悪役貴族ロールプレイング〜転生したら兄が転生した殺人鬼だったので成り代わって最強悪役を演じる事にした〜

シュガースプーン。

プロローグ0

第1話 転生

「はっはっは——」


男は仕事を早退して家まで走っていた。


今日は男が大好きなゲームの最新情報が公開される日。先出情報によればダウンロードによる新規ストーリーで、情報はニュース形式で配信される。


開始の時間までに部屋へと辿り着き、パソコンの前に座らなければならない。


「あと10分、間に合う!」


男は一度足を止めて腕時計を確認した後、悲鳴を上げる足に鞭打ってまた走り出そうとする。


その時、女性の悲鳴が響き渡った。


反射的に男がそちらを見ると、そこには信じられない光景が広がっていた。


倒れる人。悲鳴を上げる女性。そして、血の抜いた包丁でその女性に襲いかかる男。


女性が刺されて倒れると、包丁を持った男は次のターゲットを求めるように辺りを見回した。


それを見た男は逃げ出そうとするが、先ほどまで走って来て疲れた足をもつれさせて転けてしまった。


包丁を持った男はそれを見て口角を釣り上げ、嬉しそうに笑いながら男の方へ走ってくる。


転けた男に馬乗りになり、包丁を振り下ろす。


「やっぱ人って簡単に死ぬんだなぁ。くくく、楽しいなぁゲームみたいだぁ」


包丁を持った男は嬉しそうに話しながら、グリグリと包丁を捻る。


「あ、反応無くなった。次は誰にしようかなぁ」


包丁を捻っている間痛さに叫び声を上げていた男の反応が無くなると、包丁を持った男はつまらなそうに立ち上がって次のターゲットを求めて走っていく。


死の間際、かろうじて意識のある男が最後に思ったのは……


『追加のストーリーって、どんなのだったんだろう』


というどうでもいい事であった。


◆◇


次に目を開けた時、男の前には美女が笑っていた。


「いい子ね。ほら、ゲップしましょうか」


女性がそう言って男の背中をポンポンと叩く。


その状況に、男は頭がついていかない。どう考えても、男は持ち上げられている感覚がある。


「奥様、シュバルツ様はお眠りになりました」


「そう。それじゃ、ステングも寝かせておいてくれる?」


男が抵抗して我慢していたゲップを吐き出すと、美女は女性に男を預けて部屋を出て行ってしまった。


「ステング様、お兄様はもう寝られましたよ。ステング様もおねむしましょうね〜」


徐々に己の状況を理解した男は、驚いて反射的に色々と質問しようとする。


しかしまだ喋れないらしく、「あうあう」という言葉にならない声だけがでる。


「なんでしゅか〜? ふふ、瞼が降りてきましたね〜」


女性の寝かしつけが上手いのか、男の意識は遠のき、赤子は眠りに落ちていくのであった。


この世界で男の意識が覚醒してから数日、分かったのは自分の名前がステングだという事。そして兄の名前がシュバルツだという事。


母が美人で、大きな屋敷。そして、この国の4大貴族の一つであるボルスゼキアの子供であるという事。


なぜそこまで詳しく分かったかというと父親が見にきた時のことだ。


父親の見た目が男の大好きなゲームの最強の悪役と瓜二つであったからだ。


そして、その最強の悪役の名前はシュバルツ。


つまり男の兄がその悪役で、この世界がゲームの世界なのだと予想ができる。


男は自分の新たな人生が、自分の一番好きなゲームである事が嬉しかった。


しかし、喜んでばかりもいられない。


男はステングというキャラを知らない。


シュバルツというキャラは滅ぼされた国の貴族で復讐のために悪役として登場するキャラクターだ。


その悲しい過去や復讐の理由。そして死の間際に敵ながら主人公を導くシーンなどから人気投票では主人公を超える票を取得するほどに人気のキャラクターだ。


その過去は侵略によって家族を失っており、回想シーンでも家族の名前が語られた事はない。


つまり、シュバルツの弟である男は、侵略によって命を落とすことが決まっているのだ。


男は自分の、そして家族の命を何とか救えないものかと考える。


「はーい。2人とも、お乳の時間ですよ」


男、ステングが思考を巡らせていると母がそう言って部屋へと入ってくる。


それを見てステングは小さなため息を吐く。

どう言うわけか、授乳中やオムツ交換などの成人の意識のあるステングの羞恥心が耐えられないシーンでは意識が飛んでしまう。


そのせいで、なかなかしっかりと集中して考え事ができないのだ。


今回も例外はなく、ステングの意識はプツリと途切れるのであった。

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