うちの神様がわがまま過ぎる

田中

プロローグ

プロローグ

この世界には神様がいる。


概念的・抽象的な話ではない。

実在するのだ。

それもたくさん。

八百万の神々、という表現が近いかもしれない。


だが、人々の前に直接姿を現すことはない。

人々は一定の年齢になると八百万の神々の中から1柱の神様と契約を結ぶ。

そして、その契約を結んだ神様の加護を得て、生活を営んでいく。



この世界は神様の加護無しでは生きていくのが厳しい環境なのだ。


モンスターが跋扈する世界。

狂暴なモンスターは人間を襲う。

人々は武装し、神様の加護を得て、モンスターに立ち向かうのだ。


銃や大砲はない。

剣と魔法で戦うのだ。




神様の加護は戦闘だけに限ったことではない。

農業の神様が開墾のスキルを与える。

商売の神様が計算のスキルを与える。


機織りの神様、大工の神様、料理の神様、神様の種類は千差万別。

まさに八百万の神々。


どの仕事をするにしても神様の加護は重要なのだ。戦闘向きの神様から加護を与えられた者は戦いを生業とし、生産系の神様から加護を与えられた者は、その加護を生かせる仕事につく。

それがこの世界の当たり前だ。




ただ、産まれた時から神様の加護がある訳ではない。産まれた時はまだどの神様からも加護を与えられていない。


10歳になる時に神様と契約を結ぶのだ。

どの神様と契約を結ぶのかは人間は選べない。神様が人間を選ぶのだ。


そして1柱の神様と契約を結び、その神様から加護を与えられる。


必ずしも人間の希望通りにはいかない。

それが神様との契約だ。


強大な神様と契約を結び栄華をきわめる者。

家業を継ぐことが出来ず勘当される者。

様々だ。




そんな、この世界に1人の少年がいた。

名前はウィル。

田舎の小さな農村に住む6歳の少年。

ごく普通の男の子だ。


6歳だから、当然まだ神様と契約を結んでいない。

神様と契約を結んでいないから加護もない。

特別なスキルも特殊な知識も持たない。


特徴があるとすれば、年齢の割に利口だ、ということだろうか。


6歳のウィルは毎日、父や母の手伝いをしている。


学校なんてものはウィルには縁のないものだ。ウィルに限ったことではない。

圧倒的大多数の子どもは勉強などしない。

貴族やお金持ちが、家庭教師を雇って教えるものである。


農村の一般的な子ども、いや子どもに限らず大人もだが、識字率はそれほど高くない。

村長や商売をする者が読み書きが出来る程度で、他の者は日常的な数字や簡単な言葉が読めるだけだ。


ウィルは家事や簡単な農作業の手伝いを毎日している。

まぁ、お皿を洗ったり、掃除をしたり、雑草を抜いたり、それほど難しくない、簡単な作業だけだ。


だから、自由な時間は沢山ある。

たいていの子どもたちは、空いた時間を利用して遊びまわっている。

ウィルの兄たちも遊んでいる。


でも、ウィルは違った。

ウィルはいつもある友人と過ごしていた。

友人の名はザック。


ザックはおじさんと呼ぶべきか、おじいさんと呼ぶべきか、微妙な見た目の男だ。


ザックは町外れに1人で住んでいる。

そこに毎日のようにウィルは通っていた。


ウィルがザックのところに通うことを、ウィルの両親は快くは思っていなかった。

しかし、無理矢理止めることもしなかった。


理由は2つある。

1つはウィルが三男だということ。

長男や次男に比べ、両親のウィルへの関心が低かったこと。

もう1つはザックが薬作りの名人だったということだ。


田舎の農村に医者などいない。

病気やケガなどをした場合は、大きな街まで病人やケガ人を荷車に乗せて、運ぶ必要があった。

運ぶのも大変なら、診察料も高額。


結果、ウィルの住む農村で医者にかかれる人などいなかった。

そんな農村で簡単な薬だけでも作れるザックは貴重な人材であった。

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