儀式
いつも仕事の時に使うコンビニがある。
どこにでもよくあるコンビニだ。
そこでいつもコーヒーやお茶、チョコレートなどを買っている。ある意味、仕事に入る前のルーティンと化している。もしかしたらここの店員には、この時間に毎日同じようなものを買っている人だと覚えられているかもしれない。
今日通りかかった時、いつもと違うことがあった。
ゴミ箱の前でしゃがみ込んでいる人がいるのだ。
急病人かなと思い、そちらを観察するとどうやら違うようだった。
目の前にコーヒーのペットボトルやエナジードリンクのボトル缶、眠気をとると謳っているドリンク類が何本も置かれていた。さながら何かの儀式のようだった。
背骨が浮いた青いTシャツに、白と黒の別のサンダルを両足に履き、白髪混じりの長髪でパッと見は老婆のようだった。しかしよくよく見るとそれは30代にもいかなさそうな男性だった。
ただただ何もするわけでもなく、ペットボトルを見つめていた。
少し不気味だなと思いながらも、自分の買い物を済ませるために店内に入る。いつも通りの買い物をしようと思ったが、今日はいつもより疲れていたため、ストレスに効くチョコを買った。
店を出て、早速コーヒーとチョコを飲み食いしようとしたが、さっきの男がまだそこにいた。
さっきまで満杯に入ってたドリンク類が全て空になっている。そして天を仰いでいた。
他に通りかかる人は見て見ぬふりしていたが、自分はその異質さに目が釘づけになってしまった。
ハッとして目を逸らしながら缶コーヒーを開ける。カシュっという音がした。そのまま飲み干そうとすると何やら視線を感じた。
あの男がこちらを見ているのである。焦点があっていないようだが爛々とした目で、少し笑みを浮かべながら、こちらをずっと。
すぐに視線を逸らしたが、なんともいえない不気味さを覚えた。
ガラガラと音がする。店の店主だろうか、高齢の男性店員が代車にゴミを乗せて歩いてくる。
すると男は急に立ち上がり、店員に近づき、
アレ、ください。
こちらを指差しながらそう言った。
店員もえっ。と驚いた様子であったが、男は鞄から直接小銭を渡し、こちらと店員を交互に見ていた。
わかりました。と店員は代車を邪魔にならないところに置いて店に戻っていった。
男はその様子を見送り、店員がいなくなった瞬間、またこちらに首を向け、あの例の目で満面の笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
一瞬目が合うが、その瞬間、口から泡のようなものが出てきていた。
流石に恐怖を感じ、ここにはいられないと店内に逃げ込んだが、まだ視線を感じた。窓越しに外を見ると、あの男はまだこちらを見ていたのだった。
トイレに隠れてやり過ごすつもりだが、あの男はもうどこかへ行ったのだろうか。
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