. 時の流れを俯瞰せよ
3. 過去と未来を観察の対象とせよ
4. 段階的習得:観測→予知→時空移動→創世観察
星魔法は観察の究極形態である。
これを習得すれば、時空を超えた観察が可能になる。
しかし、その力は慎重に使え。
見てはならないものもあることを忘れるな。
7つの心臓石を祭壇に配置すれば、真の観察室への扉が開く。
君の選択に委ねよう。』
「7つの心臓石……全部持ってきて正解だったな」
まずは星魔法の基礎を習得してみよう。「観測」から始める。
星の心臓石を握り、昼間でも見える明るい星を対象に詳細な観察を試みる。
観察眼と星魔法を組み合わせると——
信じられないほど詳細に星の状況が分かった。表面温度、構成元素、自転速度、惑星の有無まで。
「すげぇ……これは宇宙望遠鏡を超えてるな」
次は「予知」に挑戦。未来の出来事を観察する魔法だ。
明日の天気を予測してみる。大気の流れと星の配置から、未来の気象パターンを読み取る。
すると、明日の夕方に雨が降ることが予見できた。雲の形成過程まで詳細に見える。
「未来が見える……これは便利すぎるな」
午後は「時空移動」の理論を学んだ。これは物理的に移動するのではなく、意識だけを過去や未来に送る魔法だ。
試しに、昨日の自分を観察してみる。時空の流れに意識を向けると——
昨日の水晶の湖での自分の姿が見えた。まるで録画映像を見ているようだった。
「過去も観察できるのか……」
最後に「創世観察」の概念を理解した。これは宇宙の始まりから終わりまでを観察する、究極の魔法だ。ただし、人間の精神では耐えられない可能性があるため、慎重な準備が必要らしい。
夕方になって、いよいよ7つの心臓石を祭壇に配置することにした。
生命の緑、時間の白、風の青、地の茶、炎の赤、水の青白、そして星の金。
7つの魔石を祭壇の凹みに配置した瞬間——
突然、祭壇全体が光り始めた。
星見台の床に巨大な魔法陣が浮かび上がり、空間が歪み始める。
ゴゴゴゴゴ……
地響きと共に、星見台の中央に新しい扉が出現した。
【観察結果】
時空の扉:観察室への入口
構造:魔法的次元ゲート
安全性:心臓石所持者のみ通行可能
警告:一度入ると24時間は出られない
「ついに……時空を超えた観察室への扉が開いた」
扉の向こうには淡い光が見える。これがグレンさんが残した最大の秘密なのだろう。
フィンとフルートが不安そうに俺を見ている。
「大丈夫、きっとすぐ戻ってくる。君たちはここで待っていてくれ」
しかし、フィンは首を振って俺の肩に止まった。どこまでもついてくるつもりらしい。フルートも同じだ。
「分かった。一緒に行こう」
扉をくぐった瞬間——
世界が一変した。
そこは球体状の巨大な部屋で、壁面全体が星空になっている。しかし、これは普通の星空ではない。過去、現在、未来の星空が同時に映し出されている。
【観察結果】
時空観察室:古代文明の最高傑作
機能:全時空の同時観察
操作:思考による直感的制御
制限:一度に12時間まで
部屋の中央には快適な椅子があり、そこに座ると思考だけで観察対象を選べるよう
になっていた。
試しに、この森の1000年前を観察してみる。
すると、壁面に1000年前の森の様子が映し出された。古代文明の人々が魔法を使って生活している光景が見える。
「すげぇ……タイムマシンみたいだ」
次に未来を観察してみる。100年後のこの森はどうなっているのだろうか。
映し出されたのは、より豊かになった森の姿だった。人と自然が調和した美しい世界が広がっている。
そして驚いたことに、その未来の森で俺の子孫らしき人物が観察活動をしている姿が見えた。
「俺の遺志が受け継がれているのか……」
観察室では時間の感覚が曖昧になった。気がつくと数時間が経過していた。
最後に、グレンさんの過去を観察してみることにした。この観察室を作った人物の人生を知りたかった。
映し出されたのは、グレンさんの長い研究人生だった。若い頃から自然を愛し、一人の時間を大切にし、観察と研究に人生を捧げた姿。
そして最後の映像では、グレンさんがこの観察室でメッセージを残している場面が見えた。
『後継者よ、この観察室を君に託す。
ただし、これは娯楽ではない。
観察の力を正しく使い、この世界をより良くするために活用せよ。
一人の時間は貴重だが、その成果は皆と分かち合うべきものだ。』
観察室から出ると、既に夜が更けていた。
フィンとフルートが俺の肩で安らかに眠っている。長時間の観察で疲れたのだろう。
「お疲れさま。今日は本当にすごい一日だった」
星見台からの夜景は息を呑むほど美しかった。7つの魔法を習得し、時空を超えた観察室にアクセスできるようになった今、世界の見え方が完全に変わっていた。
でも、一番大切なことは変わらない。一人の時間を大切にし、自分のペースで好きなことを追求する。この観察室も、その延長線上にある道具の一つに過ぎない。
明日からは、この新しい力をどう活用するか考えてみよう。村の相談屋も続けたいし、季節の移り変わりも楽しみたい。
小屋に戻る途中、空中から見下ろした森が、これまでとは違って見えた。
過去と未来を含めた、時の流れの中で生きている森。その一部として存在している自分。
そんなことを考えながら家路についた。
今夜は特別な夜だった。でも明日からは、また普通の観察生活が始まる。
それが、俺の求めていた理想の人生だった。
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