よりによって今日!? なぜ今!?
ショッピングモールでの買い物中、蒼真はふと足を止め、ある服を手に取った。
「陽菜、これかわいくない? プレゼントするよ。今日、それ着てくれたら嬉しいな」
突然差し出された、大きくロゴが入った、パステルカラーのTシャツに、陽菜は一瞬きょとんとした。
自分の好みと少しズレてる気もするけど――嫌いじゃない。というか、これを選んでくれたってこと自体がなんだか照れくさいし、どこか子どもっぽさのあるデザインも蒼真らしいな、と思った。
「……べ、別にいいけど?」
蒼真の笑顔から目をそらすように答えて、そそくさと店内の更衣室へ向かった。
陽菜は店員に案内されながら、服を受け取って個室に入る。薄手の素材に袖を通し、鏡の前に立つと、思ったよりも違和感がなかった。
(あの顔で渡されたら断れないし……まあ、たまにはこういうのもアリかも)
ちょっとだけ恥ずかしさを覚えながらも、悪くない……と鏡の前で小さく頷く。
着替え終わったあと、ふたりはそのまま店を出てモール内を歩き始めた。
すぐそばをすれ違う中学生たちが「あ、カップルっぽい」とひそひそ声を立てているのが聞こえて、陽菜はますます意識してしまう。
しばらくして、蒼真が「あ、ごめん。ちょっとトイレ」と言って姿を消した。
「……ほんと、行動がマイペースすぎるんだから」
ひとり取り残されて、近くのベンチに腰かける。買い物袋を足元に置いて、少しだけ落ち着こうと深呼吸。
数分後――
戻ってきた蒼真を見た瞬間、陽菜の目が点になる。
「ちょっと! なにそれ!」
「え、ペアルックだけど」
蒼真は、陽菜が着ているのと同じTシャツを、まるで当然のように着ていた。
「そんなの見ればわかるわよ! なんで――」
声が少し大きくなってしまったのか、周囲からくすくすと笑い声が聞こえた。ちらっと見たカップルが、ほほえましいものでも見るような目を向けている。
陽菜は顔を真っ赤にしながら、蒼真の手を引いて無言で歩き出す。もう、何か言ったら負けな気がした。
その手に、蒼真がぴたりと寄り添い、腕を組んでくる。
「なっ……ちょ、ちょっと!」
耳まで真っ赤にしながらうつむいて歩く陽菜に、蒼真はのんきな調子で言った。
「あ、そこの雑貨屋入ろう」
ほんと、こいつは全然気にしてない。そう思いながらも、どこか悔しい気持ちで、陽菜は一緒に店内へ入った。
そわそわしながらも、なんだかんだで陽菜はデートを楽しんでいた。小物を手に取ったり、ぬいぐるみを触ったり、口では文句を言いながらも笑みがこぼれてしまう。
(ま、まあ? 私ぐらい鍛えてれば、これくらいなんともないわ)
そう心の中で強がっていた、そのとき。
ふと前方から、見覚えのある顔ぶれが近づいてくる。
「え、ちょっと……なんであんたたちが……」
同じクラスの友達グループだった。
「あっ、陽菜ちゃんと蒼真くん!? ペアルック!? うわ、ガチじゃん! 写真撮らせて!」
ちゃかされながら、スマホのシャッター音が響く。
「もう……恥ずかしいのはやだーーー!!」
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