『梅雨なんて、効かないし』《ボイッシュで武闘派な女子》

雨が降る。

ぬるくて、だらけた風が吹いて、空は曇ってて。

まるで、気持ちまで湿ってくるような、そんな季節だ。


……でも、だからって手を止める理由にはなんねぇだろ。


梅雨? うざいよ、正直。

道場の床は滑るし、稽古着は乾かねぇし。

気合い入れて動いたって、汗なのか雨なのか分かんねぇし。


それでも、やるしかねぇ。


だって、あたしはあたしの道を進むだけだから。


雨の日ってのは、外じゃあんま人気もねぇし、

グラウンドも使えないし、ジムも混んでるし、

だから、ちょっと工夫するしかない。


家で自主トレ。

自重トレから始めて、シャドー、階段ダッシュ、腹筋百回。

ベランダに出れば、雨に打たれながらの蹴り込み。

別に、びしょ濡れになったっていい。

自分の限界が、少しでも超えられるなら──梅雨も、悪くねぇ。


……ふふっ、なんてね。

今の、ちょっとカッコつけすぎたかな。

でもさ、ホントにそう思ってるよ。


この時期ってさ、たぶん誰でもちょっとだけ弱くなるんだと思う。

天気のせいにして、自分に甘くなったり、サボったり。

言い訳するには、ちょうどいい季節だよな。


でも、そこをどうするかが分かれ道。

あたしは、負けたくない。

誰かにじゃなくて、昨日の自分に。


梅雨は、空が泣いてるみたいでさ。

なんか、いつもより静かに、自分の声が響いてくる。

ふだんは気にしないようなことも、

「これでいいのか?」とか「何やってんだろ」とか、

ぐるぐる考えちまう時もある。


けど、そんなときこそ、身体を動かす。

腕が痛くなっても、膝が笑っても、

自分の「やりたい」って気持ちはブレちゃいけねぇって思うんだ。


そりゃ、雨の日に走ってりゃ、変な目で見られるよ。

でもさ、「何が楽しくてそんなに頑張ってるの?」って言われたとき、

「楽しいからだよ」って笑えるヤツになりてぇんだよ。


あたし、思うんだよね。

梅雨ってのは、いわば試されてる季節なんじゃないかって。


太陽がない。道も濡れてる。風も湿ってる。

けど、それでもお前は、やるのか?って。

そこを進めるかどうかで、本当に“強く”なれるかが決まるんじゃねぇかって。


雨の音、好きだよ。

耳をすませば、リズムがある。

それに合わせて、拳を打つ。蹴りを打つ。

ただそれだけで、なんか心が落ち着くんだ。


……そういえば。

あいつも、言ってたな。


「お前って、雨の日も変わらないよな」って。


当たり前だろ。

天気なんかに、あたしの人生、左右されたくない。


でも、そんなふうに言ってくれたの、ちょっと嬉しかったんだ。

ちゃんと見てくれてんだな、って。

あいつは鈍いけど、たまにそういう大事なとこ、分かってる。


だから、もし今度また雨が降ったら。

傘を差さずに、あいつと並んで歩いてみてもいいかなって、ちょっとだけ思う。

バレたらからかわれそうだけど。

……まあ、それも悪くないか。


さて、明日もきっと雨だろう。

でも、あたしは動く。止まらねぇ。

雨が降ってようが、風が吹こうが、関係ねぇ。


だってあたしは、拳で未来を切り拓くって決めたから。


梅雨なんて──効かないし。

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