コックリさんの不思議な予言

レネ

 🌻


 この世には、まだまだ科学で解明できない不思議なことがある。

 私が妹とやった「コックリさん」もそのひとつだ。


 ご存知ない方のためにコックリさんについて少し説明させていただくと、まず大きめの紙に五十音と﹅と◯を、中心を広く囲むように書き、その中心に10円玉を置いて2人以上で10円玉に人差し指を乗せると、10円玉が勝手に動き出し、言葉を紡ぐというものだ。

 実はこの「勝手に」というのがくせもので、たいてい皆で力を入れて10円玉を動かそうとするので、そこには不思議な力は働かない。


 しかし私と妹の2人でやった時はいささか事情が違っていた。

 2人とも素直な、純真な気持ちでやる。多分だからだろう、いつも不思議なことが起こるのだ。


 1度目は中学生の頃、学校が休みの日の昼下がり、なんとなく暇つぶしのようなつもりで妹の部屋でやった。

 2人で10円玉に人差し指を乗せ、

「コックリさん、コックリさん、どうぞよろしくお願いします」

 と唱えた。するとどうだろう。10円玉が動き出し、「き」「た」「き」と、ゆっくりその文字のところへ行って止まる。

「みさこ、お前力入れてないよな」

「全然入れてないよ! お兄ちゃんこそ」

「入れてねえよ」

 正直、不思議な気持ちがした。なんで10円玉が動くのだろう。10円玉はさらに言葉らしきものを紡いでいく。

「き」「た」「き」「ゆ」「う」「し」「ゆ」「う」「ば」「く」「は」「つ」というところで、10円玉は止まった。

『きたきゅうしゅう ばくはつ』だってよ。

 しかしその時は何も考えていなかったから、そこで終わり、私たちは何事もなくそれぞれの部屋に別れた。


 夜7時頃、私と妹は一緒に夕食を食べていた。テレビがついていて、きょう1日のニュースをやっていた。

 と、突然アナウンサーが言った言葉に私と妹は顔を合わせる。

「きょう、午後5時過ぎごろ、北九州駅に設置されたコインロッカーで突然爆発があり、

警察で原因を調べています。この爆発で3人が軽いケガをしました」


 ニュースによれば、何者かが仕掛けた爆発物が爆発したのではということだ。

 もし事前に今日のコックリさんのことを皆が知っていたら、怪我人は出ずに済んだかもしれない。

 この不思議な出来事は,私も妹も誰にも話さなかった。話しても皆せせら笑うだけだろうと思ったからだ。


 しかし私と妹は、もう一度確認しなければいられなかった。つまり、これが偶然なのか、コックリさんの予言だったのかということだ。



 それは妹の修学旅行の前の日だった。

 妹はこの大きなイベントに少し気分が高揚しており、出発前日の夕刻、私にコックリさんをやろうと言って、私の部屋に入ってきたのだ。そしてその手には、すでにコックリさんをやるための紙と、10円玉が準備されていた。


 私たちは私の机の上にその紙を置き、10円玉を置くと2人とも人差し指を乗せ、

「コックリさん、コックリさん、みさこの修学旅行のことを教えてください。よろしくお願いします」

 と唱えた。

 と、どうだろう。やっぱり10円玉は動き出し、言葉を綴っていく。

「じ」「し」「ん」「し」「ん」「か」「ん」「せ」「ん」「て」「い」「し」

 そこで10円玉は止まった。私と妹は、目を見合わせた。

「地震だってよ」

「いやだあ、なんでよう」

「でもまだ地震が起こると決まったわけじゃないんだ。しかも新幹線停止」とあるだけで、そんなひどくないかもしれない」

「なんで、なんでお兄ちゃん分かるのよ」

「いや、これを見て,そんな気がしただけだよ」

「やだなあ、大丈夫かなあ」

「大丈夫さ、きっと」

 いくらコックリさんが地震と言ったといっても、修学旅行を休むわけにいかない。こんな理由は誰も相手にしないだろう。

 妹は渋々出掛けて行った。何も起こらなければいいけど、と思いながら私が学校へ行くと、2時間目の終わり頃、かなり大きな地震が起こった。

 きたか! と私は思った。観念した。

 しかしさほど大したことなくおさまり、しばらくして、妹からラインが来た。

『今静岡。大したことなかったよ。でも、電車もバスも動かないからしばらく皆このまま待機だって。京都にいつ着けるのかわからないよ〜」


 とりあえずはこの程度で済んでよかった。正直、私はホッとすると同時に、コックリさんの不思議は疑う余地がないことを確信したのだった。


 それから10年以上が過ぎた。私も妹も一端の社会人になっていて、コックリさんといえば、ああそんなこともあったなあ、という程度にしか私は記憶していなかった。

 しかし妹はずっとその体験が忘れられなかったようで,家を出ていた私と妹が実家で集った正月、妹が久しぶりにコックリさんをやってみようと言い出した。

 私と妹は,まだそのままになっていた私の部屋の机の上で準備をし、準備が整うと、

「コックリさん、コックリさん、今年の出来事はどんなことがありますか? どうぞ教えてください」

と2人で念じた。

 すると10円玉が動き出し、言葉を紡ぎ始めた。

「ご」「が」「つ」「に」「ほ」「ん」「。」「ち」「ん」「ぼ」「つ」

『ごかつ にほん。ちんぼつ」

 妹は真っ青になった。なぜなら、テレビなど様々なメディアで、天変地異や第三次世界大戦のことなど、色んな予言が飛び交っていたからだ。

 これは私も無視するわけにはいかない気がした。何かとんでもないことがあるのではないか?


 それから妹は、すぐに日本脱出の方法を考え始めた。

 世界のどこで何が起こるか分からないので、妹が選んだのは5月は世界一周のクルーズ船に乗るということだった。

 それもひとつの方法だろう。止める気はなかった。

 さて、私はどうするか。両親に言っても信じてもらえないだろうし、かといって両親を置いて自分だけ逃げるのも気が引けた。その点、妹は自由で勝手で羨ましかった。

 できれば日本中の人に、この予言を教えてあげたい。

『ごがつ にほん。 ちんぼつ」

 これはかなりやばい。


 しかしとうとう私は何の手も打たないうちに5月が来た。

 妹に別れを告げ、妹はクルーズ船で出発した。

 穏やかな,晴れた日が続いていた。

 本当に何か起こるのだろうか。

 日本が沈没するというのは本当なのだろうか?

 ある日、私は突然のニュースに言葉を失った。

「世界一周旅行のクルーズ船、日本丸沈没!乗船者全滅か!」

 「日本丸?」 ああ!「にほん。」

 句読点の。は、丸を表していたのだ。

 調べてみると、それは紛れもなく、妹が乗っている船だった。

 何ということだ。コックリさんなんてやらなければよかった! 

 後悔したところでどうにもならない。

 私はさめざめと泣いた。


            [完]


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コックリさんの不思議な予言 レネ @asamurakamei

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