サラリーマンと月夜の蛍

夕日ゆうや

サラリーマンと月夜の蛍

 残業残業残業!

 俺は100時間を超える残業の嵐で精神を病んでしまった。

 重度のうつ病を患い、妻のリナの勧めで退職。

 何もしないまま、貯蓄を切り出す毎日。

 このまま死んだ方がマシなんじゃないか。

 ふとそんな疑問が浮ぶ。

 なんの役にも立たずに、浪費する。それがこうも苦痛だと実感したのは、あの事故以来か。

 老いたものだ。

 酒を片手に空に浮かぶ月夜を眺める。

 そういえば、リナは蛍が好きだったな。

 スマホ片手に近場の蛍を探しに山奥に向かう。

「いないな……」

 昔は蛍なんてどこにでもいたのに。

 月夜の蛍はサラリーマンと同じく絶滅してしまったのだろうか?

 小川に辿り着くと宙を舞うまばゆい光が視界に飛び込んできた。

 リナ。

 ああ、カナミ。

 愛しい人の名前を呼び、直感的にここが三途の川と知る。

 妻と子に出会えるなら、こんな嬉しいことはない。


 世界は虹に包まれていた。

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サラリーマンと月夜の蛍 夕日ゆうや @PT03wing

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