(34)二人の風

 店を出てから、同じ高校三年の時に、アズサが同級生と来て入ったことがある日帰り温泉に三人で行った。風呂から出る時間を決めて、大広間で再集合する。アズサがヨウスケに聞く。

 

 「どうやった?」

 

 「最高。お姉ちゃんたちは?」

 

 「天国や」「最高やん」

 

 アズサとアヤミが口をそろえて言う。

 

 温泉で暖まった三人は、また吉田の駅から電車でアズサとヨウスケのアパートに戻った。今夜はアヤミもここに泊まるという。初夏ではあるが、簡単で豪華ということで、三人で牛鍋を作ってつつく。夜はアヤミはアズサの部屋で一緒に眠った。照れたのはヨウスケの方で、寝る前に、女子二人に「扉開けたらあかんで」と言って、自分の部屋に入って行った。

 

 翌日の日曜日、三人で簡単な朝食を取った後、アズサとヨウスケは、アヤミを最寄りの駅まで送っていく。

 

 「アヤミ、気いつけてな」

 

 昨日と違って、今度はアズサが名残惜しそうに声をかける。

 

 「うん、またいつでも会えるやん」

 

 アヤミがいつもの笑顔で答えた。

 

 「そやね」

 

 アズサもアヤミと同じ笑顔を返す。そして、ヨウスケも、いつものように、簡単に礼を言う。

 

 「ホンマありがとう。楽しかった」

 

 明るい、風通しの良い改札の前で電車を待っていると、そよ風が三人の間に吹いてくる。

 

 「あ、風」

 

 「ホンマや」

 

 アズサとアヤミは顔を見合わせた。風の意味はもう十分に分かっていた。

 

 (第二部 完・第三部「蒲の穂」に続く)

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ちかつあはうみ二人の風 幌井 洲野 @horoi_suno

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