(18)降りてきた

 山頂の山小屋に着くと、まず、富士山登山記念に、全員で写真を撮った。ヨウスケが持ってきた、小さい三脚の付いたホルダーにそれぞれのスマートホンを挟み込み、地面に置いたヨウスケのリュックの上に乗せて高さを稼いだうえで、それぞれのスマートホンで撮影した。並びは、両端を男性にしたので、右からヨウスケ、アヤミ、アズサ、父、だった。山頂はあまりスペースがないので、それぞれ肩が触れ合うように近づいて、四人ともよい笑顔で写真に納まった。ヨウスケだけは、姉のような歳の若い女性の、肩が触れそうな隣で記念写真を撮るのは初めてだったので、心なしか緊張しているようにも見えた。

 

 写真を撮ると、簡素なイスとテーブルの席に四人で座る。アズサとアヤミが向かい合わせ、その隣に父とヨウスケが向かい合わせに座る。アズサがペットボトルのお茶を買って来た。ふもとで買うよりも相当高いが、ここまで運んでくる費用も入っているので仕方がない。アズサがキャップを開けようとすると、アヤミがすかさず、

 

 「噴くかもしれんから気いつけて」

 

とアズサに言う。

 

 「あ、はい」

 

 と答えながら、アズサがペットボトルのキャップをゆっくり慎重に開けると、シューッという音がして、中の空気が外に出た。それからアズサが皆のカップにお茶を注ぐ。ヨウスケは、七合目の山小屋よりさらにパンパンになったポテトチップの袋をリュックから取り出す。

 

 「おお、膨らんどるな」

 

 父も面白そうにのぞき込む。ヨウスケが袋を慎重に開けると、「ブフッ」という音とともに中の空気が抜けた。そのポテトチップを食べながら四人はしばらく休息した。

 アヤミが、アズサや父に、

 

 「すみません、十五分ほどここで作業してもよろしいですか?」

 

と聞く。父は、

 

 「はい、休憩しているし、大丈夫ですよ」

 

と答え、アズサも、

 

 「うん、なに? アヤミさん」

 

と尋ねる。アヤミは、

 

 「降りてきた」

 

と一言言って、自分のリュックからノートPCを取り出した。アヤミの隣に座っているヨウスケは、富士山頂にノートPCを持ってきたアヤミの顔とPCを交互に見ている。そうすると、アヤミは、PCのメモアプリを立ち上げて、猛然とした勢いで何かを打ち始めた。

 ヨウスケはさらにアヤミのPCの画面に食い入るように見入る。慌ててアズサもアヤミの脇に来て、画面をのぞきこむ。アヤミのタイピングの速さがあまりに速いので、画面上で全部を追うことができないぐらいだが、どうやら先ほど見下ろした富士五湖の印象を中心に、メモ書きをしているようだ。

 

 「ヨウスケ、邪魔したらあかんよ」

 

とアズサがヨウスケを制止しようとするが、アヤミが、

 

 「ええの、別に見られてても全然かめへんよ」

 

とPC画面を見ながら応じる。そう言いながら、アヤミは相変わらず猛烈なスピードでメモを打ち込んでいる。アズサは、そのスピードに驚いたのが半分、アヤミの頭になにかが「降りてきた」ということへの安心が半分、という表情で自分の席に戻った。ヨウスケは相変わらず、アヤミとPCを交互に見つめていた。

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