Part5 君と、二人でじゃれあい。

 それから約一ヶ月。文愛の高校では、とうとう文化祭前日を迎えていた。

 その日は朝から校内に元気な少年少女の声が響き、未だ前日の準備のタイミングだと言うのに、まるでクライマックスのような盛り上がりを見せていた。

 その熱狂は昼休みである今も続いており、相変わらずの青春の空気感が漂っていた。

 そんな中、文愛はと言えば。

「…………死にそ」

 呼ばれていた生徒会室にて座り、俯いていた。伝えられていた時刻より大分前である故空っぽのその部屋に、文愛の呟きが虚しく消え行く。

「…………疲れた……」

 ひとりぼっちの現状をいいことに、俯きを深めて更に呟く。

 何故こんなことになっているかと言えば、シンプル。

 実行委員の業務量に忙殺されていたのだ。

 実行委員に任命された翌日から仕事は始まり、クラス企画の会議、学校から借りる物品のリストアップ、生徒会企画の打ち合わせetc……

 とまあ、概ね予想出来ていたことではあるのだが、かなりの仕事量だった。文愛は今まで陰キャであり、関わることの無かった業界。それによる心理的なストレスというのも作用していたのだろうと推測できた。

「でも、麗那のためだもんな……頑張ろ」

 そう言葉を放ち、自らを鼓舞する。

 これまでも、何度か繰り返したことだった。

 そんなこんなで、気持ちをめいめい引き上げ顔を上げた時。

 生徒会室の扉は、突然に開かれた。

「今日はついに文化祭前日!! 盛り上がってるか実行委員の諸く……あれ」

 そんな馬鹿みたいにやかましい声で入ってきたのは、この高校の生徒会長、3年生の今江いまえ文也ふみや

「まだ私だけですよ」

 文也に対し、そう適当に言葉をかける。

「もう昼休みが始まって10分だというのに、まだ皆来ないのか……」

「皆まだお昼食べてんですよ。私と先輩が食べるのが早いだけです。てかまだ10分あるでしょうよ」

 文愛は陰キャではあったものの、生徒会長とは一ヶ月の間毎日のように打ち合わせやらで話していたため、割と『友達』レベルにはなっていた。そのためこのように、ツッコミを入れられるぐらいになっていたのだった。

 ちなみに、文也の集合が早いのは単純に食事のスピードが早いだけだが、文愛は食が細すぎるのが原因だった。別に身体的な不調は出ていないが文也から変に心配されそうなので、黙っていたが。

「ふむ……それもそうか。なら、我々今江同盟で待つとしよう」

「いつも思いますけど、その『同盟』って何なんですか」

「だって、同じ今江だろう? それに、『文也』と『文愛』。下の名前までそっくりときたら、同盟を組む他ないじゃないか」

「組む他ない意味が分からないんですが。てかね? 先輩がそういう関係性を押し出そうとするから、やれカップルだの言われるんです。あと一部の人らには兄妹だとか勘違いされてるんですからね? その責任分かります?」

「カップル……? 責任……? あっ、いやそんな……/// ま、まだ高校生だし……なぁ?」

「何をどうやったら『……///』に繋がるんですか。私別に告白してないですからね?」

 今江文也は、こういう人間だった。

 真っ直ぐでいい人……とも言えるのだが、言い方を変えれば、馬鹿正直な天然野郎。ただ、文脈から言葉の意味を察せないのは、最早天然とかじゃないただの馬鹿なような気もするが。

 文愛はそんな彼と、人が集まるまで雑談を繰り広げていた。

 そして、待つこと五分後。全員が揃った。

 会長一人に副会長二人と、生徒会の雑用係みたいな役職である、生徒会総務四人。それに各学年六クラスの実行委員十八人を合わせ、計二十五人が生徒会室に集まっていた。

 しかし生徒会室というのはここまでの人数を想定している部屋でもないため、半分ぐらいは立って話を聞くことになっていたが。

 そんな中で、文也が口を開いた。

「では、これから明日の生徒会企画について確認する」

 今日実行委員が集められたのは、生徒会企画の最終確認のためだった。この学校の文化祭の生徒会企画というのは、各クラスの実行委員も参加するのが常なのだ。

 して、何をやるかと言えば。

「まず、内容の確認から……今年我々が行うのは、演劇部全面協力のオリジナル演劇だ。時刻は午後4時30分から、場所はグラウンドに設置された特設ステージ。ここについては、皆大丈夫だな?」

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