潮騒の夜

木村希

潮騒の夜

 羽田紬は品川駅のプラットフォームに立ち、電車を待っていた。羽田空港行きの特急列車だ。そこから奄美大島へ。十年ぶりの帰郷。スマートフォンの画面には上司からのメッセージが並んでいた。


「ゆっくり休んで。無理は禁物だぞ」


 紬は薄く微笑み、メッセージを閉じた。三週間前、オフィスで突然倒れたときの記憶はぼんやりとしていた。医者からは「過労」と診断され、最低でも一ヶ月の療養が必要だと言われた。

 東京での生活は忙しかった。フロントエンドエンジニアとして、締め切りに追われる日々。気づけば朝の五時、気づけば夜の十一時。時間は流れるように過ぎていき、気がつけば三十代に差し掛かっていた。

 特急列車が到着し、紬は小さなキャリーケースを引いて乗り込んだ。窓際の席に座り、ガラス越しに流れる景色を眺める。東京の高層ビル群が次第に遠ざかっていくのを見ていると、不思議と胸が軽くなるのを感じた。

 飛行機を降りると、奄美大島の湿った空気が紬の肌を包み込んだ。六月の終わり、梅雨の季節だった。空港の出口で待っていた父の顔を見つけると、紬は小さく手を振った。


「お帰り、つむぎ」


 父親の声は、電話で聞くよりもずっと低く、温かかった。紬は軽く頭を下げ、「ただいま」と応えた。


「お母さんはどうしたの?」

「今日は集落の集まりがあってな。夕飯までには帰るって」


 父親の運転する軽トラックは、舗装された道路を走り抜け、徐々に紬の記憶の中にある景色へと近づいていった。車窓から見える青い海と、どこまでも続く緑の山々。時折見える赤瓦の民家。そして何より、あの独特の匂い——潮の香りと木々の香りが混ざり合った、奄美大島の匂い。


「変わったな、ここ」


 紬はつぶやいた。昔は何もなかった海沿いの道に、新しいリゾートホテルが建っていた。観光客向けのお土産屋も増えているようだった。


「そりゃあな。お前が出ていった十年の間に、島も進化したってことよ」


 父親は軽く笑った。その笑い声に、紬は少し胸が詰まる思いがした。父も、十年の間に白髪が増えていた。


「会社はどうなんだ?東京での仕事は」

「うん、まあ......」


 紬は言葉を選びながら答えた。


「忙しいけど、充実してる。プロジェクトも任せてもらえるようになったし」


 嘘ではなかった。ただ、その「充実」の裏で何かを失っていることに、紬自身が気づき始めていたのだ。それは島を出る時に抱いていた、あの情熱だったのかもしれない。

 実家は紬の記憶通りだった。玄関を開けると、懐かしい畳の香りが鼻をくすぐる。廊下の壁には、紬の小学校や中学校の卒業写真が飾られていた。少し恥ずかしくなって目をそらす。


「お前の部屋は、前のままにしてあるよ」


 父親は紬のキャリーケースを持って二階へと向かった。階段を上がると、右側の部屋のドアが見えた。「つむぎ」と書かれた木の札が、今でもドアにかかっていた。

 部屋に入ると、十代の紬の記憶が一気に蘇ってきた。白い机、本棚に並ぶ小説や漫画。窓からは海が見える。そして壁には、中学時代の友人たちとの写真が貼られていた。

 その中の一枚に、紬の視線が止まった。

 海辺で撮った集合写真。中学三年生の夏休み。紬の隣に立っていたのは、真鍋朔也だった。当時から背が高く、優しい笑顔を持った男の子。紬の初恋の相手であり、親友でもあった彼。


「朔也君、今何してるんだろう」


 紬はつぶやいた。島を出る時、彼とはきちんと別れの言葉を交わしたはずだった。でも何か、未完のままのような気持ちが残っていた。

 写真から目を離し、紬はキャリーケースを開け、荷物を整理し始めた。東京から持ってきた服や化粧品、そして仕事用のノートパソコン。本当は療養中なので仕事はしないように言われていたが、紬には完全に手を離すことができない仕事もあった。

 その日の午後、紬は近所のスーパーマーケットに買い物に出かけた。夕飯の材料を買いに行くという母親の申し出を、「少し歩きたい」と断ったのだ。実際、紬は島の空気を吸いながら歩きたかった。

 スーパーの自動ドアをくぐると、冷房の効いた空気が紬を包み込んだ。都会のスーパーよりも小さく、品揃えも限られていたが、地元の野菜や魚が豊富に並んでいた。紬は母親から頼まれた買い物リストを確認しながら、一つずつ籠に入れていった。


「豚肉、ナス、トマト......あとは何だっけ」


 紬が記憶を探っていると、背後から声がかかった。


「羽田さん......? 羽田紬さん?」


 振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。だが、十年の歳月は確かにその顔に刻まれていた。以前よりも引き締まった顎のライン、少し深くなった目の端の笑いじわ。それでも、あの優しい表情は変わらなかった。


「真鍋.....朔也くん?」


 朔也はにっこりと笑った。その笑顔に、紬の胸の奥で何かが震えた。


「やっぱり紬さんだ。噂には聞いてたけど、本当に帰ってきたんだね」


 朔也は買い物かごを片手に持ち、もう片方の手を軽く挙げた。カジュアルなTシャツとジーンズ姿だったが、大人の男性としての落ち着きがあった。


「ええ、昨日帰ってきたばかり」紬は少し緊張した声で答えた。

「東京の生活はどう?うまくいってる?」

「まあね。今は少し体調を崩して......休養中なの」


 朔也の顔に心配の色が浮かんだ。


「大丈夫?なんか深刻な......」

「いいえ、ただの過労よ。少し休めばすぐに良くなるわ」


 紬は軽く手を振って否定した。朔也の表情が少し和らいだのを見て、安心した。


「そっか。島の空気は東京と違うから、きっとすぐに元気になるよ」


 朔也の言葉には確信があった。紬はそんな彼の様子を見て、質問した。


「朔也くんは今、何してるの?」

「ああ、俺は今、家業を継いで宿と居酒屋をやってるんだ。知ってるでしょ、港の近くの『真鍋屋』」


 紬は頷いた。子供の頃、朔也の家の居酒屋でよく遊んだことを思い出した。


「そうなんだ......」

「よかったら、今度遊びに来ないか?昔の友達も時々集まるしさ」


 朔也の誘いに、紬は一瞬躊躇した。十年ぶりに再会した幼なじみ。かつての初恋の相手。そして今、目の前にいる大人の朔也。三つの異なる姿が重なって見えた。


「ありがとう。そのうち、行くわ」


 紬はそう言って微笑んだ。朔也も笑顔を返した。


「じゃあ、待ってるよ。今日は買い物があるから、これで失礼するね」


 朔也は軽く手を挙げて別れの挨拶をした。紬は彼の後ろ姿を見送りながら、なぜか胸の鼓動が速くなっているのを感じた。東京では忘れていた感覚。あるいは、忘れようとしていた感覚かもしれない。

夕食の席で、紬は朔也との再会について話した。


「真鍋君?あの朔也君か」母親は目を輝かせた。

「あの子、今じゃ立派な若旦那さんよ。お父さんが亡くなってから、一人で宿と店を切り盛りしてるんだから」

「お父さんが......」


 紬は驚いて声を上げた。朔也の父親は、紬の記憶の中では元気な大男だった。島の伝統的な踊りも得意で、祭りの時は必ず中心にいた人物だ。


「突然の病で、あっという間だった。三年前のことだ」父親が重々しく言った。


 紬は言葉を失った。彼女が島を離れている間に、こんな大きな変化があったなんて。そして朔也は、その後を継いで家業を支えていたのだ。


「それで今、あの店は朔也君が......」

「ああ。昔よりも洗練されたような雰囲気になったよ」父親は語る。

「若い観光客も増えてるみたいだし、朔也も新しいアイデアを取り入れてるんだろう」


 母親が茶碗にご飯をよそいながら付け加えた。


「でも変わらないのは、あの子の優しさね。お客さんにも地元の人にも、本当に丁寧なんだから」


 紬は黙って両親の話を聞いていた。朔也の姿が、少しずつ鮮明に浮かび上がってくる。かつての少年から、一人の大人の男性への変化。そして変わらない、あの優しさ。

 夕食を終え、紬は再び二階の自分の部屋に戻った。窓を開けると、潮の香りが流れ込んできた。夜の海は黒く、ただ月明かりだけが水面に反射していた。

 紬はベッドに横になり、スマートフォンを手に取った。東京の同僚からのメッセージがいくつか届いていた。


「元気?」

「療養は順調?」


 そんな心配の言葉が並ぶ。紬は簡単な返信を送り、画面を消した。

 天井を見つめながら、紬は考えた。今日のスーパーでの朔也との再会。十年ぶりというのに、なぜかどこか自然に話せたこと。そして、彼が口にした「遊びに来ないか」という言葉。

 紬は深くため息をついた。この島に戻るつもりはなかった。少なくとも、このタイミングでは。でも今、この島の空気を吸い、かつての友人と再会し、両親と食卓を囲む中で、紬は何かを取り戻しつつあるような気がした。

 東京での生活。追われるような毎日。それは紬が選んだ道だった。でも、そこには何か足りないものがあることに、彼女はようやく気づき始めていた。そしてそれは、この島のどこかにあるのかもしれない。

 窓の外から聞こえる波の音を聞きながら、紬はゆっくりと目を閉じた。明日は何をしようか。そうだ、久しぶりに島を散策してみよう。そして、もしかしたら......朔也の店にも顔を出すかもしれない。

 そう考えているうちに、紬は穏やかな眠りに落ちていった。十年ぶりの帰郷の夜。潮風が窓から入り込み、彼女の長い黒髪を優しく撫でていた。


* * *


 翌朝、紬は鳥のさえずりで目を覚ました。東京のアパートでは決して聞くことのない、穏やかな音色。窓から差し込む朝日が部屋を黄金色に染めていた。時計を見ると、まだ六時半。東京では考えられないほど早い起床だった。


「朝から元気ねぇ」


 階下に降りると、母親がすでに朝食の準備をしていた。豆腐とワカメの味噌汁、焼き魚、島の野菜の漬物。シンプルだが栄養満点の朝食だ。


「いつもこんな時間に起きてるの?」紬は驚いて聞いた。

「当たり前よ。東京にいると朝寝坊になるのねぇ」母親は冗談めかして言った。

「お父さんはもう畑に出かけたわよ」


 紬は黙って頷き、テーブルにつく。久しぶりの家庭の味に、無言で箸を進めた。


「今日は何をするつもり?」

「うーん、特に予定はないけど......」紬は一瞬考えて答えた。

「久しぶりに島を歩いてみようかな」


 母親は満足そうに頷いた。


「あんまり無理しないでね。昨日の話、朔也くんの店、行ってみる?」


 紬は母親の顔を見た。その表情には何か含みがあるようだった。


「お母さん、変な考えないでよ。ただの幼なじみでしょ」

「ふふ、何も言ってないわよ」


 母親は茶碗を片付けながら、小さく笑った。

 午前中、紬は島の中心部を歩いた。変わったものと変わらないものが混在している景色。新しい観光客向けのカフェやショップが増えた一方で、昔ながらの商店や神社は健在だった。

 海沿いの道を歩いていると、強い日差しに頭が少しくらくらとした。紬は日陰のベンチに腰を下ろした。


「やっぱりまだ体が弱ってるのかな」


 東京での過労が、まだ完全に回復していないのだろう。紬はスマートフォンを取り出し、現在地を確認した。ちょうど港の近くまで来ていた。ふと視線を上げると、少し先に「真鍋屋」の看板が見えた。

 心臓が少し早く鼓動するのを感じながら、紬はゆっくりとその方向へ歩き始めた。

 真鍋屋は昔より洗練された外観になっていた。伝統的な赤瓦の屋根は残しつつも、エントランスは現代的なデザインに変わっていた。「宿・居酒屋」と書かれた木製の看板が、入口の横にかかっている。

 ドアの前で立ち止まった紬は、一瞬躊躇した。本当に入っていいのだろうか。昨日の再会は偶然だったが、今日はわざわざ訪ねてきたことになる。それはどういう意味を持つのだろう。

 深呼吸をして、紬はドアを開けた。


「いらっしゃいま......あ、紬さん!」


 カウンターの向こうから、朔也の声が聞こえた。彼は黒いエプロンを着け、グラスを拭いていた。


「こんにちは、朔也くん。邪魔じゃなかったら......」

「全然!むしろ嬉しいよ。今ちょうど昼休みの時間だし」朔也は笑顔で迎えた。

「座って......何か飲む? 黒糖焼酎はどう?」

「ひ、昼間からお酒はちょっと......」

「冗談だよ、コーヒーでも出そうか!」


 紬は控えめに頷き、カウンター席に腰掛けた。店内は朔也と紬だけだった。昼間の居酒屋らしく、静かな空間が広がっていた。


「ここ、変わったね。でも懐かしい感じもする」


 紬は店内を見回しながら言った。木の温もりを感じる内装は昔のままだが、照明や調度品は現代的になっていた。


「三年前に少しリフォームしたんだ」朔也はコーヒーを入れながら説明した。

「観光客向けに宿の部分も充実させて、居酒屋も少し雰囲気変えたんだけど......やっぱり島の人たちにも来てもらいたくてね」


 コーヒーを紬の前に置きながら、朔也は続けた。


「体調はどう?」


 紬はコーヒーに口をつけ、少し考えてから答えた。


「少しずつ良くなってはいるかな。今朝は早起きできたし、午前中は歩き回ってたから」

「それは良かった」朔也は安心したように言った。

「無理しないことだよ」


 二人は他愛もない話をした。島の変化や、お互いの近況など。朔也は父親の死後、家業を継ぐために大学を中退して島に戻ってきたこと。最初は苦労したが、今では宿も居酒屋も軌道に乗っていることを話した。


「紬さんは、東京でエンジニアなんだよね?すごいじゃないか」

「別に......普通のフロントエンドエンジニアよ」紬は少し照れながら答えた。

「でも、最近は疲れちゃって......」


 朔也は黙って紬の言葉を待った。


「なんていうか、毎日同じことの繰り返しで......目標を見失ってる感じかな」


 紬は自分でも驚くほど正直に話していた。東京の同僚にも打ち明けたことのない本音が、自然と朔也の前では出てくるのだ。


「わかるよ」朔也は静かに言った。

「俺も最初の頃は毎日が闘いだった。父さんの跡を継いで、何もわからないまま店を切り盛りして......でも、ある時気づいたんだ」

「気づいた?」

「ああ。自分が何のためにこれをやってるのか。誰のためにこの店を守りたいのか。それがわかったら、少し楽になった」


 朔也の言葉に、紬は考え込んだ。自分は何のために東京で働いているのだろう。島を出た時の情熱は、今も残っているのだろうか。


「紬さん」朔也が話を変えた。

「よかったら、今度の夕方からうちの離れに泊まらない?実家も良いだろうけど、たまには環境変えたほうが気分転換になるかもしれないし」


 紬は驚いて朔也を見た。


「離れ?」

「ああ、宿の一番端にある部屋なんだ。少し特別で、長期滞在のお客さん用に作ったんだけど、今は空いてる。窓からは海が見えるし、静かだよ」



 紬は少し考えた。実家も良かったが、確かに環境を変えるのも悪くない。それに、朔也と過ごす時間が増えるかもしれない——その考えが浮かんだことに、紬は自分でも驚いた。


「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えようかな」


 朔也は満面の笑みを浮かべた。


「よかった!いつでも来てくれていいよ。今日からでも」


 その夜、紬は小さなバッグひとつを持って真鍋屋の離れに移った。両親には「友達の宿に数日泊まる」と伝え、特に反対されることもなかった。むしろ母親は「朔也くんのところ?」と意味ありげに聞いてきたくらいだ。

 離れは、朔也の説明通りに素敵な場所だった。宿の本館から少し離れた一室で、小さなテラスには椅子とテーブルが置かれている。室内は和室と洋室の融合したデザインで、窓からは確かに海が見えた。


「どう?気に入った?」朔也は部屋の中央に立ち、少し緊張した様子で聞いた。

「素敵ね、ここ」紬は心から言った。

「こんなところに泊まれるなんて」


 朔也の部屋は本館の二階にあった。店の営業が終わった後、紬は朔也に案内されてそこへ向かった。

 朔也の部屋は、彼らしく整然としていた。本棚には経営の本や島の歴史に関する書籍が並び、壁には島の風景の写真がいくつか飾られていた。


「座って」朔也はテーブルを指さした。

「あ、これ出そうか」


 彼は棚から瓶を取り出した。黒糖焼酎だった。


「飲む?」

 

 紬は少し躊躇した後、頷いた。

 朔也は二つのグラスに焼酎を注ぎ、氷と水を足した。その動作が慣れていて、紬は彼が立派な大人になったことを改めて実感した。


「久しぶりだね、これ」

「乾杯」朔也はグラスを軽く掲げた。

「紬さんの帰郷を祝って」

「ありがとう」紬もグラスを合わせた。


 黒糖焼酎の甘い香りと、喉を通る際の暖かさ。紬は目を閉じて、その感覚を味わった。


「懐かしい味」

「そうだろう? 島の味だよ」朔也は微笑んだ。

「東京じゃ、なかなか本物の味は飲めないだろうしね」


 二人は焼酎を飲みながら、静かに話をした。朔也は店の話や島での暮らしについて語り、紬は東京での生活や仕事のことを話した。


「実は......」紬は少し酔いが回ってきたのを感じながら言った。

「島を出てから、一度も帰ってこなかったの」


 朔也は黙って頷いた。


「知ってたよ」

「え?」

「島の人たちの噂話って、すぐに広まるからね」朔也は柔らかく笑った。

「紬さんのお母さんからも聞いていたし」


 紬は恥ずかしくなって視線を落とした。


「ごめんね......なんか、帰りづらくて」

「気にしないで。誰にだって理由があるさ」朔也はグラスを回しながら言った。

「俺も、一時期は島を出るつもりだったんだ」

「そうなの?」

「ああ。福岡の大学に行って、そのまま福岡で就職するつもりだった。でも父さんが......」


 朔也の声が少し詰まった。


「まあ、運命ってやつかな」


 紬は朔也の表情を見つめた。彼の顔には後悔の色はなく、ただ受け入れたという静かな諦念があった。


「朔也くんは......幸せ?」


 突然の質問に、朔也は少し驚いたように紬を見た。


「幸せか......」彼は空のグラスを置き、考え込むように言った。

「幸せだと思う。毎日忙しいけど、やりがいはあるし、大切な人たちも近くにいるから」


 紬は「大切な人たち」という言葉に、なぜか胸が締め付けられるのを感じた。


「彼女とかは......いるの?」


 言ってから、紬は自分の問いに驚いた。なぜこんな質問をしたのだろう。だが、朔也は特に驚いた様子もなく答えた。


「いないよ。忙しくて、なかなかそういう時間が取れなくてね」彼は軽く笑った。

「紬さんは?東京に彼氏とか......」

「私も同じよ」紬は即答した。

「仕事が忙しくて......」


 二人は互いの目を見つめ、何故か同時に笑い出した。どこか滑稽だった。二人とも仕事を言い訳にしている。でも、本当はそれだけではないことを、互いに感じていた。

 焼酎の瓶が半分ほど空になった頃、紬は少し頭がくらくらしてきた。


「そろそろ戻ろうかな」彼女は言った。

「明日も色々歩き回りたいし」

「そうだね。送っていくよ」朔也は立ち上がった。


 離れまでの短い道のりを歩きながら、二人は肩が触れそうなほど近くにいた。夜の潮風が心地よく頬を撫でていく。

 離れの前で立ち止まると、朔也は言った。


「明日の夕方も、よかったら一緒に飲まない?店が閉まった後で」

「うん、喜んで」紬はすぐに頷いた。

「じゃあ、おやすみ」朔也はドアの前で軽く手を振った。

「おやすみなさい」紬も手を振り返した。


 部屋に入り、ベッドに横になると、紬の頭の中は朔也との会話でいっぱいだった。黒糖焼酎の余韻と彼の声の響き。そして、なぜか胸の奥でくすぶる、懐かしくも新しい感情。

 窓からは満月が見え、その光が部屋を銀色に染めていた。紬は目を閉じ、潮風と焼酎の香りに包まれて、穏やかな眠りに落ちていった。


* * *


 それから一週間が過ぎた。紬は毎日、島のあちこちを散策したり、時には海に入ったりして過ごしていた。体調も徐々に回復し、顔色も良くなっていた。そして毎晩、朔也の部屋で黒糖焼酎を飲みながら語り合うのが、二人の習慣になっていた。

 東京での生活のこと、中学時代の思い出、互いの夢や挫折。話題は尽きることがなかった。時には朔也の店の常連客も交えて賑やかな夜を過ごすこともあったが、紬が一番好きだったのは、二人きりでゆっくりと語り合う時間だった。

 その日は朝から雨が降っていた。梅雨の本格的な到来を告げるような、しとしとと降り続ける雨。紬は離れの窓から外を眺めながら、東京のオフィスに戻る日が近づいていることを考えていた。

 スマートフォンには上司からのメッセージが届いていた。


「そろそろ復帰を検討してはどう? 新しいプロジェクトが始まるから」


 紬はため息をついた。療養のための一時帰郷のはずだったが、気がつけば島の生活に馴染んでいた。朔也との時間も、心地よい日常になっていた。

 その夜も、いつものように朔也の部屋で焼酎を飲んでいた。雨の音が窓を叩き、部屋の中は普段より静かな雰囲気に包まれていた。


「明後日、東京に戻るつもりなの」


 紬は突然切り出した。朔也はグラスを持つ手を止め、紬を見た。


「そうか......もう二週間か」

「うん。あっという間だったね」


 沈黙が二人を包んだ。雨の音だけが、静かに時間の流れを告げていた。


「元気になった?」朔也が聞いた。

「ええ、だいぶ」紬は微笑んだ。

「島の空気のおかげかな」

「それは良かった」


 朔也も微笑み返した。しかし、その笑顔の奥に何か言葉にできない感情が隠れているように紬には感じられた。


「朔也くん」紬は焼酎のグラスを手に取りながら言った。

「あの頃、あたしたちって何だったのかな」


 部屋の空気が一瞬凍りついたように感じられた。朔也は紬の目をまっすぐに見つめた。


「何って......友達だったじゃないか」

「ただの友達?」

「いや、それは......」朔也は言葉を選ぶように躊躇した。

「特別な友達だったと思うよ」

「特別な友達ね......それってどういう意味かな」紬は微かに笑った。

「紬さん」朔也は真剣な表情になった。

「今さらそんなこと聞いて、何になるの?」

「知りたいだけ」紬は正直に答えた。

「十年前、私が島を出る時、言い残したことがあるような気がして......」


 朔也は深く息を吸い、焼酎を一気に飲み干した。


「床に座ろうか」彼は突然言った。

「昔みたいに」


 紬は少し驚いたが、頷いて畳の上に座った。朔也も紬の隣に座り、焼酎の瓶を持ってきた。

 二人は肩が触れるほど近く、壁に背をもたれかけて座った。中学時代、朔也の家で勉強した後、よくこうして隣に座って話をしたものだった。


「覚えてる?」朔也が言った。

「最後の夏祭りの夜」


 紬は頷いた。十代だった彼らが、島を出る直前の夏祭り。浴衣を着て、提灯の明かりの下で歩いた夜。


「覚えてるわ」紬は静かに答えた。

「あの夜、朔也くんは私の手を握ってくれた」

「ああ」朔也は少し照れたように笑った。

「でも、何も言えなかったんだよな......俺」

「私も」紬は呟いた。


 焼酎の香りと湿った空気が部屋に満ちていた。雨の音が、二人の心臓の鼓動と同調しているかのようだった。


「実は怖かったんだ」朔也が突然言った。

「怖かった?」

「ああ」朔也は天井を見つめながら続けた。

「紬さんのことが怖かった。あんなに輝いていて、夢に向かって突き進んでいく紬さんが......俺みたいな、何も決められない島の男に縛られるのが嫌だった」


 紬は息を飲んだ。朔也の告白に、胸が痛むような感覚を覚えた。


「私は......朔也くんに引き止められたかったのかも」紬は小さな声で言った。

「でも、何も言ってくれなかったから......それが答えなのかなって思った」


 朔也は紬の方を向いた。その目には、十年分の想いが詰まっているようだった。


「タイミングが悪かったんだな」

「そうね......」紬も朔也を見つめ返した。


 二人の指先が畳の上で触れた。小さな接触だったが、電流が走るような感覚だった。朔也がゆっくりと指を紬の指に重ねる。紬も指を動かし、二人の手が自然と絡み合った。


「今は?」紬が囁いた。

「今は、怖くない?」


 朔也は答える代わりに、紬の方へ身を寄せた。彼らの顔が数センチの距離まで近づく。紬は朔也の呼吸を感じることができた。黒糖焼酎の甘い香りと、朔也特有の清潔な香り。

 目が合う。朔也の瞳に、紬は自分自身の姿を見た。そして彼の目に映る感情を読み取った——憧れ、懐かしさ、そして何より、深い愛情。

 朔也の手が紬の頬に触れた。やわらかく、しかし確かな存在感を持つ手。紬は無意識のうちに目を閉じた。

 だが、予想していたキスは来なかった。


「できない」朔也は苦しそうに言った。


 紬は目を開けた。朔也の表情には葛藤が表れていた。


「なぜ?」

「紬さんはまた東京に戻る」朔也は紬の手を握りながら言った。

「そして俺はここにいる。十年前と何も変わらない」


 紬は言葉を失った。確かに朔也の言う通りだった。状況は十年前と変わっていない。むしろ、今の彼女には島を出る理由がさらに増えていた——東京での仕事、キャリア、築き上げてきた生活。


「でも......」紬は言いかけたが、言葉が続かなかった。


 朔也は優しく微笑んだ。


「焦らなくていいよ。紬さんが島にいる間、こうして一緒に過ごせるだけで幸せだ」


 その言葉に、紬の目に涙が浮かんだ。なぜ泣きたくなるのか、自分でもわからなかった。懐かしさのため?朔也の優しさのため?それとも、自分がどうしたいのかわからないもどかしさのため?


「朔也くん......」


 紬は彼の名前を呼ぶだけで精一杯だった。朔也は紬の涙を親指で優しく拭った。


「ごめん、変なこと言って」彼は申し訳なさそうに言った。

「ううん」紬は首を振った。

「朔也くんの言うとおりよ。私たち、どっちも逃げてるのかもね」

「そうかもしれない」朔也は小さく笑った。


 二人はしばらくそのまま、肩を寄せ合って座っていた。言葉を交わさなくても、何かが通じ合っているような心地よい沈黙。


「もう遅いね」やがて紬が言った。

「そろそろ戻るわ」


 いつものように朔也は紬を離れまで送った。雨は小降りになっていたが、まだ続いていた。二人は一つの傘を共有し、濡れた道を歩いた。

 離れの前で立ち止まると、朔也は言った。


「明日は店が忙しいかもしれないけど、最後の夜はゆっくり話そう」

「うん」紬は笑顔で答えた。


 部屋に入ると、紬はベッドに倒れ込むように横になった。天井を見つめながら、今日の出来事を思い返す。朔也との触れ合い、彼の言葉、そして彼の戸惑い。

 紬は自分の胸の内を探った。朔也に対して何を感じているのか。十年前の初恋の名残なのか、それとも新しい大人の感情なのか。そして何より、自分は本当に東京に戻りたいのか?

 雨の音を聞きながら、紬は考え続けた。答えはまだ見つからなかった。ただ一つだけ確かなことは、明日が彼女の決断の日だということ。東京に戻るか、それとも......。

 その夜、紬は長い間眠れなかった。


* * *


 朝、紬は早くに目を覚ました。窓から見える空は、昨日の雨が嘘のように晴れ渡っていた。青い海が朝日を反射して輝いている。

 紬はスマートフォンを手に取り、東京の上司に明日戻ることを確認するメールを送った。荷物をまとめる時間は十分にある。でも、その前にやらなければならないことがあった。

 朝食を軽く済ませた後、紬は宿の方へ向かった。朝早くから営業している食堂では、朔也が忙しそうに働いていた。彼は紬を見つけると、笑顔で手を振った。


「おはよう!よく眠れた?」

「うん、まあね」紬は少し嘘をついた。実際は一睡もできなかったに近かった。

「今日は忙しいの?」

「ああ、団体客が入ってるんだ」朔也は申し訳なさそうに言った。

「でも夕方には落ち着くから、約束通り最後の夜はゆっくり話そう」

「わかった。じゃあ、私は今日実家に行ってくるわ。荷物も取りに行かないといけないし」

「了解。じゃあ、また後でね」朔也は忙しなく立ち去った。


 紬は彼の後ろ姿を見送りながら、心の中でつぶやいた。


「朔也くん、今日話したいことがあるの......」


 実家では、両親が紬の帰りを歓迎してくれた。東京に戻ることを聞いた母親は少し残念そうな顔をしたが、「また来るでしょ?」と優しく言った。

 部屋で荷物をまとめながら、紬は窓から見える風景を目に焼き付けようとした。子供の頃から見てきた海と山。この景色を、彼女はどれだけ恋しく思ってきたのだろう。

 荷物をまとめた後、紬は父親と二人で庭に出た。父親は黙々と植木の手入れをしていた。


「お父さん」紬は静かに声をかけた。

「質問してもいい?」

「ん?なんだ?」父親は手を止めずに答えた。

「お父さんは、島を出たいと思ったことはある?」


 父親は作業を止め、紬の方を向いた。彼は深く息を吸い、考え込むように空を見上げた。


「そりゃあ、若い頃はあったさ」彼はゆっくりと言った。

「特に、お前のお母さんと結婚する前はな。大きな町で仕事をして、いろんなものを見てみたいと思ったこともあった」


 紬は驚いた。父親がそんな気持ちを抱いていたとは知らなかった。


「でも、結局出なかったのね」

「ああ」父親は再び植木の手入れを始めた。

「島に残ることにした。理由はいろいろあるが......一番は、ここに自分の居場所があると感じたからだな」

「居場所......」紬はその言葉を反芻した。

「つむぎ」父親は真剣な表情で紬を見た。

「大事なのは、自分がどこにいて幸せを感じるかだ。東京でも、ここでも、どこでもいい。ただ、自分の心に嘘をつくな」


 その言葉は、紬の胸に深く響いた。自分の心に嘘をつかない。それは簡単なようで、とても難しいことだった。


「ありがとう、お父さん」


 紬は父親の背中を見つめながら、自分の本当の気持ちと向き合おうとしていた。

 夕方、紬は再び真鍋屋に戻った。約束通り、朔也は店の営業を終え、二人きりの時間を作ってくれていた。


「お疲れ様」紬は朔也の部屋に入りながら言った。

「お帰り」朔也は微笑んだ。

「今日も飲む?最後の夜だし」


 紬は頷いた。いつものように黒糖焼酎が注がれ、二人は向かい合って座った。


「荷物は全部まとめた?」朔也が聞いた。

「うん、ほとんど」紬は少し曖昧に答えた。


 静かな沈黙が流れた後、朔也が口を開いた。


「実は......言わなきゃいけないことがあるんだ」


 紬は驚いて朔也を見た。「何?」

 朔也は焼酎を一口飲み、深呼吸をした。


「あのとき、紬さんが東京に出た理由......俺、知ってたんだ」

「知ってた?何を?」紬の心臓が早鐘を打った。

「紬さんが俺に好意を持っていたこと。そして、俺が何も言わなかったから、傷ついて島を出たことを」


 紬は言葉を失った。朔也はそのことを知っていたのか。彼女の初恋と、その痛みを。


「どうして......知ってたの?」

「みんな知ってたよ」朔也は苦笑した。

「島の子どもなんて、そんなもんだ。みんな噂してた」

 紬は恥ずかしさと驚きで顔が熱くなるのを感じた。


「それで?なぜ何もしなかったの?」


朔也は視線を落とした。


「さっきも言ったけど......俺は怖かったんだ」彼は静かに言った。

「紬さんのことが、怖かった」

「私のことが......?」

「ああ」朔也はまっすぐに紬の目を見た。

「紬さんは当時から輝いていた。頭も良くて、夢もあって。俺なんかとは全然違う世界の人だと思ってた」


 紬は息を呑んだ。朔也の告白に、胸が締め付けられる思いだった。


「私は......」

「俺にとって紬さんは、届かない星みたいな存在だった」朔也は続けた。

「だから、何も言えなかった。紬さんの邪魔をしたくなかったんだ」

「そんな......」紬は声を詰まらせた。

「私はただ......朔也くんに好きだと言ってほしかっただけなのに」

「わかってる」朔也は苦しそうに笑った。

「今ならわかる。でも、あの頃の俺にはそれができなかった」


 二人は沈黙の中、互いの目を見つめ合った。過去の誤解と痛みが、今ようやく言葉になって解き放たれるのを感じた。


「紬さん」朔也が静かに言った。

「明日、東京に戻るんだよね」

「ええ......」紬は言いながらも、自分の心に確信が持てないのを感じた。

「俺は......」朔也は言葉を探すように間を置いた。

「もう、怖くないよ」

「どういう意味?」紬は息を飲んだ。

「十年前と違って、今の俺は自分の気持ちをはっきり言える」朔也は真剣な表情で言った。

「紬さん、俺はずっと......あなたのことが好きだった」


 その言葉に、紬の目から涙がこぼれ落ちた。十年間待ち続けた言葉。でも今、その言葉を聞いて、紬は何を感じるべきなのか混乱していた。


「朔也くん......」

「無理にとどまれとは言わない」朔也は急いで付け加えた。

「紬さんには紬さんの人生がある。でも、俺の気持ちだけは伝えておきたかった」


 紬は涙を拭いながら、朔也をまっすぐに見た。


「私も......ずっと、朔也くんのことが好きだった」彼女は静かに言った。

「十年経っても、その気持ちは変わらなかった」


 紬はゆっくりと頷いた。彼女の心はすでに決断していた。父親の言葉、朔也の告白、そして何より自分自身の気持ち——すべてが一つの方向を指し示していた。


「実は......」紬は小さな声で言った。

「今日、東京の会社に連絡したの」

「え?」

「長期休暇をもらえないか相談したの。もし無理なら......退職も考えてると」

「それって......」朔也は驚いて紬を見つめた。

「ええ」紬は微笑んだ。

「もう少し、島にいようと思って」


 朔也の顔に喜びが広がった。彼は思わず紬の手を取り、強く握った。


「本当に? 無理しなくていいんだよ?」

「無理なんかしてないよ」紬は自信を持って言った。

「むしろ、久しぶりに自分の心に正直になった気がする」


 二人は互いの目を見つめ合い、長い間培ってきた距離が、一瞬で溶けていくのを感じた。朔也がゆっくりと紬に近づき、彼女の頬に触れた。

 今度は、紬が朔也の唇に自分の唇を重ねた。十年間待ち続けたキス。黒糖焼酎の甘い香りが混じる、優しくも情熱的なキスだった。


 三ヶ月後、紬は正式に東京の会社を退職し、奄美大島に移り住んだ。朔也との関係は順調に進み、真鍋屋のウェブサイト制作や予約システムの構築を手伝うなど、彼女のエンジニアとしてのスキルを島でも活かす道を見つけていった。

 一年後の夏祭りの夜、提灯の明かりの下で朔也は紬にプロポーズした。同じ場所、同じ祭りで、十年前には言えなかった言葉を、今度ははっきりと口にしたのだ。

 結婚式は島の伝統的なスタイルで行われた。朔也の宿には親戚や友人、そして島の人々が集まり、二人の門出を祝った。

 紬の母親は、娘の耳元でささやいた。


「やっと、あの子と結ばれたね。おめでとう」


 紬は微笑みながら頷いた。


「ずいぶん遠回りしたけど......やっと辿り着いた気がするわ」


 夕暮れ時、二人は海辺に立ち、沈みゆく太陽を眺めていた。紬は朔也の肩に頭をもたせかけ、彼の腕の中で安らぎを感じていた。


「東京の生活を捨てて、後悔してない?」朔也が聞いた。

「今の生活が楽しいのか聞いてみたくて」

「全然」紬は首を振った後、朔也を見上げた。

「ここに私の居場所があったのよ。ずっと」


 朔也は優しく微笑み、紬を抱きしめた。潮風が二人の周りを舞い、波の音が静かに響いていた。かつての少年少女が、大人になって再び出会い、そして結ばれた物語。

 月が昇り、星が輝き始める頃、二人は真鍋屋へと戻っていった。これから始まる新しい人生への第一歩を踏み出すために。

 そして夜、二人は黒糖焼酎を飲みながら、未来について語り合った。もう二人は怖れることなく、互いの目を見つめ、手を握り合うことができた。十年という時間を経て、ようやく完成した愛の物語。

 潮風の香りに包まれたその夜は、二人にとって永遠の思い出となった。

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潮騒の夜 木村希 @kimurakkkkk

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