■第三話 クラスの静かな決起

 放課後、1年C組のクラスLINEは静かにざわついていた。


『たぶん、だけど——momo_ne=もも。』

 

『先生はほぼ確実にもねりす。』


『大切なのは、この二人をそっとしておくこと。』 


 副級長・山瀬のメッセージは、端的で明確。

 そして、誰もが“絶対に外に漏らさない”という空気を即座に察していた。


「まじで……!?あのショートに流れてくるASMRの人、ももちゃんだったの……?」


「えっ、ていうか、先生ってリスナー!?そういうことだったの!?」


「それで文化祭であの流れ!?納得すぎるんだけど……」


 一部、夜中にmomo_neの囁きを聞いたことのある子はすでに知っていた。

 けれど、それが“隣の席のもも”だと結びついていなかったのだ。


 LINE上には、誰ひとりとして茶化す者はいなかった。


 それどころか――


「ももちゃんの配信、ほんといい声だよね」


「先生、救われてるって感じする……」


「このふたり、うまくいってほしいよね」


 自然と、あたたかいメッセージが溢れていく。


『ってことで、“干渉せずに応援する班”の設立を提案します。

  あと、“ふー一撃計画”について、そろそろ本格的に練っていいかと』

(by 山瀬)


「ちょ、ふーって……あの“ふー……してあげるね……”のやつ?」


「うん、あれ食らったら人類滅亡するやつ」


「リアルで先生にやったらどうなる?」


「物理的に蒸発するんじゃない?」


「ていうか、今までされてないの奇跡じゃない?」


 スタンプが次々と押される。


 もも=momo_ne

 ゆりえ=重課金もねりす


 その事実が共有された今、

 クラスは謎の団結力を発揮し始めていた。


「計画名は?」


「“風神雷神計画”でしょ」


「もう“ふー”しか勝たん」


「ていうか先生、ガチで限界オタクだったのか……親近感」


「そっと保護しなきゃ……」


 そして誰かが言った。


「でもさ、“ふー”をわざとやらせるのは違うと思うの」


「うん、“自然なふー”じゃないと」


「わかる。だから“ふーを誘発する環境作り”ってことよね」


 山瀬からの返事がすぐ返ってくる。 


『自然なふーが発動する確率を最大化する。

 それが我々の“裏方力”です。』


 一同、スタンプで爆笑。


 その後、“空間誘導班”“視線フォロー班”“静音サポート係”など

 謎の役職がクラス内で自然発生しはじめる。


 表面上は何も変わらない教室。

 でも、そこには確かに――


 ももとゆりえの関係を、

“バレずに・でも確実に”進めようとする応援団が存在していた。


 そして、誰も知らないところで、

 あの“ふー”が、確実に――

 その時を待っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る