ナイナイとヤーコフ

SB亭moya

第1話 サーブ練習


 小学生の時の記憶と言ったら、仲が良かった友達のことが真っ先に思い浮かぶ。

 ……逆に、ヤーコフとの思い出しかないのかも知れない。


 私は女子バレー部だった……。





 * * * * *




「ねえヤーコフ、今日もさ、サーブの練習だけで終わったんだよ」


「ふーん」


「しかも、サーブっていってもさ、体育館の端っこでずーっと順番待ってて、やっと回ってきたと思ったら、三回だけ」


「三回?」


「うん。三回やったら『次ー』って言われて、また待ち。マジでずっと待ち時間。意味ある?」


「うーん、ないかも」


「それでさ、先生もなんかずーっとスマホいじってて、全然見てないの。『ナイスサーブ!』って言うんだけど、誰に言ってるのかもわかんないし、たぶん見てない」


「ふふ、やば」


「でしょ? それなのに終わったあと、『今日もいい練習だったな』って言うんだよ? どこがだよって感じじゃない?」


「たしかに」


「あとさ、部長の古井さんが『声出して!』って言うんだけど、声出すタイミングも意味わかんないの。誰かがサーブ打つたびに『ナイッサー!』って言ってんの。ナイスじゃないし」


「ナイッサー、ね」


「しかもさ、帰るときに『来週からは土曜日も練習するよー』って言い出してさ、マジかって思った。土曜日くらい寝かせてくれっての」


「ほんとそれ」


「ねー。ヤーコフ、クラブ入ってなくていいなー」


「うん。家帰ってたこ焼き食べてた」


「たこ焼きて (笑) いいなー私が部活動で虚無みたいな時間を浪費している間、

 ヤーコフはたこ焼きかあ」


「でも、内藤の気持ち、すごくわかるよ」


「え、わかってくれるの!?」


「まあ、私は帰宅部だから、全く同じ気持ちかはわからないけれど」


「へー帰宅部も辛いことあるんだ」


「あるあるある。あるあるアルよ。人生色々だよ」


「だよねー。じゃあ私も部活やめて帰宅部になっても辛いのか。はあ」


「仕方ないよ。でも、内藤の辛い気持ちわかるよーよく」


「本当?」


「うん。『ナイッサー』ってさ、『イエッサー』の対義語のことでしょ?」


「……え?」


「え?」



 ヤーコフとは中学生で離れ離れになってしまったが、一緒にいた六年間は、全ての思い出に彼女がいる気がする、が、

どうして彼女と仲が良かったのか、理由を探しても一個も見つからないのである。

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