秘密の地図発見

 翌朝、俺は小屋の隅々まで調べることにした。

 昨夜、グレンさんの地図が光ったような気がしたのは気のせいではないはずだ。それに、壁の謎の文字と鍵穴の謎も解明したい。


「フィン、今日は小屋の大掃除だ」


 ピピッ!


 フィンも手伝ってくれるらしい。フルートは巣作りで忙しいようだが、時々様子を見に来てくれる。


 まずは床下から調べてみることにした。床板の一部がわずかに浮いているのを観察眼で発見したからだ。


【観察結果】

床板:人工的に取り外し可能

隠し場所:可能性大

最終開放:約5年前


「5年前……グレンさんが亡くなった時期と一致するな」


 床板を慎重に持ち上げると、そこには小さな木箱が隠されていた。


【観察結果】

木箱:魔法で保護されている

内容物:紙類、小さな金属物体

保存状態:極めて良好

魔法の種類:防湿・防虫・防腐


「魔法で保護された箱か……」


 蓋を開けると、中から古い羊皮紙と日記らしきもの、そして小さな鍵が出てきた。

 羊皮紙を広げてみると——これは地図だった。しかし、昨日ハロルドからもらった地図とは明らかに違う。


【観察結果】

特製地図:魔力の流れを詳細に記録

作成者:グレン・ウィザード

用途:魔力スポット探索専用

記載地点:7つの特殊エリア


「グレン・ウィザード……やっぱり魔法使いだったのか」


 地図には『魔力地図』と題されており、この地域の魔力の流れが詳細に描かれている。特に興味深いのは、7つの地点に特別なマークがついていることだ。

 1. 生命の泉(小屋から北東1km)

 2. 時の大樹(小屋から西2km)

 3. 風の谷(小屋から南3km)

 4. 大地の洞窟(小屋から北西2.5km)

 5. 炎の岩場(小屋から東北4km)

 6. 水晶の湖(小屋から南西5km)

 7. 星見の丘(小屋から真北6km)


「これが『森の7つの秘宝』の場所なのか?」


 日記を開いてみる。


萌芽月ほうがづき15日

 今日もまた魔力の調査を続けた。この森には古代から魔力が集積する7つのスポットがある。それぞれが異なる属性を持ち、魔法の研究には最適な環境だ。

 特に生命の泉は、浄化魔法と治癒魔法の実験に使える。井戸にも同じ魔力の影響が及んでいるのは幸運だった。』


『芽吹きめぶきづき3日

 王国の地図局から正式な許可を得た。この地域の魔力地図を作成し、将来の魔法使いのために記録を残すのが私の使命だ。

 ただし、悪用される可能性を考慮し、真の魔力地図は隠しておくことにする。』


熟成月じゅくせいづき20日

 後継者が現れるまで、この森の秘密は守り続けなければならない。壁に刻んだ文字は、真の観察者への道標となるだろう。

 鍵穴には、この箱の鍵が合うはずだ。すべては、次の守護者へ託す。』


「次の守護者……俺のことか?」


 小さな鍵を手に取り、壁の鍵穴に差し込んでみる。


 カチッ。


 見事にぴったりと合った。鍵を回すと、壁の一部がせりあがり、その奥から別の小さな空間が現れた。


【観察結果】

隠し区画:魔法研究室

保存物:魔法道具、研究資料、魔石

状態:魔法保護により完璧に保存

価値:非常に高い


「すげぇ……本格的な研究室じゃないか」


 隠し区画には、様々な魔法道具と研究資料が整然と並んでいた。特に目を引くの

は、7つの小さな魔石だった。


【観察結果】

属性魔石セット:7つの魔力スポットから採取

効果:各属性魔法の触媒として機能

使用方法:魔力を込めて発動

注意:初心者は1つずつ習得推奨


 グレンさんの日記には、魔法の基本的な使い方も記されていた。

『魔法は観察から始まる。対象を深く理解し、魔力の流れを感じ取ることが第一歩だ。観察眼を持つ者なら、必ず習得できるはずだ。』


「観察眼があれば魔法も習得できる……」


 試しに、一番基本的とされる「浄化」の魔法を実践してみることにした。汚れた水を透明にする、初歩的な魔法だ。

 川から汲んできた少し濁った水に、魔石を近づけながら集中する。観察眼で水の汚れの本質を理解し、きれいな状態をイメージする。


 すると——


 ぽわっと淡い光が魔石から発せられ、水が透明になった。


「お、おおお!」


 ピピピ!


 フィンも興奮している。


「マジかよ……俺、魔法使えるじゃん!」


 前世では想像もできなかった力。でも、なぜか自然に感じられた。観察眼が魔法の原理を理解するのを助けてくれているようだ。


 雨が降り始めた。

 外の作業はできそうにないので、今日は魔法の研究に時間を使うことにした。グレンさんの日記を読み、基本的な魔法の理論を学ぶ。

 どうやら魔法には大きく分けて7つの系統があるらしい。


 1. 生命魔法(治癒・浄化)

 2. 時間魔法(加速・減速)

 3. 風魔法(移動・飛行)

 4. 地魔法(建築・採掘)

 5. 炎魔法(加熱・溶解)

 6. 水魔法(冷却・形成)

 7. 星魔法(観測・予知)


 それぞれの魔法を極めるには、対応する魔力スポットで修行するのが最も効果的だという。


「7つのスポットを順番に回ってみるか」


 まずは一番近い「生命の泉」から始めよう。小屋から北東に1kmなら、午後の散歩にちょうどいい距離だ。

 昼食は、魔力水で炊いた米と川魚の塩焼き。今日から村で手に入れた塩を使えるので、格段に美味しくなった。

 雨が小降りになったので、生命の泉を探しに出かけることにした。フィンは巣が心配らしく、今回は留守番だ。

 魔力地図を頼りに森を歩く。通常の地図では絶対に見つからない、隠れた道筋が描かれている。

 30分ほど歩くと、小さな滝に出た。


【観察結果】

生命の泉:古代からの聖地

魔力濃度:極めて高い

効果:治癒促進、疲労回復、魔力増強

利用法:飲用、入浴、魔法実験


「ここか……」


 滝つぼの水は透明度が異常に高く、底まで見えるほどだった。手ですくって飲んでみると、体の奥から力が湧いてくる感覚がある。

 滝の裏側を調べてみると、岩に古い文字が刻まれていた。


『生命の恵みを受けし者よ、この力を正しく使え』


 観察眼で解読すると、これは治癒魔法の基本的な呪文のようだった。

 滝つぼで魔法の練習をしてみる。小さな傷を治す初歩的な治癒魔法から始めた。指先を少し切って、魔石を使いながら詠唱する。

 じんわりと温かい光が傷を包み、あっという間に治ってしまった。


「これは便利すぎる……」


 魔法の基礎を習得できれば、生活の質が格段に向上する。でも、グレンさんの日記にもあったように、焦らず一つずつ確実に習得していこう。

 小屋に戻ると、夕暮れだった。フィンとフルートが無事を心配してくれていたらしく、安堵の鳴き声を上げている。


「ただいま。今日は大発見だったよ」


 今日の成果を整理する。

 ・グレンの魔力地図と研究資料を発見

 ・7つの魔力スポットの存在を確認

 ・基本的な魔法(浄化・治癒)を習得

 ・生命の泉を発見・利用開始


 順調すぎるほど順調だ。でも、これもすべて観察眼があってこそ。前世の知識と新世界の力が組み合わさった結果だろう。


 夕食後、暖炉の前でグレンさんの日記の続きを読む。


『将来、この森に住むことになる観察者へ。

 急ぐ必要はない。一人の時間を大切にし、自分のペースで探究を続けてほしい。

 魔法は便利な道具だが、それ以上に、この森の静寂と恵みを楽しんでもらいたい。

 君の観察眼で、私が見逃した発見もあるかもしれない。

 この森の新たな守護者として、穏やかな日々を過ごしてくれることを願っている。

                       グレン・ウィザード』


 読んでいて、なんだか温かい気持ちになった。グレンという人は、俺と同じように一人の時間を愛し、観察と研究に人生を捧げた人だったのだろう。


 窓の外では雨が止み、星が見え始めていた。

 明日は別の魔力スポットを探索してみよう。時の大樹が気になる。時間魔法が使えるようになれば、作業効率がさらに向上するかもしれない。

 でも今夜は、グレンさんが遺してくれたこの素晴らしい発見を噛み締めながら、ゆっくりと休もう。


 そう思いながら眠りにつこうとした時、魔力地図の「時の大樹」の部分が、月光を受けて脈動するように光っているのが見えた。

 まるで、明日の探索を歓迎しているかのように。

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