大地の洞窟と建築魔法
昨夜の床の振動が気になって、今朝は早く目が覚めた。
小屋の床下を改めて調べてみたが、特に異常は見つからない。きっと大地の洞窟からの魔法的な影響だろう。
「フィン、今日は地下探検だ」
ピピッ!
フィンが首を傾げている。地下は鳥にとって馴染みのない場所だからな。
「大丈夫、危険はないと思うよ。でも心配なら留守番していても」
しかし、フィンは首を振って肩に止まった。どこまでもついてきてくれるらしい。フルートも一緒だ。
朝食後、大地の洞窟への探索準備を整える。今日は地下での作業が予想されるので、松明や予備のロープも用意した。飛行魔法があるとはいえ、地下では使えない場面もあるだろう。
魔力地図を頼りに北西へ向かう。距離は2.5kmだが、今度は飛行で移動してみよう。
風の心臓石のおかげで、自由自在に空を飛べるようになった。森の上空を舞いながら目的地を探す。
15分ほどで、地図に示された場所に到達した。そこは小高い丘の中腹で、一見すると何もない場所に見える。
しかし、観察眼で詳しく調べてみると——
【観察結果】
隠された洞窟入口:魔法的カモフラージュ
実体:岩に偽装された石扉
開放方法:特定の魔力パターンで解除
前使用者:グレン・ウィザード
「魔法で隠されてるのか」
グレンの研究資料を確認すると、開放方法が記されていた。地の魔石に魔力を込めて、特定のパターンで岩に触れるらしい。
指示通りに魔石を岩に当てると、ゴゴゴと音を立てて岩が動き、洞窟の入口が現れた。
「これは凄い……完全に隠れてたな」
洞窟は思ったより広く、奥まで松明の光が届かないほど深い。壁面は自然の岩ではなく、人工的に整えられた石造りだった。
【観察結果】
大地の洞窟:古代ドワーフ族の工房
用途:採掘・建築魔法の修行場
設備:魔法炉、鍛造台、石材加工場
保存状態:魔法保護により極めて良好
「ドワーフ族の工房か……」
洞窟の最深部には、巨大な魔法陣が刻まれた広間があった。天井は高く、まるで地下大聖堂のような荘厳さだ。
広間の中央には石造りの祭壇があり、その上に土色の魔石が置かれている。
【観察結果】
大地の心臓石(★★★★★最高級魔石)
効果:地魔法の威力を5倍に増幅
特殊能力:石材・金属の自在操作
使用制限:地魔法習得者のみ
祭壇に近づくと、壁面にグレンさんのメモが刻まれているのを発見した。
『地魔法習得の心得
1. 大地の声に耳を傾けよ
2. 石材の性質を深く理解せよ
3. 創造と破壊、両方を学べ
4. 段階的習得:硬化→成形→創造→大建築
地魔法は最も実用的な魔法だ。住居の改築、道具の製作、採掘など、生活に直結する。
ただし、自然への敬意を忘れるな。必要以上に大地を傷つけてはならない。』
「よし、基礎から始めてみよう」
まずは「硬化」から。手の平大の石を対象に、その強度を高める魔法だ。
大地の魔石を握り、石の内部構造を観察眼で詳しく分析する。分子レベルまで理解できると、どの部分を強化すればいいかが分かってくる。
魔力を込めると、石がみるみる硬くなっていく。普通のハンマーでは傷一つつかないほどの硬度になった。
「これは……道具作りに使えるな」
次は「成形」に挑戦。石の形を自由に変える魔法だ。
柔らかい砂岩を対象に、まずは簡単な形——球形から始めてみる。魔力を込めながら、石に「球になれ」と意識を向ける。
すると、角ばった石がゆっくりと丸くなり、完璧な球体になった。
「おおお!」
ピピピ!
フィンも驚いている。
調子に乗って、今度は小さな鳥の形を作ってみた。細部まで丁寧に意識すると、石がまるで彫刻のように精密な鳥の形になった。
「これは芸術的だな……」
さらに高度な「創造」に挑戦。複数の石材を組み合わせて、新しい構造物を作る魔法だ。
洞窟内にあった石材を使って、簡単な椅子を作ってみる。設計図を頭に描き、各部品の接合部分まで詳細にイメージする。
魔力を込めると、石材が宙に浮き上がり、自動的に組み合わさって椅子の形になった。座ってみると、体にピッタリ合う快適な椅子だった。
「これは便利すぎる……家具も自由自在じゃないか」
最後に「大建築」の基礎に触れてみる。これは大規模な建造物を作る魔法で、相当な魔力を要するらしい。
試しに、洞窟の一角に小さな部屋を増築してみることにした。壁、床、天井を一体として設計し、一気に構築する。
大地の心臓石の力を借りて、大量の魔力を投入する。
すると——
洞窟の岩壁が動き始め、新しい部屋が形成されていく。約3分で、2畳ほどの完璧な石造りの部屋が完成した。
「すげぇ……これなら小屋の増築も簡単にできる」
地魔法の実用性に感動していると、洞窟の奥から微かな光が見えることに気づいた。
「あれは何だ?」
光の方向に進んでみると、そこには隠し通路があった。
【観察結果】
秘密通路:古代地下都市への入口
延長:推定数km
目的地:地下採掘場、宝物庫
危険度:低(魔法保護あり)
「地下都市……まだそんな場所があるのか」
通路を進んでみると、そこは想像を絶する規模の地下都市だった。住居、工房、倉庫、さらには地下農場まである。
全て石造りで、魔法的な照明システムまで完備されている。古代ドワーフ族の技術力の高さに驚嘆した。
都市の中央には大きな広場があり、そこに石版が立っている。
『大地の恵みを受けし者よ
この都市の技術を受け継ぎ、地上の生活を豊かにせよ
ただし、自然との調和を忘れるな
大地は生きている』
広場の奥には資材倉庫があり、建築用の石材や金属が大量に保管されていた。
【観察結果】
古代建材倉庫:高品質石材・金属の宝庫
在庫:大理石、花崗岩、各種金属
品質:現代基準を大きく上回る
利用可能:地魔法習得者に限定
「これだけ材料があれば、小屋を大幅に改築できるな」
地下都市の探索を一通り終えて、小屋に戻ることにした。今日は大収穫だった。
小屋に戻る途中、早速地魔法の実用性を試してみた。小屋の前の道を平らに整地し、石造りの小道を作ってみる。
魔力を込めると、でこぼこだった地面が平らになり、美しい石畳の道が出現した。作業時間はわずか5分。
「これは……道路工事業者が失業するレベルだな」
小屋に着くと、さっそく改築計画を立て始めた。現在の小屋は1部屋だけだが、これを3部屋に拡張し、地下に貯蔵庫も作ってみよう。
設計図を描いて、必要な石材を計算する。地下都市の倉庫から材料を調達すれば、費用はかからない。
夕方から実際の改築作業を開始した。まずは現在の小屋を一時的に強化し、その周りに新しい部屋を増築する。
大地の心臓石の力で、大量の石材を空中に浮上させ、設計図通りに組み立てていく。
2時間ほどの作業で、小屋が立派な3部屋の家に生まれ変わった。居住スペース、研究室、そして物置部屋。地下には食材と道具の貯蔵庫。
「完璧だ……もう立派な家じゃないか」
ピピピ!
フィンとフルートも新しい家に感動している。特に研究室は気に入ったようで、窓辺に新しい巣を作り始めた。
夕食は新しいキッチンで料理してみた。石造りのコンロは火力調整も完璧で、これまでとは比べ物にならない料理環境だった。
夕食後、新しい研究室でグレンの資料を読み返した。地魔法と他の魔法の組み合わせ技術について興味深い記述があった。
『地魔法と炎魔法を組み合わせることで、金属の精錬・加工が可能になる。さらに風魔法を加えれば、空中建築も夢ではない。』
「金属加工か……次は炎魔法を習得してみよう」
魔力地図を確認すると、炎の岩場は小屋から東北に4km。少し遠いが、飛行魔法があるので問題ない。
窓の外では星が美しく輝いている。新しい家からの景色は、以前よりもずっと良くなった。
魔力地図を見ると、炎の岩場の位置が赤く光っているのが見えた。まるで燃える炎のように。
そう思いながら新しいベッドに横になろうとした時、研究室の壁に新しい魔法陣が浮かび上がっているのに気づいた。
それは今まで見たことのない、複雑で美しい魔法陣だった。きっと炎魔法習得への手がかりに違いない。
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