KAguRa
ぽえーひろーん_(_っ・ω・)っヌーン
黒血
——ザァーーッ。
雨のつたう前髪、落ちる雫の向こう側に、逆さまに反射するネオンライトの輝き。
歩くたびに水が跳ねる、この暗い夜の街並みに、僕は今昏い殺意をもって道を歩いている。
両手に構えた楔の剣は、僕を僕たらしめる証であると共に、命脈に打ち込まれた呪縛でもある、だが捨て去ることは決して出来ない。
——見据える。
裏路地からでもよく見える、あの高く聳える企業のビルを、剣を持つ手に力が込められる、圧迫された血管がドクドクと脈を打つ。
——ザァーーッ。
怒りは既にこの身を包んでいる、雨風のもたらす極寒を跳ね除けるほどに。
標的を睨み付ける、これまで溜め込んだ憎悪を、満天の星空を染め上げる怒りの炎を、そこへ燃え広がらせんと。
「裏切り者どもめ、この僕が——」
その時。
「……!」
上から気配が。
影も形もない気配を、僕の才能が感知した。
夜の闇を見通すこの目が、上空より接近する黒い影を捉えた、それはどうも人の形をしており、何やら僕に向かって叫んでいるようだった。
「受け止めてくれェェェェーーーッ!!!」
馬鹿な、あんな大声、奴らに聞かれたら。
なんて考える脳みそを置き去りに、体は必要な事を的確にこなしていた。
——タッ。
地面を飛び上がり、壁を蹴って斜めに跳躍、どっかの部屋のベランダの手すりを掴んでさらに体を加速させて打ち出す。
そして空中でそいつを受け止める。
「うわっ、なんだお前っ、今のどうやって」
「口を閉じていろ!舌を噛むぞ!」
落下のエネルギーと、僕の飛び上がった勢いとが相殺しあい、ちょうど空中で停止する。
そこから僕は手を伸ばし、手すりを掴み、体を引っ張ってその先の窓ガラスに突っ込む。
——ガシャーン!
「うわぁ!?」
——ゴロゴロゴロッ。
「ぎゃあっ!?なんだぁ!?」
六畳一間の床の上を二度転がり、僕は素早く起き上がる、そして通報される前に目撃者に肉薄、獲物を持ち上げて刃と峰を手の内で入れ替え。
「なっ、お前、やめろこの馬鹿っ!」
殴りつける途中で横から割り込んできた投身自殺野郎が、僕の腕にまとわりついてきたので、狙いは大きく外れて壁に吸い込まれる。
——ドガンッ!
「ひ、ひぃぃぃーーっ!?」
部屋の住人は腰を抜かし、よたよたと転びそうになりながら扉を開けて走り去る、物音を聞くに派手に転んだようだ。
「何考えてるんだお前!あんな無実の一般人を切り殺そうとするだなんて!」
大振りに放たれた平手打ちを姿勢を下げて躱す。
「なにっ!?」
横をすり抜け後ろに回り、行儀の悪いを背中で拘束し壁に押し付ける。
「うっ……」
「峰打ちで済ませるつもりだったさ!通報されたら厄介だから黙らせようとしたのに!お前のせいで僕の予定が台無しだ!」
「な、何を言って……」
恨み言を吐き連ねる暇も無く、非常事態を知らせるアラートが鳴り響く、僕は指名手配された、あと五分もしないうちにヘリがやってくる。
「……くそっ!」
もうダメだ、諦めるしかない、仕切り直すんだ、今襲撃を決行しても成功の見込みはない、むさむざ殺されに行ってたまるか!
「はな、せ!」
——チャッ。
「……!」
音で理解した、コイツは銃を持っている。
その照準がこちらに向く前に、僕は迷惑野郎の腕を強く引っ張っる。
「う、うわあっ!?」
迷惑野郎はつんのめり、左手に持った獲物が視界に映り込む、僕はそこ目掛けて剣をふるい、半ばからザックリ切断せしめる。
——ガギンッ!
「なぁっ!?」
驚いている迷惑野郎を左腕で抱える。
コイツは目撃者だ、残しておくわけにもいかない、無関係の人間を手にかけることもしたくない、不服だが連れていくしかない。
——ダンッ!
床を蹴って割れた窓から外に飛び出す。
そして空中で姿勢を変え、壁を蹴って飛び上がり、屋上に着地して走り出す、向こうの空にヘリのサーチライトが見える。
「は、はなせっ!はなせ貴様っ!」
——どんっ、どんっ。
迷惑野郎を捕まえる僕の腕を、拳でドカドカと叩いて抗議する、ここで僕はとうとうキレた。
「僕の邪魔をして、助けてもらって、勘違いでまた邪魔をしてきて銃を向けて、更にまた助けてもらってるくせにまだそんな事を言うのか!」
「ち、ちがっ……」
フードで顔はよく見えないが、明らかに怯んだ様子だった。
予想外の反応に毒気を抜かれていると、コイツはさらにやる気を削ぐような声と態度でこう言った。
「わ、私が悪いのはわかってる……すまなかったと思ってる……ただ、ただなっ!貴様の手の位置がっ……!」
はずみでフードがズレる、そして真っ赤に染まった頬と、涙で潤った両の瞳が視界に入る。
こ、こいつ女か……!?
「……っ!」
背後から感じた気配に、その脅威度に、僕は素早く振り向いて斜めに剣を振り抜く。
——チュンッ!
ひしゃげて歪んだ弾丸が、顔の横を飛んでいくのを横目で捉える、かなり口径の大きい、しかも警察の連中は使わないはずの弾種。
「危ない!後ろだ!」
「……っ!」
僕の直感より僅かに早く、彼女の忠告が耳に届き、おかげで闇に紛れた凶刃に気が付けた。
——カィィン!
首筋に迫った黒い直剣を、逆手に持った左手の剣の腹で滑らせる。
「……まじすか」
なんだこの黒い服の男は!?
——ブンッ。
右手の剣で首に斬撃を放つ、峰打ちなんて言ってられない、手加減ができる相手じゃない、この僕が接近に気付かないだなんて!
——トッ。
男は僕から大きく距離を取り、そのままビルの屋上から後ろ向きに飛び降りて姿を消した。
「逃がすか!」
剣を前に投げ、残ったもう一本を投げた剣にぶつける、すると剣は真下に向かって打ち出され、今しがた逃亡した男を追撃する。
——当たった。
鼻先に香る血の匂い、深傷は避けたようだが軽症でもない、僕は後ろから放たれた弾丸を、体を傾ける事で躱して地面を蹴る。
「お、お前……その力……」
「説明は後」
空中を舞う剣を掴み取り、飛び降りる、下の光景を目にする、あの黒服は僕の投げた剣に腹を貫かれ、そのまま地上に落下するところだった。
「げっ、あいつ追ってきやがった!」
「一旦離すよ」
「え、離すって」
抱えていた女をその場に置く。
つまり……空中。
「ま、待て!アイツは危険な」
分かってるよそんなこと。
グングンと地上が近づく、僕は男に肉薄し、まっすぐ突き込む。
——シャ。
剣は剣によって逸らされる、だが僕の狙いは飛び出したその柄にある。
——ガシ。
「いでてででてっ!」
傷口を抉るように回しつつ、墜落に合わせて両足を体に押し当て、脚力を上乗せして叩き付ける。
——ドガァァァン!
反動で体がバウンドするほどの衝撃、普通の人間なら確実に即死するはずだが、僕にはどうもそうは思えなかった。
着地、振り返り、二本揃った愛剣を構え直す。
——ゴウッ!
「……っ!」
姿勢を下げる。
首のあった位置を黒が薙ぐ。
「どうなってんですかねえコイツは……!」
「こっちの台詞だよ」
逆手に持ち替えて脇の下を通して後ろを突く。
軸足を回しつつ、体を回転させて振り向きつつ、後ろに向かって斬撃を繰り出す。
——ザクッ!
肉を切る感触!間違いなく致命傷!
——ガシッ。
「なにっ……!?」
首にめり込んだ剣を、素手で掴んで抑える男。
「首が飛んじゃうでしょーが!」
咄嗟に剣を手放す、馬鹿な、立っていられるはずがない出血に、首の骨だった折れてるはず、なのにあろうことか追撃してくるなんて!
向かってくる刺突に突っ込む、そして姿勢を下げて懐に侵入し、柄頭で鼻先をぶっ叩く。
「ぐっ」
のけぞる相手の体。
そのまま首に刺さった剣を引き抜き、勢いを利用してガラ空きの胴体を切り裂く。
——ガッ。
「な、なに……!?」
掴みかかってきた!?馬鹿なッ!
——シャキッ。
隠していたナイフを抜く男、僕は抜け出せない、剣の間合いでもない。
手がないでもないが今からじゃ、今からじゃそのナイフが体に捩じ込まれる方がはやい、僕は致命傷を避けられないだろう。
「——ばかやろぉぉぉぉーーー!!!!」
「……!?」
上から降ってきた黒い影が、僕に組み付く男に衝突し、そのままもつれ込んで転がった。
彼女は男に馬乗りになり、どこかに隠し持っていたであろう、独特の形状をしたナイフを取り出し、敵の体を滅多刺しにした。
反撃が来る。
そう察知した僕は素早く前に出て、女の襟首を捕まえてこちらに引き込む。
そして男の方に剣を向け——。
「……なんだ」
僕が見たのは、あの不死身とすら思えた黒服が、床をのたうち悶え苦しむ光景だった。
喉を掻きむしり、体を捻り、嗚咽し叫び、血を吐いて転がる。
あんな刃渡のナイフで数回刺された程度で、こうもダメージを負うはずがない、何かカラクリがあると踏んでいいだろう。
いや、それより——。
「う、ぐぁぁぁぁっ……あああああっ……!!」
この、光景。
おぞましい、邪悪で、悪意に満ちた。
見覚えがある、こういうのを僕は知っている。
「おい行くぞ!早くここを離れなきゃ」
剣を持つ手に力が入る、僕は彼の元に近づき、剣を振り上げる。
「お、おい……」
——ザン!ビシャッ!
血の海が出来る、でも血は黒かった、黒く濁り、そして何かが蠢いて見える、その正体を知ることを脳が拒否する。
「事情があるんだろ」
振り返る。
「これは警備の連中じゃない、だからたぶん君の客なんだろう」
見据える。
「何に巻き込まれたかは知らない、ただ僕はとてつもなく不愉快だ、こんなに腹が立ったのは、いやそれはいい」
切先を、向ける。
「説明してもらうからな」
もしコイツが、僕を利用していたような連中と同じような奴だったのなら。
「……分かってる、ちゃんと説明する、お礼も謝罪もちゃんと、だから今は助けて欲しい」
「良いだろう」
僕はこの日、定められた運命の車輪が外れた——
※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※
——今から百五十年前、世界は終わることのない灰色の雲に覆われた。
病むことのない雨が地上を襲う。
それは人の罪の雨、発展した化学が撒き散らした廃棄物の塊、地球の気候を取り返しのつかないまで破壊し尽くした進化の代償。
それにより作物は腐り、建物は溶け落ち、ありとあらゆるインフラ設備が破壊された。
人類は破滅のカウントダウンを刻み、終末時計を抱えて眠るしかない。
しかしそんな絶望の淵にあっても、希望を見出す者は存在する。
ガウス=アルベール=イコ=グラウディアス
彼が作り出したKAguRaシステムは、地球全土を覆う巨大な防護機構であり、雨に含まれる有害な毒素をろ過している。
雨そのものを失くすことは出来ない、これは永久に降り続けるものだ。
しかし人間はたくましい。
地下に農作物用の施設を作ったり、雨風に晒されても腐らない特別な加工を物に施したり、とにかく環境に適応している。
金持ちは地下にシェルターを買い、水や湿気とは無縁の暮らしをしているが、僕のようなふつうのにんげんにとっては。
——暗い室内。
明かりは外から差し込むあの眩いネオンライトしか無い、こんな安アパートじゃ、電気を安全に通すことが出来ないのだ。
ただでさえシステムの維持に電力が掛かる、それをこんな貧乏人に割く余裕はない、最低限暮らせる程度の供給しかない。
タオルで頭を拭く、外に居る限りは常に濡れ続けることになる、普通の雨と違ってすぐ乾くとはいえ、気持ちがいいものでないのは確かだ。
——シャワーの音。
あの女は僕と交代でお湯を浴びている、話し合うにしてもまずは体を洗わないと、返り血に泥に雨に放置するのはあまりにも目覚めが悪い。
「……はぁ」
ため息をついて、異様に片付いた僕の部屋を見る。
ここに戻ってくるつもりは無かった。
死ぬつもりだったと、までは言わないが、生き残る気があったかと言われればそれは。
「……冷静でなかったのは認めるよ、でもやっぱりこのままじゃ」
誰に話しかけるでもなく呟く、心の奥底に燃え盛る青白い鬼火を、静かに沸る火口の燻り、僕を利用した『奴ら』に対する報復心。
「このままじゃ、済まさない」
——ガチャッ。
「……貴様、何をぶつぶつ言っているんだ」
やや癖のある金髪を拭きながら、あの女が風呂から上がってきた。
「腰の裏のナイフを置いたら、席について事情を話してもらおうか」
「な」
見た感じ僕を襲おうってんじゃ無さそうだが、きっと大切なものだから離せないんだろう。
「……分かったよ」
——ゴト。
あれだ。
さっきも見た独特の形状のナイフ。
女はそれをテーブルの上に置き、居心地が悪そうに床に座った。
「……」
膝の上に手を置いて、体を緊張させて、視線をキョロキョロと左右に動かして、恥ずかしそうに僕から借りた着替えの服を摘んで弄っている。
——トクトクトク。
置きっぱなしにしていたカップにコーヒーを注ぐ、すっかり冷めて湯気もないが、温め直す気も起きずそのまま用意した。
……視線を感じる。
カフェインを喉に流し込みつつ、少し考えて、棚を開けて新品のカップを取る。
「熱いの、冷たいの」
「あ、熱いやつで……」
「ブラック?」
「いや、ミルクを……」
自分の為ならばいざしらず、人の為なら躊躇なく手間を掛けられる。
僕が人と話すのなんて、報告の時か、今際の際の言葉を聞く時ぐらいのものだった、こんな普通の会話をするだなんて。
——カチャン。
「……あ、さんきゅ」
「で、何、どういうこと」
女はカップを持ったまま俯いて、蓋を親指で撫でたり数回回したり、湯気を吹いて飛ばしたりする。
「言ったはずだよな」
「いや、違くて、どっから話していいかって……」
抱えて運んでいた時、女の服から微かに薬品の匂いがしていた。
右手の人差し指にペンだこ、追われていた、戦闘能力が高いとか特技がある風でもない、そして肌身離さず持ち運ぶあのナイフ。
「お前科学者か」
答えは無言、ただし、頭が縦に動いた。
「……」
そこから伝わるのは罪悪感、つまりこの女の加担していた何らかの計画もしくは実験が原因、おそらく人体実験に関連するもの。
あの異様に頑丈だった男、その男に刺した途端拒絶反応のようなものを引き起こしたナイフ。
良心の呵責で逃げ出してきた、不死の軍勢?それを止めるために。
しかしアテは無いだろう、目的地がひょっとしたらあるのかもしれないが、だとしても漠然としたものなのだろう。
今も焦っている様子はない、むしろ安堵、気が抜けているのが分かる。
「私は、ある研究機関の職員で、そこで勧められている極秘プロジェクトの開発責任者だった」
女の話した内容は、およそ推測通りだった。
「貴様も見たろう、あの男、あの回復力、あれは特殊な薬剤投与と体の中に埋め込まれた機械仕掛けの心臓、それから改造筋肉によって
無理やり人間の限界を引き上げ、死なないようにするためのもの」
唇を噛む女。
「元は、手術に耐える体力のない患者や、手足を無くした人間を救うための技術っ……
足りないどうしようもない箇所を部分的に補い、体に負担の少ない範囲で命を補強する、そのための研究だったんだ……!」
膝の上に置いた手を強く握り締める女、怒りと悔しさに体を振るわせ、目の端には涙が溜まっている。
「私はバカだった、技術は生み出されたその時から、親の手を離れて暴走を始める、一度人の目に触れたならそれは既に狂気に染まっている
そのことを分かっていなかった!私は自分でも気づかないうちに利用されていた!そのことを疑いもしていなかった!」
境遇に、通ずるところがあって、あまり他人事だとは思えなかった。
「あの技術は世界を変えてしまう、死なない兵士、死なない駒、そういった利用のされ方を、やがてそこかしこでされ始める
もう止められない、遅すぎた、それでも私は中和剤を手に、あのラボを抜け出してきた」
そう言って彼女はナイフを手に取り、ナイフの持ち手の底から、小さなカートリッジを抜き出し、それを僕に見えるように机に置いた。
「私はこれを、KAguRaのろ過システムの中に組み込んで、雨の中に混ぜて散布するつもりだった」
「そんなことが」
「できる、あれの構造のことは時間をかけて調べて理解してある、普通の人間には効果は無い」
「あの男は苦しんでいた」
「元々危険な技術なんだ、使用者に合わせて厳密な調整が必要で、あんなふうに全身に、それも常時効果が現れるようにするなんて
遅かれ早かれ彼は死んでいた、いや死ぬだけならまだマシかもしれない
私はなんとしても、たとえそれで何百と、あの男のように苦しみ悶える者が居ても、この技術を死滅させなければならない」
僕を見る、彼女の目に色が宿る。
力も武力も劣るけど、今この時は、もし私の邪魔をしようものなら差し違えてでもという覚悟に、並ならぬ信ぴょう性を感じる。
だが同時に、僕はこうも考えた。
僕の目的について、奴らにツケを払わせる、その計画にもしあの男のような不死生が加われば、あるいは現実味を帯びたものになるやも。
元より仕損じるつもりは無いがしかし、アレがあれば成功率は今の比では——。
「貴様……」
何かを感じ取った彼女は、僕を見る目を変える。
「早まるな、ちょっと想像しただけだよ」
「殺したい相手でもいるか」
「居る?居るかだって?そんなもんじゃない!」
立ち上がり、詰め寄る。
肩を掴んで、床に押し倒す。
「きゃっ……」
ドタッ!
「相手は企業だ
僕を生み出し、自由意志を、尊厳を奪い。
薬と機械で思考を幽閉し思うがまま、邪魔者を殺し拷問し誘拐し、他人の思惑のために利用されてきたこの僕が殺したい相手は個人じゃ無い。
ある日目が覚めたんだ。
その日からずっと今日を待っていた。
あのビルの構造を隅から隅まで調査し、人員の配置や巡回ルート、あらゆる情報を調べ尽くして、ようやく訪れた報復の期日。
それを邪魔されたんだ。
この日のために耐えて耐えて耐えて耐えて、ようやく掴んだチャンスを。
しかし思わぬ収穫があった、だから僕はそれを掴むしか無いんだ
荒唐無稽な計画なのは分かってるし、僕は目的を果たせず途中で死ぬだろう、しかしあの男のようになれればそれは戯言ではなくなる!
だから僕はお前を殺してでも、その技術を、ようやく見えた希望の光を手放して堪るか!」
心の奥底では、深く嫌悪している。
あの男のようなものが、認められらはずがない、しかしそれでも復讐心がおさまらない、いや収めてはならないのだ。
肩を掴む手には、自然と力がこもる。
「……い、いたいよ……」
その、辛そうな声を聞いて、僕は我に帰る、頭が冷えたと言っていい。
でも、それは考え直したという意味じゃない。
力を緩めて、しかし退かず、目を見つめたまま僕は静かに己の意志を告げる。
「お前の話が本当なら、僕はその力を手にする、そして奴らを滅ぼして粉々に砕く、それが終わった後でなら構わない」
「それじゃあ貴様は……っ!」
「僕は元々兵器だ、活動時間はそう長くない、これまで僕の心には何も無かった、初めて抱いた感情ってヤツを、行き場のない墓地に埋めたくない
僕の尊厳を踏み躙った奴らを許せない、だから邪魔をするならここで殺す」
女は。
僕を見上げたままで。
その後数回目を逸らし、何か呟いて、葛藤するような表情を見せた後、思いもよらないことを僕に向かって言った。
「……私も」
息を吸って。
「私も、私を利用した奴らを、私の研究をおぞましい汚濁に沈めたアイツらを許せない」
彼女の目は燃えていた。
「でも力がないから、それは叶わないから、自分に言い訳をして見ないふりをした、でも」
でもと、彼女は言い淀んで。
「……取引だ」
涙を噛み締めて、葛藤を押し殺して言った。
「貴様の望む通りにしてやる!だから、だからアイツらを殺してくれ!貴様の力を私に貸せ!そのための力を私が授けてやる!」
叫び、怒りの慟哭、欲望のままに告げる言葉は、僕がこれまで聞いてきたどのものよりも、信じるに値する物だった。
「僕は殺人兵器だ」
支えてやって、起き上がるのを助けてやる。
「これまで逃げ延びた奴はいない」
他人に利用されるんじゃない、自分の意思で、僕は自分の意思で戦うことができるんだ。
「踏み躙られた者の怒りを教えてやろう、僕らにはそうできるだけの力がある」
「……取引成立だな」
——ガゴン。
道が定まった、歯車が嵌った。
僕らは復讐の女神の元、悪の華を囲おう、たとえやがて業火に焼かれるのだとしても。
今日も雨は、僕の火を消せそうになかった——。
KAguRa ぽえーひろーん_(_っ・ω・)っヌーン @tamrni
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