第7話 弱いものいじめ①

 私達は池袋の西口にも行ってみる事にしました。

 以前は東口にしか行かなかったのです。

 DVD鑑賞やソープランドの文字が見えます。コタン様は、何の事かと興味津々ですが、流石にまだ早いです。

 

 私もコタン様も魔族なので、こういう如何わしい雰囲気は却って居心地が良く、何だか落ち着きます。

 

 私からすると、人間文化は実に色に溢れています。音楽に溢れています。喜びに溢れています。人の数だけ欲望があり、欲望の数だけ娯楽がある様です。

 魔族は、敵に勝利し、他者を見下す事ぐらいしか娯楽がありません。

 魔界も豊かになった暁には、娯楽に溢れるのでしょうか?

 

 気が付くと、人気の無い通りまで来ていました。

 既に陽は落ち、薄暗くなっています。

 これ以上歩いても何も無いので、引き返そうと思った時に、ビルとビルの隙間から、複数の人間による恫喝の声が聞こえて来ます。

 

 今いる場所からだと、角度的に分かりずらいのですが、旗地状の小道を進んだ先に駐輪場があり、複数の人間の影が揺らめいています。

 自転車六台が停められるだけの小さな駐輪場なのですが、薄暗く、人目から逃れたい者には、うってつけの場所でした。


「おい、ショージン、あれは何をやっているのだ?」

「ここからだと、よく見えませんね」

「近付いて見るか?」

 コタン様は、無邪気に近付いて行きます。

 おもちゃを前にした子供の様です。

 私は諦めてコタン様にに従うと、そこには、壁を背にした青年と、それを取り囲む、三人の男達がいました。

 青年の身長は、175センチくらいで、背の高さだけは、男達に負けていないのですが、貧相な体型は、個体としての弱さを露呈していました。


 一方、男達は、合わせた様に、見た目が似ています。ぽっちゃり体型で、頭を坊主にしています。

 ワイシャツにグレーのスラックスを履いているので、高校生である事が分かりました。

 いわゆる不良と言うやつです。


「おい、何してるんだ?」とコタン様が陽気に声を掛けます。

 不意を突かれた不良達は、一斉に振り返りました。

 しかし相手が子供だと分かると、安堵も手伝って、軽くあしらおうとします。

「何だガキか?お前には関係ねぇから、どっかで遊んでろ」

 コタン様は見事に追い払われて、すごすごと戻って来ました。


「関係無い奴は、どっか行けってさ、関係者以外立ち入り禁止なのかな?」

 そんな事無視すれば良いのに、コタン様は真に受けた様です。

「コタン様、『関係ねぇ』と言うのは、あの年代の、あの見た目の者達にとっては、常套句でして、それにあれはカツアゲと言って、あの哀れな青年から、お金を巻き上げる為の行為ですので、お気に病むことはありませんよ」

「なんだ、弱い者いじめか?だったら俺も得意だぞ」


 不良達の下へ戻るコタン様。

 先程よりも大胆に不良達に絡みに行きます。


「おい、お前たちカツアゲをしているんだってな?良い心掛けだ。応援してやるから、その調子でどんどんやれ。なんなら手伝ってやろうか?」

 コタン様は、カツアゲされている少年にガンを付け始めました。

 元気の良い不良達も、コタン様の行動に意表を突かれ、その手を止めます。


 コタン様は、その間隙を縫って、スルスルと青年の前に進みました。

 そしてゆっくりと振り返ります。

 

「弱い者いじめは良いんだけど、お前らも結構弱そうだなぁ」

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