Part4 君と、文化祭。
そして、迎えた6限目。
それは、ロングホームルームの時間として設定されていた。
「何やるんでしょうな……」
隣に座る咲季が、机に肘をつきながら呟く。
「うーん……あ、あれじゃない? 文化祭」
文愛の通う高校では、毎年11月に文化祭が行われる。そして、去年その準備は10月頃から始まっていた。その記憶を踏まえた返答だった。
「よーし、ロングホームルーム始めるぞ〜」
未だ議論を交わす2人だったが、その言葉と共に担任が入ってきたことで止め、答え合わせを待った。
授業開始の挨拶も終わり、いよいよ担任が話題を提示する。
「今日は、いよいよ来月に迫った文化祭について、色々な役職などを決めていく。役職は――」
結果、文愛の仮説は正しかった。
担任が黒板に文化祭の役職を箇条書きで書いていく。実行委員、クラス企画計画委員など、様々な役職があった。
やがて全てが示されると、希望の役職を考える時間が始まった。
「うえ〜……全部めんどくさそ……どうする?」
気づけば机に突っ伏していた咲季は、文愛の方を見て言う。
「うーん……」
文愛の中には、少々迷いがあった。役職の文字の下に書かれた、『主な仕事内容』の欄を眺め思考する。
だが実を言えば、文愛がこのように悩むというのはかなり異例なことであった。基本的に文愛というのは学校生活に関してはかなり怠惰な人間であり、行事においては必ず一番楽な役職を選ぶと決めていたのだ。
そのため去年の文化祭では、他の役職の人が立てたクラス企画の計画を指示に従って形にしていくだけの、クラス企画準備委員というのをやっていたぐらいだった。
では、何故今こうして悩んでいるかと言えば。
(麗那は……どんな話を聞けたら喜ぶんだろ……)
麗那が理由だった。
クラス企画準備委員というのは、前述の通りかなり単調な作業である。そんな話を聞いてたって、麗那は面白いと感じないだろうな、という考えが浮かんでいたのだ。
結局、文愛が取った選択は――
「……実行委員、かな」
「は……? おま……そんなことする奴だったっけ?」
実行委員。文化祭において、最も忙しいとも言える役職である。クラス企画の責任者として会議に参加したり、クラス企画において必要な物品をリストアップし生徒会に提出したり、文化祭のクライマックスに行われる生徒会の企画にも協力したりなど……
今までの文愛であれば、絶対に選ばない役職だった。
「だって、めちゃくちゃ忙しいんだぞ? 放課後も捧げて、昼休みも捧げて! そんなんでいいのかよ!?」
去年とは全く異なる様子を見かねた咲季は『正気か?』とでも問うように実行委員が如何に大変かを説く。
「別に? 大丈夫でしょ」
文愛は、適当にそう返事をした。
(大変だろうけど……きっといろんな話ができるようになるはず)
そのまま各々が希望する役職を宣言する段になったが、当然わざわざ実行委員を希望する変人はおらず。文愛は何事も無く実行委員となったのだった。
「マジでどうしちゃったのさ……あ、もしかして、他クラスの彼氏も実行委員やるとかか? 絶対そうだろ! このリア充が! 私を置き去りにしやがって!」
……文愛の横では、ずっとそんな陰謀論が唱えられていた。
数時間後。
文愛の姿は、再び図書館への道半ばにあった。美麗な満月の照らす道を無我夢中で駆け抜けてゆく。
そうして今日もまた、五分と経たず辿り着いたのだった。
いつもの病床少女を手に、いつもの椅子に座る。両側のついたてに挟まれた中で、裏表紙から開いた。
すると、既に新たなページが追加されていた。
『今日はどんなことあった?』
この頃は、このように麗那側から言葉を投げかけてくることが多かった。
「今日はね、文化祭の委員決めした。でね、私実は……実行委員になったんだ。一番大変な奴」
文愛は自身の役職を噛み砕いて説明し、麗那へと小声で伝える。
『一番大変な……どんなことやるの?』
「クラスの企画で必要な物考えたり……それの貸出を受けるための許可を貰いに行ったり……まあ、めんどくさい仕事全般だよ」
『じゃあ文愛は、なんでそれを選んだの?』
麗那から放たれた質問に、文愛は自信を持って答えた。
「きっと、いろんな面白い話ができると思って。麗那にもっと喜んで欲しかったから」
ついたてで周りから見えないのをいいことに、口元に少しばかり微笑みを浮かべて言った。
『そっか…………うん。ありがとう。』
その後は、他愛のない話が続いた。
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