多動性トランジスター

加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】

ち?

 太陽系惑星クラスの席替えが行われようとしている。


 担任太陽はこう想った。

「太陽系のみんな! 今年も、私に一番近い軌道で周る権利獲得に向けて、闢質量びゃくます計算速度選手権、がんばってね!」


 闢質量びゃくます計算速度選手権の勝者は、蛍光管の水銀原子の持つ電子が、管内放電により励起して軌道遷移し、基底回帰、再軌道遷移するのと同じくして、自身の公転軌道を換えることができる。


 水星、金星、地球、火星、木星、土星、海王星、そして太陽系惑星への敗者復活枠を勝ち取った準惑星代表の冥王星は、己が計算力を向上させんと、より性能のよい電気信号制御装置トランジ・スターの創造に自転ほんそうした。


 水星、金星に続く三番手の地球が、新型の電気信号制御装置トランジ・スターの開発に成功した。


「できたぞ! 名付けて、〈ニンゲン〉!」


 〈ニンゲン〉というのは、一頭と、四肢を散開的に備えた、五芒星型をとる、有機構造体だった。〈ニンゲン〉は、従来の、〈ショクブツ〉という原始的電気信号制御装置トランジ・スターとは違って、空間座標中を動き回る。よって、ひとたび最小存続可能個体数を創造してしまえば、その先の大量創造に、惑星が風を吹き種を飛ばし煩わす必要は、ない。〈ニンゲン〉は、勝手に動き回って、殖えるし、母星が手を加えずとも勝手に地上の回路──電子迷宮的都市群──を組み換えて最効率化をはかってくれる。


 闢質量びゃくます計算速度選手権を制するのは、〈ニンゲン〉を電気信号制御装置トランジ・スターとして有する地球だろうと、誰もが──タンニン太陽も他の太陽系惑星も冥王星も、確実視していたが……


 大問題発生。

 〈ニンゲン〉が、その増殖の過程で、己の電気信号制御装置トランジ・スター性を否定し回路を逸脱する存在、すなわち非尋常個体アノマリーを生み出してしまったのだ。


 〈ニンゲン〉のうち非尋常個体アノマリーとなったものたちは、鉄塊を乗りこなしては勝手気ままに他の惑星に入植、増殖。なんなら娯楽的な理由から、母星の地球をあの手この手で破壊して、火星にお引越し、してしまった。

 これを看過しては太陽系惑星の全て、ひいては太陽すらも破壊されかねないとして、やれ席替えだ、やれ闢質量びゃくます計算速度選手権だ、などとは言っていられなくなった。


 しまいに……


 太陽が、地球の空に決して壊れない天蓋てんがいを築いたので、〈ニンゲン〉は、地球の中に未来永劫幽閉されたのだった。

 めでたしめでたし。

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多動性トランジスター 加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】 @sousakukagakura

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