フリーダムデイズ!

めんとげ

第1話 バカは死んでもなおらない

4月下旬、朝7時40分。



昼の激込みな購買に行くことを避けるために、いつもより早めに学校に向かうおれ達は今日もダルそうに通学路を歩いていた。



おれの名前は梶沼拓海かじぬまたくみ。あだ名はタミ、何の取り柄も無い地元の男子校に通う高校1年生だ。

そして、登下校を共にしている変な友達3人。



「今日の1限っちなんやったっけ~タロ君」



1人目は佐々木実斗ささきみと

エセ方言を使って喋る変なヤツで、あだ名はミント。学校でまともに勉強しているところを見たことがないのにそれなりに頭が良かったり、入学早々両親が裏社会の人間だという噂が流れてたりする。実際に話してみるとただの陽気なヤツだとしか思えないので正直この噂には全く興味がない。



「確か体育だったと思いますよ、ですよねカナちゃん」



2人目は鷹瀬慎太郎たかせしんたろう

黒髪に黒縁眼鏡でいかにもな真面目野郎にしか見えないが、正直こいつが一番アホでバカだ。

この学年では一、二を争うイケメンなのだが、口を開けば残念なので他高の女子からもモテない悲しいヤツ。ちなみになんか色々残念で名前負けしているという理由で、本名からもじってクラスの奴らもタロと呼んでいる。



「俺に聞かれても知らない……けどタロがそう思うんならそうじゃない」



3人目が宇都宮奏太うつのみやかなた

おれら……いや、このクラスの中で一番暗いヤツ。

普段は暗くて毒舌(主にタロ相手)だが、大好きなアニメとか漫画のことになると超早口になる。

「俺にとって布教は生きがい」らしく、定期的に色んな漫画やゲームを進めてくれる。

大体の奴は「カナ」と呼ぶが、幼稚園からの幼馴染であるタロだけは「カナちゃん」と呼んでいる。


そんなおれ達はこの学校で始めて出会った。タロとカナは入学前から知り合いだが、全員席が近い関係で何となく話すうちに一緒にいることが多くなった。


出会って早2週間、幼馴染2人との若干の距離感はあるがかなり楽しい学校生活を送っていると思う。


「カナ君はずっとスマホで何やってるん?」

「あ、えっと…時間割撮ってたから一応確認しとこうと思って……あ、ホントに1限体育だ、だる~…」

「……!もしかしてボクのために確認してくれたん?嬉しいわ、ありがとう」

「別に、タロの言ったことがあってるか気になって調べただけであって、本当にミントのためとかじゃないし…!」

「でたツンデレちゃん~こゆとこは可愛いんよね」

「う、うるさい」


カナはからかわれて恥ずかしかったのか、そっぽを向いてしまった。


「で、さっきから全く喋らないタミはなにやってんの」


その流れでおれに気づいたカナがこっちを見た。


「や、面白い奴らだなーって後ろから見てただけ」

「はぁ!?そんなこと言ってるタミもよっぽどだから、ね!?」


おれの言葉に目を丸くしたカナがさらに前を歩くタロとミントに同意を求めた。


「たしかに、タミ君も色々変ではあるよねー」

「その通りです、僕らを面白がる資格はないですよ!」

「だよねー常識人枠みたいな感じでいるけど、校則違反のパーカーとかバチバチのピアスとか色々凄いからね!?」

「そうか??別に普通だろ」


確かに校則違反をしてはいるが、パーカーは着てるが上に学ラン羽織ってるし、ピアスも先生から注意されないからOKだと思ってたし、そもそも……


「ピアスって校則で禁止されてたのか!?」


「「「そこからかい(ですか)ッ!!!」」」


「入学式の日に先生から説明あったやん、それもまさか…」

「え、そんなのあったん?おれ全然聞いてなかった」

「全く、そんなことだろうとは思っていました、が」

「ここまでとはね…」


幼馴染2人が目を合わせて微妙な顔をしている。


「先生も堂々と開けてたからビビって注意できんかったんやろうなぁ」


説明とかみんなちゃんと聞いてたんだなー、スゲー。


「あ、もうひとつあった、タミの変なとこ!」


ハッと思い出したカナはおれに一層近づいてきた。


「おれの変なとこ……さっき言ったのは何となく分かったがこれ以上変なとこなんてあるわけないだろ」

「や、あるある。バカみたいにチョロいとこ」

「あー、チョロいときあるよね。バカみたいに」

「そう言われたらありますねチョロいとき。バカみたいに」


「バカは余計だ。てか全部余計だ!別にチョロくねぇし!!」

「いやいや、タミ君がチョロくなかったらこの世界にチョロいの概念が無くなっちゃうよ」

「チョロインが存在しなくなってしまう」

「こちらにはチョロエピソードもありますからね」

「なんだよチョロエピソードって」


「褒めたらすぐ調子乗る」

「他校の女子に話しかけられたら相手が自分に好意をもってると勘違いする」

「お菓子あげたらすぐ機嫌よくなる」


3人で順番に言って、「これはチョロいだろ」と言わんばかりの表情を見せる。

別にチョロくねぇし、嬉しいと思ったら顔に出てるだけだし。



「……タミ君ってイカしてるよねー特にそのピアス!!いやぁ最強メンズにしか似合わんわぁ!!」


少し間があいたと思うと、急にミントがおれを褒めだした。

その言葉におれは反射的に顔が熱くなる。


「あと制服下のパーカー!ナウでヤングな感じが最高です!」

「えーっと……あ、染めた髪もチョベリグだよねー、オレンジ髪がイケメンを引き立ててて超ヤバい!」


この2人はなんでちょっと古いんだ。

……まぁ、


「でもまぁ悪い気はしねぇよな…!よし、今日はお前らの委員会の仕事手伝ってやるぜ!」


「「「(チョロいなぁ………)」」」



「これでタミ君も変人なことが証明されたし、いやぁ朝からスッキリやなー」

「そうですねー……って、もうこんな時間!?皆さん早くしないと朝から購買に行けないですよ!!」


せっかく早めに出たのに、結局いつもと変わらない時間に近づいてきた。


「途中から話しに夢中になりすぎて止まってたからだよ、どーしよ…!」

「いや、まだ近道をすれば間に合います!こっちです!」


思い出したタロは急いで走った、普段なら直進するところを左に曲がる。なんか近道っぽいな。


「そうと決まれば学校まで全力ダッシュだ!!」

「いぇーい」

「ちょっ、俺無理だからねギャーーー!!!」


ミントと片方ずつカナの手を握って走り出した。


「いいねぇ!さすが頭脳担当!!行っくぞー!あ、ちなみに前回のテスト何点やったっけー?」

「5点で僕らの中で一番低かったはずですー!」

「全然頭脳担当じゃねぇじゃん!!!!ミントは誰から聞いたんだよ!?」

「んー勝手な見た目からの想像―、ごめんねタロ君―」

「言われなれてるから構わないですよ!それより急ぎましょう!」


中身のない会話をしながらタロに着いて行った。


そのままタロに黙って着いて行って10分経過、普通に行ってもとっくに着いてる時間だ。


「なぁ、いつになったら着くんだ、全然近道じゃねぇじゃん」

「そうだね、もう10分は歩いてるけど全く学校が見えないねー」

「もしかして……迷子なの?」


全員でタロの前に立つ、目の前には冷や汗ダラダラなタロがいる。


「や、やっちゃいましたー……あはは」

「ちなみにこの道実際に使ったことあるの」

「……あの辺りを歩いてた小学生が学校への最短ルートだって教えてくれまして……いつも教室に一番乗りしてるっておっしゃってましたし………」


「「いやそれ小学校への近道だろ!!!!」」


カナと一緒にツッコんでしまった。ミントは横で苦笑いしている。

こいつが究極のバカなことを忘れていたおれ達にも非はある。


「「ここまで来たし遅刻するかぁ……」」

「え!?何でですか、もうすぐそこですよ!」

「だからあれは小学校なんだってば!通ってる学校の見た目くらい覚えんかい」



こうして、この日はみんなで仲良く遅刻したのだった。

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