ハレオト♪ 第12話 はじめてのオリジナル曲


ノイジーガールズマインドとしての初練習。

まほは、いつもと違うワクワク感を胸に、スタジオへ向かっていた。


スタジオのドアを開けると、りえがすでにベースのチューニングをしていた。

「りえちゃん、おはよう!」

まほがギターケースを下ろしながら挨拶すると、りえが笑顔で手を振る。


「おはよう、まほちゃん。いよいよノイジーガールズマインドとして、最初の練習だね」


りえもまた、バンド名が決まったことで、活動が本格的に動き出すのを実感していた。


そこへ、たまとめい、しゅあがスタジオに到着。


「ねえねえ、3人で話してたんだけどさ」

スタジオに飛び込んできたたまが、息を弾ませながら話し始める。


「コンテストに出るなら、コピー曲だけじゃなくてオリジナルもやってみたいなって!」


「そ、それで……」

しゅあが少し照れくさそうに続けた。

「バンド名が決まった時にテンション上がっちゃって、曲はないんだけど……歌詞、書いてみたんだ」


恥ずかしそうに、カバンからノートを取り出すしゅあ。

「えー!すごい!見せて見せて!」

みんなが一斉にノートを覗き込む。


「曲名はまだなんだけど……テーマは“未来へ向かって駆け出そう”。夢を追いかける気持ちを込めたの」

めいが隣で優しく微笑む。


まほがページをめくりながら尋ねた。

「この歌詞、すごくいい感じ!でも、曲は?なんかイメージあるの?」


そこで、めいがふと口を開いた。


「まほ、曲作ってみない?」


「え、ええええええええ!? わ、私が!?」

まほは目をまん丸にして大慌て。


実はめいは、バンドに加わった頃から、まほが休憩中などに鼻歌を口ずさんでいるのを何度か耳にしていた。

そのメロディに、彼女らしいセンスが光っていて、このバンドのカラーに合うとずっと感じていた。


「メロディだけでいいから。コード進行は私が考えるよ」


「む、無理だよぉ〜! 作曲なんてやったことないし〜!」

戸惑うまほに、めいはキラキラした目でぐっと見つめる。


「まほなら、絶対できるって思ったんだ」


「(……この感じ……前にもあったよね……そう、あの時のりえちゃんの目と一緒……!)

こ、断れない……この目、ずるい〜〜〜……」


「……わ、私、ほんとにやったことないけど……めいちゃんがそう言うなら……や、やってみようかな……?」


「はは……ははははは」


これは大変なことになったぞとまほは思った。


* * *


その夜。帰宅したまほは机に向かい、ノートと向き合っていた。


「……うーん、なんかこのメロディ……聞いたことあるような……」

過去のJ-POPがちらつき、ため息が漏れる。


「難しいなぁ。どうしても誰かの曲に似ちゃう気がする……」


どれくらい時間が経っただろうか。

しゅあの書いた歌詞を読み返しているうちに、まほの中にふっと何かが湧いた。


頭の中にはしゅあが歌っている姿、たまが笑いながらドラムを叩く姿、りえの真剣な横顔、めいがギターを構えている姿……それぞれの風景が浮かび上がってきた。

 そして、その風景と一緒に、ふっとメロディが湧いてきた。


歌詞の世界をなぞりながら、自然と鼻歌が出ていた。

そのメロディを、まほは急いでスマホの録音アプリに吹き込む。


サビができた。

勢いのまま、Aメロ、Bメロも……。


「なんかどこかで聞いたような気もするけど……いや、大丈夫。これが今の私のメロディなんだ」


気づけば、しゅあの歌詞すべてにメロディが乗っていた。

「……もしかして、いい感じかも……!」


* * *


そして翌日。まほは、早速できた曲を聞いてもらおうと【喫茶ブロッサム】でめいと会う約束をした。


夕方、ブロッサムの落ち着いた店内には、渋いジャズが流れていた。

まほは一足先に到着し、奥の席で昨日の録音をもう一度聞き直していた。


「(あれだけ悩んだのに……意外と、いいかもしれない。ううん、すごく、好きかも)」


そう思っていると、15分遅れてめいが入ってきた。


(めいは時間にルーズなところがあるので今日は“30分は待つ覚悟”だったけど、15分遅れは、むしろ遅れてない!)


「まほ、遅れてごめん!」


「全然平気だよ! めいちゃん、ちょっと聴いてくれる?」

イヤホンを渡すまほ。


「うん、聴かせて!」


めいはアイスコーヒーを注文し、席につくと、真剣な顔で音源を聴いた。


――しゅあの歌詞と、まほのメロディが見事にマッチしていた。

構成も自然で、思わず口ずさみたくなるようなフレーズがそこかしこにある。


「……これ、すごいよまほ! 絶対ライブで盛り上がる!」


めいが、めずらしく興奮気味に言った。


「ほんと!? よかった〜〜〜!!」

まほの顔がぱっと明るくなる。


「この曲に、コード進行つけてみるね!」


「うん、よろしくね!」


* * *


そして数日後。

めいが作ったコード譜と、ギターの音源にまほのメロディを重ねたデモ音源が、グループチャットに届いた。


それを聴いたまほは、思わず口を押さえた。


「え、これ……私の作った歌……? 嘘みたい……!」


めいがつけてくれたコード進行は、予想以上にドラマチックで、特にサビの展開は鳥肌ものだった。

鼻歌で作ったメロディが、バンドの音に包まれて、まったく新しい“曲”として生まれ変わっていた。


「すごい……めいちゃん。え?これって、売れちゃう?」


そんな想像をしながらも、なんだか大切な曲になりそうな予感をまほは感じていた。


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