ハロー!アンダーワールド!
校長の有難い話という艱難辛苦を超え。
クラスメイトがどういう配置になるかという艱難辛苦を耐え。
どの先生が担任になるかという艱難辛苦を舐め。
そして何やかんやで満貫成就に至る。
艱難辛苦・三段突。
兎も角、こうして自由を手に入れた。
放課後まで耐え抜いた。
今日は午前で終わりだったので、久方振りに外食することにする。
何食べよ。
サウィゼかな?
「にしても、幸運だったな」
そう、超嬉しきことに。
我が親友が一人が、同クラスであったのだ。
気軽に物事を話せる、信頼に値する男友達。
しかも、席が近く。
ハッピーハッピーハッピーだ。
ハピハピハッピーだ。
「・・・・・ん?」
ポケットが振動する。
着信だ。
慌てて携帯を取り出し、赤の通話マークをタップする。
通話相手は、仕事先の先輩だ。
「お疲れ様です」
『おー、お疲れちゃん。午前授業だからこの後空いてるだろ?付き合ってくれよ』
「構いませんよ、何処で落ち合いますか?」
『駅前のサウィゼで、キミも好きだろ?』
「ええ、大好きです」
先輩からお昼のお誘いだ。
彼は今日に至るまで、色々サポートしてくれた恩人だ。
大恩人と言っても差し支えない。
『そーいや、お姉ちゃんたちとはよろしくやってる?』
「はい、昨日誕生日だったので、結構なご馳走を頂きました。それに、洒落た服も」
『服飾も?そりゃあ、好かれてんね』
「家族ですから」
深玲の読モ経験を活かしたスペクタルファッションパワーにより、バチバチに似合う服をプレゼントしてくれた。
非常に嬉しい。
彼女の手にかかれば当人が持ち合わせる、百パーセントを超えた百パーセントの魔力を引き出してくれる。
一流の研磨師だ。
『・・・・・んで、キミはプレゼント返ししたと』
「いつも世話になってますからね、先輩にも渡しますか?』
『いんや。てかもう頂いてんだよ、ハイカラな写真立て。しっかり使わせて貰ってるよ』
「イェーイ」
『イェーイつった?』
世辞だったとしても、そう言って貰えるのは非常に嬉しみ。
結構お高め円だったので、喜んでいただけるのはヨシ。
先輩に合う雰囲気のブツを選んだのだ。
似合うだろうなぁ。
『あ、そうだ。九郎クン、少し頼んでくれるかい?』
「ええ、何でも」
『あっ、それじゃあ・・・・・』
そうして、先輩を。
いつも通りの事を。
口笛を吹くような気軽さで。
『近くの廃工場に居るマフィアとヤクザたち、ぶっ倒してくれないか?』
「了解しました」
使命を授けた。
少なくとも、悪ではない使命を。
—————————
「では、契約のお時間デース・・・・・」
「こんなコテコテな事あるか?」
寂れた廃工場にて。
日本のヤクザと、アメリカのマフィアが闇取引をしていた。
さながら、映画のワンシーンだ。
下っ端構成員である身としては、非常に緊張する場面だ。
「この新作ドーピングドラッグ【真・HORIZON】、一口飲めばあっちゅー間に筋肉マッチョの変態野郎デース」
「・・・・・良心的な値段なのは嬉しいが、その喋り方はなんだ?」
「癖デース」
「癖か、成る程、納得することにする」
片や、パツキンの白人のマフィアの構成員。
片や、オールバックサングラスのヤクザの事務局長。
両人共、背後には大量の部下たち。
テンプレートのような姿だ。
一年目の此方はヤクザ会のルールに則り、紺スーツの白シャツだ。
チラリ、と。
事務局長の隣に居る存在に視線をやる。
「・・・・・・・・・・・・御座る」
忍者がそこにいた。
夜より黒い忍者服を着こなし、忍者刀を帯刀しており、脚に苦無を装着している。
子供時代に夢までに見た、そのまんまの忍者だ。
「ところで、そこのニンジャは何者デース・・・?」
切り込んだ。
流石に存在がデカ過ぎる。
こんなあからさまな人間が居たら、そりゃあ突っ込むよな。
俺だったそーする。
「コイツぁ、日本の傭兵だ。それも凄腕のな」
「凄腕で御座る」
「オー!詰まるところ、ジャパニーズニンジャデスか?」
「そうだ」
「そうで御座る」
オウムか?
そう勘違いしてしまう程に、オウム返しを多用している。
しかし、だがしかし。
あの黒ずくめの男、もとい忍者からは、途轍もない覇気を感じない。
感じない、そう感じないのである。
「えぇと、伊賀だったか?それとも甲賀だったか?」
「
「知らないファミリーネームデスね、まぁ細かいコトはドッデモ・ヨシデース!」
どうでも良しの言い方独特過ぎるだろ。
さて、引き続き、あの忍者。
覇気の類が見当たらないのだ。
あのマフィアも、事務局長も。
少なからずオーラのようなものを纏っている。
だと言うのに、あの忍者はそれが無い。
苦無や刀を見せびらかしているというのに、殺気や恐怖心、警戒心といったものを抱くことができない。
その事実に、悪寒を走らせた。
あの忍者、ホンモノだ。
「さて、お喋りが過ぎたな。取引と行こうじゃねぇか。これが約束の金だ、見てみろ」
「オーケーデース、本物確認を行いマース」
ジュラルミンケースを受け取ると、その場で開き、真贋判別を始めた。
詰まっているのは、紛れもない本物。
新一万円札、二百枚。
しめて二百万円だ。
とんでもない値段だが、それでもドラッグの効能を考えたら、安い買い物らしい。
「・・・・・本物デース!サンクス!」
「おう、じゃあブツを出してくれ」
「コチラデース!今直ぐ試してみてもヨロシデースよ?」
自信満々な様子で、アタッシュケースを投げ付ける。
雑な扱いだ。
本当に、本物なのだろうか?
「じゃあ、確認を———」
刹那。
掻き鳴らすような金属音が響いた。
瞬きを終える頃には、アタッシュケースのみを鉄パイプが貫いていた。
「・・・・・忍者ァ!」
「了解で御座る」
呼応すると、懐を弄る。
取り出したるは、正に鉄塊。
サイズ的には絶ッ対に仕舞い込めない筈だが、それも忍術でどうにかしたのだろうか。
さて、取り出した鉄塊の正体。
手を目一杯広げたとしても、ギリ足らないほどの大きさの全長
六目の銃身が合わさり、一つの巨大な銃口と化している。
横部位にはベルト状の弾丸が装填されている。
端的に言えば、ミニガンであった。
それも、二つ。
「我が忍術は、物の重さを操る!軽くして携帯可能にしたこのミニガンで、蜂の巣にするで御座———」
『退いて下さい』
これまた、刹那。
忍者が壁際まで吹き飛んだ。
誰かに蹴飛ばされたことにより、無様に飛んでいった。
まるで、スーパーボールみたいに。
煙が上がり、状況は確認不可能だ。
「・・・・・ジャポンのヤクザ!これを飲むデース!」
「ッ! 何だ、この薬は!?」
「自衛用に携帯していた、ドラッグデース!正気が溶ける程に肉体が強化される、タブーな代物デース!ユーとミーの分しか無いデスが・・・・・!」
純なる窮地。
際も際際、崖際。
背水の陣さながら。
一番の実力者と思しき忍者も倒され、残ったのはマフィア数十名、ヤクザ数十名。
数の暴力で押し切れるかも怪しい。
が、しかし。
二人の目には蛮勇に限りなく近い、勇猛果敢が宿っている。
「へぇ・・・!お誂え向きじゃねぇか。テメェらついて来い、楽しいピクニックの始まりだ!」
「ジャポンのヤクザは野蛮デース。殴り合いの喧嘩なんてノットシャレオツ、時代はやはり、ワンサイドゲームデース・・・・・!」
チャカドスバール鉄パイプライフル角材自転車鉤爪金槌、その他エトセトラ。
構成員たちが、各々の獲物を手に取る。
斯く言う自分も、チャチなチャカを握り締める。
忍者を一瞬で倒したバケモノを殺せるとは思わないが、一矢は報えるはずだ。
二人は、真っ赤な錠剤を飲み込んだ。
程なくして、全身から赤いオーラが漏れ出た。
虎が浮き出るような、攻撃的な覇気。
静の忍者とは打って変わった、積極性溢れる雰囲気だ。
「皆サーン!今の内に一斉射撃を・・・・・ッ!?」
シュボ、と間の抜けた点火音。
煙の中から顔を出したのは、夥しいほどの量のミサイルであった。
此方の人数よりは少ないように見えるが、自分たちを殲滅するには過剰な程の爆撃が行える。
「ワッツ!?エネミーは何者ですか!?」
「口動かす暇があるなら・・・・・っだ!!」
避けることも出来ず、ミサイルが直撃する。
熱風、そした衝撃。
モロに喰らい、地面へ転がる。
御釈迦になったスーツを他人事のように見つめつつ、倒れ伏せたまま状況を確認する。
大半は戦闘不能になってしまったようで、ピクリともしない。
立っているのは、あの二人だ。
『・・・・・・・・・・・・・・・』
漸く、煙が晴れた。
やはりと言うべきか、忍者は其処に立っていなかった。
二丁ともミニガンはスクラップにされており、忍者自身も埃まみれでボロ雑巾になっている。
幽鬼のように、其奴は佇んでいた。
学生服のようなものを纏い、仮面を被っている。
ペストマスクに酷似したその灰色の仮面は、概ね丸状であり四つ目がある。
濃緑の髪色であり、顔の片側を隠すように前髪が垂れ下がっている。
「素手、つまりノットウェポン・・・?」
「馬鹿言え、だったらさっきのミサイルは何だよ」
「オーケー、暗器使いデースね?」
「かもな、じゃあ行くぞ、共同戦線だッ!」
事務局長は日本刀を。
パツキンマフィアはサブマシンガンを。
それぞれの凶器を片手に、駆ける。
『・・・・・・・・・』
ガコン、と。
文字通り、右腕が開いた。
そして、信じ難きことに。
右腕がチェンソーに置換された。
「オーマイガー!?」
「クソッ!武器人間やりたいなら、フィルムん中だけにしとけよ!」
日本刀で切り掛かるが、チェンソーでガードされる。
火花が散る。
すると次は、左手を大砲かなにかに置換した。
間違いない。
一瞬だけ、内部の機構を確認できた。
ヤツは、アンドロイドだ。
「ヘイ!無視しないでくださいよアンドロイドボーイ!」
『!』
土手っ腹を銃口が狙うが、宙返りで避けられる。
バックステップを行い、距離を取る。
仮面の奥の瞳をぐるりと回し、足首を鳴らすと、姿が消えた。
豪風。
パツキンマフィアへ膝蹴りをかました。
音速の襲撃、もとい蹴撃。
無事では済まず、血を吐いている。
が、しかし。
無償では転ばない。
「ハハハ!ミートを斬らせて、ボーンを断つ!やって下さい、ジョポンヤクザ!」
「寿司でも奢ってやるよ、マフィア野郎!」
ボロボロになりながらも、仮面の男を捕まえることが出来た。
あの仮面の男が使えるのは、右腕だけだ。
無防備になったその背中を狙い、刀を振るう。
『・・・・・・』
「な・・・っ!?テメェ、指先、銃にも出来んのかよ!?」
しかし、相手の方が一枚上手。
多芸なようで、今度は右腕の人差し指が銃身へ変貌した。
絶体絶命である。
「コッチも見ろ・・・・・クソッタレアンドロイド!!」
されど。
巨大な城塞は。
自分という取るに足らない人物によって、瓦解するのだ。
引き金を握る。
鉛玉が発射され、そのまま吸い込まれるように。
人差し指に直撃した。
当然、標準がズレる。
そして、指から放たれた銃弾は明後日の方向へ飛んでいった。
『・・・!』
「よくやったぁ!テメェは昇進だ!」
「上出来デース!では、そのままゴートゥヘル———」
背中からアームが飛び出、事務局長の手首を掴んだ。
そのまま、身体全身を激しく捻る。
竜巻さながらの回転をし、二人を吹き飛ばした。
鉄骨にブチ当たると、そのまま動かなくなった。
息はあるだろうが、もう戦闘は出来ないだろう。
「・・・・・・・・・あ」
ぐるりと肩を回しながら、仮面の男は近づいてきている。
震える腕を押さえ付け、心臓を奮い立たせ、再び引き金を引く、かに思われた。
「痛ッ!?」
此方が銃弾を放つより早く、人差し指の銃弾がチャカを弾き飛ばした。
先程、自分が行った技を返されたのだ。
思わず、膝から崩れ落ちる。
『・・・・・・・・・』
落ちていた鉄パイプを拾い、振り翳す。
これから、処刑が行われるのだ。
「なぁ、一ついいか?」
『・・・・・・』
全員、息はしている。
不殺の刺客、と言う訳だ。
それもアンドロイドの。
疑問は幾らでも湧いてでる。
「アンタ、何もんだ?」
『・・・・・・・・・』
たった一つの、大きな疑問。
それ以外は、これさえ聞ければ最悪必要ない。
それ程までに、気になってしまったのだ。
『悪の敵』
くぐもった声で、仮面の男はそう答え、鉄パイプを振るった。
世界が暗くなった。
そして、こうして。
自分たちは謎の男によって、壊滅させられた。
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