第6話 失脚

 私たちは宮殿を出て屋敷に帰った。一体、何が起こったのかがわからず、不安でいっぱいだった。1年ぶりに見た屋敷を見てもほっとしない。


「どうしたのです? 急に帰ってきたりして・・・」


 急に帰宅した私を見てマーガレットは驚いていた。


「理由はわかりませんが、お妃の話はなくなり、急に宮殿から出されました」

「なんですって! お妃にはなれないの! なんということなの!」


 マーガレットは大声を上げた。彼女は私がお妃に決定して浮かれていたのだ。それが白紙になり、驚きを通り越して怒りがわいてきたようだ。


「あなたが何か粗相をしたのですか! 王妃様に不興を買うような・・・」

「いいえ。覚えがないのです。急にこんなことになって・・・」


 私はこう答えるしかなかった。


「とにかく宮殿に戻してもらうようにしなければ・・・」


 今の王妃様はプリモ伯爵の姪に当たる。マーガレットの親戚でもあるから頼んでみようと思ったようだ。彼女はどうしても私をお妃にしたいようだ。

 そんな時、王宮から父の従者があわてて駆けこんで来たのだ。マーガレットが尋ねた。


「どうしたのです? そんなにあわてて」

「大変です。公爵様がとらえられて牢屋に入れられてしまいました」

「なんですって! どうして!」

「どうも反逆罪に問われたようでございます」


 父はまつりごとに手腕を振るい、王様の信任が厚かったはずだ。だがそれを妬む者はどの世界にもいる。讒言され反逆の罪を着せられたようだ。

 うろたえると思いきや、マーガレットの冷静でその反応は早かった。大きな危機に何かのスイッチが入ったようだ。


「今から出かけます! 王様にお会いするために!」


 直接訴えて父を釈放してもらおうと考えたようだ。マーガレットは王宮では顔が利く。有力貴族のプリモ伯爵の妹だからだ。父との結婚も王様が中に立っている。それは権力を伸ばそうとするプリモ伯爵の意志が働いてはいるが・・・。


「それが・・・」


 従者が言いかけると、兵を連れた役人がぞろぞろと入って来た。


「何者です! 勝手に入って来て!」

「我々は王様から命令を受けました。この屋敷を閉鎖するようにと。誰も外には出られません」


 もう敵によって手が打たれているようだ。一体、誰が父をはめたのか・・・。マーガレットは何とか手を考えている。


「兄に、兄のプリモ伯爵は・・・」

「これは伯爵様の御意志でもあります」

「兄が! どうして!」


 私にはピンときた。プリモ伯爵は父が邪魔になったのだろう。妹を嫁がせたが手なずけることができず、逆に王様に信頼され大きな力を持ってきたからだろう。しかも私が王子様のお妃になると決定してさらに危機を覚えたのかもしれない


(よくある話だわ。王宮内の権力争いで・・・)


 私はララから彼女の創作した王宮の物語を聞いていた。権力争いはドロドロして話としては面白い。だが実際にあるとは思わなかった。こんな身近に・・・・

 マーガレットは信じられないようだった。妹の夫である義理の弟を失脚させるなんて・・・。


「兄が! 兄がそう言ったのですか?」

「はい。そうです。ご子息のブルーメ様とレーヴ様も王宮から出されました。じきに戻って来られましょう。ここで蟄居せよとの王様と伯爵様のご命令です」


 その役人はそう言った。マーガレットはそれを聞いてめまいを起こして倒れそうになった。


「奥様。気を確かに」


 召使たちが慌てて支える。気を張りつめていた彼女はどうにもならない状況にショックを受けてしまったようだ。


「とにかく奥へ!」


 召使たちがマーガレットを寝室に運んでいった。そこに一人、私だけが残された。


「ええと・・・私たちはどうすれば・・・」

「王宮から何らかの命令が届くでしょう。それまで屋敷で。外に出ることは許されません。使用人を含めて。外部からの者も接触できません。我々は屋敷の周りと門を固めます」


 役人と兵士たちはそう言って出て行った。私たちは反逆者として処罰されるのだろうか・・・底知れぬ不安が私を襲っていた。



 やがてしばらくしてブルーメとレーヴが兵士に囲まれて戻って来た。マーガレットはまだ寝室で倒れたままだ。だから私と家令のグサンが奥の部屋で話を聞いた。


「訳がわからない。いきなりだった」

「ああ。兵士たちが俺たちを拘束した。抵抗はできなかった」


 2人の兄も訳が分からないうちにつかまってしまった。


「旦那様はどうなったのですか?」

「牢屋に入れられたとうわさされていた」

「ああ。俺も聞いた。だが本当かどうか・・・」


 確かなことはわからない。それにみんなここから出ることはできず、外部の者と接触でき何のだから父について何もわからない。


「もうこうなったらどうしようもない」

「ああ。腹をくくるしかない」


 2人の兄はあきらめモードだ。私はプリモ伯爵に会ったことはある。顔はにこやかだが、目は冷たく笑っていない。腹の底で何を考えているかわからない人だ・・・そんな印象を持っている。


(伯爵は父をどうするつもりなのかしら。まさか殺す・・・。そうなったら私たちも・・・)


 そんなことはここにいる者はすべて思っていた。2人の兄とグサンは頭を抱えたままだ。ここにいても仕方ないからその部屋を出た。  

 気が付けば家の中の空気がおかしくなっている。召使たちが異変を感じてひどく動揺しているからだ。

 

「お嬢様。何が起こったのですか?」

「旦那様が牢屋に入れられたとか・・・大丈夫なのでしょうか?」

「私たちはどうすれば・・・」


 召使たちが口々に聞いてくる。そんなことを聞かれても私にわかるわけがない。


「みんな。落ち着いて。きっと何かの間違いよ! お父様が悪いことをするはずはない。誤解はすぐに解けるわ!」


 プリモ伯爵に狙われたのなら、ぬれ衣であろうともう罪を逃れられないだろう。でも召使の手前そう言うしかなかった。確か、物語ではこんなことに巻き込まれたヒロインはこう言うはず・・・。


(このままではどうにもならない。せめてお父様の様子でもわかれば・・・)


 そうなると頼みの綱はあれしかない。私は自室に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る