■第二話 翌朝、地獄の忠告タイム

 翌朝――教室。


 園崎ゆりえは、プリントの束を手に教室に入ってきた。

 顔色は……いつにも増して、悪い。


(寝てない。寝れるわけない。推しが私に告白しようとしてた夜に眠れるはずがない)


(しかも私しか聴いてない。つまりあれは、私への告白みたいなもので……いや、違うけど……違わない……!?)


「……おはようございます」


 ぎこちない声。


 一方のももは、いつも通り席について、うつむいている。


 いや、いつも通りに見えるが――

 少しだけ顔が赤い。

 昨夜、自分の語った想いを思い出しては、布団に頭を突っ込んでいたのだ。


(誰も、聴いてない……よね……?)


(もねりすゆりえさん以外、コメントもなかったし……)


(よかった……セーフ……たぶんセーフ……)


 ――そう、お互いが「ギリギリバレてない」と思っていた、

 この状況が最大の地雷だった。


 休み時間。


 ゆりえは、震える手でプリントの山を整理しながら、

 意を決して、ももに声をかけた。


「あの、篠原さん……ちょっとだけ、お話してもいいかな?」


(あっやば、怒られる系!?)


(えっ、でも何もしてないよ!?えっ、でも、してないわけでは……)


(してないけど、してる!!心当たりあるけどない!!)


 机の横に立つゆりえ。

 ももは、おそるおそるうなずいて席を立った。


 廊下。ふたりきり。


「えっとね……昨日の夜、ちょっと気になったことがあって」


(うわあああああ!!!!!!)


「篠原さんって、えっと、もしかして配信とか、してたり……?」


「っっっ!?」


 心臓が跳ねる音が聞こえた。


「いや!違うの!怒ってるとかじゃなくて!!

 ちょっとだけ、心配で!その、内容的に、少しだけ……ね?」


「個人的なことを、こう、広く発信しすぎると……トラブルになったり、誤解を生んだりするかもしれないし……」


 ゆりえ、限界の先生ムーブ。


「だから、その、もしああいう話をするときは……場所とか、気をつけたほうがいいかもって、思って……」


(がんばれ私!!先生っぽいこと言った!!教育的注意!!)


(でもこれ以上踏み込んだらバレる!!!……いや、もうバレてる!?)


 ももは顔を伏せたまま、小さく口を開いた。


「……あの……」


「昨日の配信って……」


「視聴者、ひとりだけだったはずなんです」


「再生履歴……“もねりすゆりえ”さん、だけで……」


 ……

 …………

 ………………


「えっ?」


「……ゆりえ……先生?」


「ぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!!」


 どちらが叫んだのかもわからない悲鳴が、

 廊下に響いた。

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