(5)遅刻魔

 「それに、ウチ、あかんのよ」

 

 アヤミが続ける。

 

 「何がですか?」

 

 「遅刻魔」

 

 「え、そうなんですか?」

 

 「うん、ウチ、なんやもうどうしょうもうないぐらい遅刻するん」

 

 「たとえば?」

 

 「高校な、一年の時、一学期にもう遅刻しまくって、センセに怒られて、でもどうしても直らへんねん。で、それから、親が学校のそばまで毎朝送ってくれた」

 

 「えー、毎日?」

 

 「でな、友達と待ち合わせする時も、待ち合わせの時間になってから、行かなあかんなー、とかようやく思い始めて」

 

 「待ち合わせ時間になってから」

 

 「うん、そやから一時間遅れとか普通で」

 

 「はぁ」

 

 「で、遅刻魔いうか、チニチマしたことある」

 

 「チニチマ?」

 

 「遅日魔」

 

 「へ?」

 

 「なんや、夜寝るとき気づいたら、あ、今日待ち合わせやったとか思い出して」

 

 「…」

 

 「で、ひょっとしたら、翌日の同じ時間に行ったらおるかな、とか」

 

 「行ったんですか? 翌日」

 

 「行った。誰もおれへんかった」

 

 さすがにアズサも返事に困る。

 

 「で、ウチ、毎日定刻に出勤する社会人、無理やん、て」

 

 「そうですね。無理そうですね」

 

 アズサも、これは無理、と思ったのだが、そういえば昨日の打合せは、アヤミはきちんと定刻に来ていたことを思い出した。

 

 「でも、昨日は?」

 

 「あ、あれ、ホテルまで部長さんに迎えに来てもらってん」

 

 アヤミはちょっと恐縮したように肩をすぼめて、笑顔で答えた。

 

 「ウチ、あんまり遅刻しよるから、友達も、もうようおれへんねん」

 

 「そんなことない思うけど」

 

 「アズサちゃん、仲良うしてな。アハハ」

 

 「よかった。はい」

 

 ウソか本当か分からないようなことを笑いながら言うアヤミに、何を安堵したのかアズサ自身もよく分からなかった。でも、アズサもアヤミも、なにか気が合いそうな気がするのは同じだった。一つだけ分かったのは、どうやらアズサは、あと十日ほど、アヤミを毎日ホテルに迎えに行くことになりそうだということだった。

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