第15話 接触
古着屋。
店内には所狭しと古着が並ぶ。
「平民はお古やお下がり、それらを継ぎ足したり修復して着るのが一般的だな」
レーデルの説明にノゾミとアヤカは、
「布の服かー」
「古いのに興味ないんだけど」
「でも一応見ておきたいじゃん、異世界古着屋」
布類のほとんどは、廃れ汚れている。
「綿もあるけど、継ぎ足し継ぎ足しボロボロよ」
タケルは皮鎧の防具を眺め、
「これが冒険服か。金貨2枚(20万円)。高っ!」
「冒険者の街の防具は、需要があるから高めに設定されている」
「蒸れそうだし、着心地はあまりよさそうじゃないな」
「んー、街に溶け込むダミー用でもちょっと躊躇するね。皮の靴も水虫になりそうだ」
「ここは無しね」
「この店は質も悪い。大きな街なら品数も豊富、少ないが新古品もあるんだがな」
「せめて、大量生産の新品の既製服はないの?」
「新品?聞いたことがないな。
基本オーダーメイド。平民は布を買って安く仕立て自分で裁縫だ」
「中世文化だからそんな感じだねー」
「これは小金持ちが卸してる服だな」
他の古着と比べて綺麗でまともな服が少数並ぶ。
質素で簡素な服。
「お金持ちの普段着がこんなレベル?」
「服飾業界か。デザインも機能性も喰い込む余地ありありだねー。
デッサン、デザイナー、ソーイング、アパレル……」
「ちょっと、正気?」
「服飾無双系、何十とお話しあるよ」
「異世界のジャンルって、どうなってるの?」
「グルメ無双に関する物なら何千作品かな?
方向性を変えて、ここでレストランとか料理の職人育成物とかどうよ?
この世界で採れるモノ、地球の知識と掛け合わせれば今までに味わったことのない美味なモノを食べられるかも」
「そ、それは、いい方向性ね…」
店内の客に黒のローブに黒髪ポニーテールの美少女。
大人用の冒険服を手に取り眺めている。
「あ!…え? ええーー!?」
タケルは奥のコーナーの少女を見て驚く。
「どしたー?兄貴、ナンパかー?」
「おい、あの子、メイじゃないか?」
「メイ?」
「魔法少女の、アキバカフェの」
「居るわけないじゃーん、幻想?ま ぼ ろ s、」
ノゾミは少女の顔を見る。
「似てるというか、本人じゃね?」
「わ!わわわわ、え? 幻覚!?」
「アンタが驚くなんて珍しいいわね」
「秋葉原の魔法少女のメイ、メイドカフェの子だ」
「あり得ない、けど、瓜二つ…」
少女はこちらを一瞥して、別コーナーへと移る。
「さすがに本物じゃないよな」
「さすがにねー」
「神さま、何かやらかしたんじゃないか?」
「ゴンちゃんか。けど転移人ならアタシたち見て反応あるはず。目も合ったし日本人顔だし、日本語で喋ってるし」
「なに? ワタシたち以外、日本から人が来てるの?」
ノゾミはスマホを取りだし、ノゾミとメイド服のメイのツーショット画面を見せる。
「この子、地球の子なんだけど、似てなかった?」
「似てたような…」
タケルはスマホの画像を見る。
「あ!あの難攻不落のメイと? ノゾミにデレデレしてる!」
「メイとはライン交換した仲、彼女はもうアタシにメロメロなのだよ」
「は!? あの演技でも、性格も、人間嫌いの?」
「恐れ入ったかい」
「いつの間に!何で!?」
「いや、今それどこじゃないから」
レーデルは不思議そうに、
「あの子も転移人で、仲間なのか?」
「日本で似た子がいるんだけど、ただ似てるだけの人違いでしかないんだけど、この唇の横の黒子まで一緒は偶然ではすまされないねー」
「ほら、召喚不具合とか言ってたろう」
「その線が濃厚かー」
「記憶喪失とかは異世界鉄板だよな」
「タケ兄、ナンパして来て」
「え?」
「チャンスじゃん。記憶喪失でも人違いでも、メイ似の美少女とお話できるんだよ。デメリットなんてないじゃん」
「ノゾミはライン友なんだろ」
「本物だったら好感度アップ間違いなし。いいから行く」
背中を押す。
タケルは恐る恐る少女に近づく。
「タケルの好みはああいう子なのね」
「アニメでもメイ推しだったからねー」
タケルは冒険服を手に取っている少女の元へと。
「あのー、久しぶりっす。俺のこと、覚えてますか?」
「・・・・・」
「お名前は?…メイ、さん…かな」
少女はタケルを睨み、そのまま店から出ていく。
タケルは戻ってくる。
「不甲斐ない…」
「完全にナンパのダメな例じゃん」
「あれ以上、どうやって話し掛けるんだよ。それより鑑定じゃないのか?」
「あ、そっか」
ノゾミは店を出る。
左右大通りに少女の姿はなし。
「あれ?」
★★
(ゴトーさんパート)
平原。
エンディング。
<チャララララララーン♪ ラーララララーン♪>
「あにめ、おもろいのう。チキュウの活劇すごいのじゃ!」
『キュゥゥゥー』 ↑
『余はマンゾクじゃ』
エンディングが終わり、タブレットは初期画面に戻る。
「終わってしまったの。もっと「あにめ」が見たいのじゃ」
『指でちょいちょい動かしていたぞ』
シーナは指で画面を這わせる。
「お、動いた!」
画面をスクロールすると文字の羅列。
「これ全部「あにめ」なのかの?
あ、「めいどいんあびす」の文字じゃ。
ゴトーの「すまほ」の後ろにこの文字と、丸っこいウッサの獣人がいるのじゃ」
『このウサギがご主人の好みなのか』
『これを押すと、ウサギの「あにめ」が見られるんだな』
「これはもう、押さんといけんのう…」
メイ・バージョンのゴトーが空間転移で現れる。
「お?早かったのう。早速じゃが「めいどいんあびす」を見せるのじゃ」
「それは後だ」
「冒険服はどうしたん?買ってこんかったか?」
「トラブルが起きてな」
「トラブル? 誰ぞに絡まれでもしたんか?」
「ああ。息子にナンパされた」
「ん?…ナンパ? ん?息子?」
「息子と、娘2人もその場に居た」
「ん?……誰の息子娘じゃと?」
「俺のだ」
「…すまんが、意味不明なのじゃが?」
「この前、森で会った3人組だ」
「なして、それがゴトーの子供になっとるんじゃ?」
「なっとるじゃなく、正真正銘マリアと俺の子供だ」
「……」 「・・・・・」
「あの3人組が、ゴトーの子供ら、じゃと?」
「そうだ」
「……」 「・・・・・」
「待て!あん時あの森の中で、実の子とワッチに伝えたか? 記憶にないが」
「かわいい子には旅をさせろ。我が子を千尋の谷に、と言ったはずだが」
「……」 「・・・・・」
「ゴトーよ」
「何だ」
「言葉少なげとか、他人から言われたことはあるか?」
「よくマリアにも言われたな」
「実の子を森に放っとたんかい!」
「真の召喚者、俺の子供だ。ステータスも確認。SSクラスの魔物まで対処は問題はない。現にテオタビの街の古着屋で元気に買い物をしていた」
「ワッチとは感覚が違い過ぎるじゃろ。息子らなら別にあの時、話しかけてもえかったじゃったろうが」
「俺も迷ったんだが」
「なにに迷う必要ある?」
「逆の立場で考えろ。シーナが裸でゾウパン天狗の面。その姿を初対面の子供らに目撃されたら平気で接触し、話し掛けられるか?」
「……無理じゃわ!」
「そういうことだ」
「そうじゃったんか……。
でも、ワッチには言ってくれてもえかったじゃろうが。息子らに訳ぐらいは伝えられたぞい」
「この世界での対面、俺も少なからず動揺をしていた。せめてネコさんパンツだったなら」
「なんかすまんのう。ゾウさんはワッチにも責任の一旦があるわ」
「気に病むな。何事にもタイミングだ。いずれ父と正体を明かすこともあるだろう」
「正体を明かしたくないんか?」
「・・・・・」
「ゴトーよ。第一印象はそうなってしまったが、血の通った実の子じゃ。会って話したかったら、恥を忍んでも話してもええと思うぞ。
ワッチの子供のように後悔したくなければな」
「・・・・・」
「年長者の言う事も聞くもんじゃぞ」<キリッ>
「その年長者なんだが」
「なんじゃ?」
「シーナは68歳だな」
「…そうじゃが」
「俺の実年齢は72歳だ」
「……?」
「地球での年齢は72歳。このテラウスに降り立ち、神から若返らせてもらった」
「……」 「・・・・・」
「カミングアウト遅いじゃろ!!!」
<パコーン!>
――
15 接触 終わり (65)
16 薬草売りの少女 (66)
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