『べ、別に雨なんて、嫌いじゃないしっ』《ツンデレ女子》

 ……はあ? なによ、「梅雨の詩を書いてください」って。

 そんなの、べ、別にあたしがやることじゃないでしょ?

 だいたい、雨なんてうざいし。髪はうねるし、制服は湿っぽくなるし、好きな靴は履けないし。

 この前なんて、せっかく巻いた前髪が教室ついた瞬間、ボンって爆発したんだから!信じらんない!


 ……って、思ってた。ずっと前はね。


 でも、最近ちょっとだけ変わったの。

 別にキッカケとか、たいしたことじゃないけどさ──

 あんたと一緒に、雨宿りした日があってさ。


 駅のちょっとした柱の陰、びしょ濡れになって、ふたりとも無言で。

 あんたは「タオル、あるよ」って、鞄から差し出してくれたけど、あたしは「は? べ、別にいらないし!」って突っぱねて。

 ……でも、そのあと、くしゃみしちゃって。


 ……わらうなっつってんでしょ!! バカ!!


 あの日の雨はさ、ちょっとだけ、優しかった。

 冷たいはずなのに、なんかあったかかった。

 びしょびしょになったシャツの隙間から、あんたの体温が伝わってきたから? いや、違うし!そんなの関係ないし!


 でも……それからだな。

 雨の日でも、ちょっとだけ外に出るのが、イヤじゃなくなったのは。


 ねぇ知ってる?

 雨ってさ、音がすごく静かにしてくれるの。

 街の音も、人の声も、全部が一枚のフィルター越しになったみたいで、あたしの声だけが、聞こえるみたいな気がする。

 ほら、あんたってよく人の話聞いてないから、こういう静けさって、ちょうどいいのよ。


 ……ほんとは、あたしのこと、もっと見てほしいって思ってるけど。

 いや、だからって別に、特別な意味とかじゃなくて!

 その……べ、べつにその……「嫌いじゃない」ってだけで、なによその顔!


 ──雨の日って、ちょっとしたウソが言いやすい。

「寒くない」って言いながら、ちょっとだけ腕を組んでみたり、

「傘、忘れた」って言って、相合い傘したり。

 そういうの、バレないようにできるじゃん?あたしって、演技うまいから。


 だけどね、ホントはウソつくの、ちょっと疲れる。


 雨が続く季節って、気分まで湿っぽくなるって、よく言うけど。

 あたしにとっては、逆なのかも。

 雨の日のほうが、少しだけ、素直になれる。


 あんたが「雨、嫌いだなー」って言ったとき、あたしは「は?じゃあ外出んな」って返したけど、

 心の中では「一緒にいてやってもいいよ」って、叫んでた。


 梅雨ってさ、なんか恋に似てる。

 急に降ってきて、戸惑って、でも傘なんかじゃ全部は防げなくて。

 気づけば、髪も服も、心も、ぐしゃぐしゃになってる。


 でも、その雨が止んだとき。

 雲の向こうからちょっとだけ、陽が差してきた瞬間。

 あたし、思ったの。


 ……あんたの笑った顔、ちょっとだけ、まぶしかったって。


 だから、梅雨。

 べ、別に嫌いじゃない。


 たまには、雨の中で泣いたっていいし。

 好きな人と濡れたまま、並んで歩いたっていいし。


 ──あんたが隣にいるなら、ね。


 ……あーーーー!やっぱ今のナシ!!忘れて!!

 なに、記録してんの!?ばか!!おぼえてろー!!!

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